【アニュアルレポート2024】「割れ」の生じにくい製材・集成材の生産方法について考える
「割れ」の生じにくい製材・集成材の生産方法について考える
講師 石原 亘
目的
伝統的な木造建築の場合、柱や梁の構造材(主には無垢材(以下、製材))は「あらわし」で使用されることが多い。また、昨今では、主に集成材を構造材とする中大規模の非住宅木造建築が増えてきているが、こうした建物においても、木質感を演出するために、構造材を「あらわし」で使用する例は多い。
こうした構造材の「あらわし」利用において、材料の表面割れ(以下、「割れ」)の発生は、美観上できる限り避けたいところである。そこで、「割れ」が生じにくい製材・集成材の生産方法について研究を行った。また、研究と関連して、木材の生産に関わる技術、すなわち「製材」と「乾燥」について、積極的に教育現場に取り入れることを試みた。
概要
◆「高温セット」のアレンジ
樹心(髄)を有する製材(心持ち材)は、乾燥時に必ず割れが生じる。これを防ぐ技術として、2000年代以降、高温セット(乾燥初期において、高温・低湿度で乾燥を行い、表面割れの発生を抑制する処理)を用いた人工乾燥が盛んに実施されている。既に、国内の主要針葉樹材においては、高温セットを用いた人工乾燥時のタイムスケジュール(乾燥スケジュール)について、標準的なマニュアルが作成されている。
しかし、過度(高温度・長時間)の高温セットは、樹種によっては強度性能や耐朽性が低下したり、材色が褐色化するデメリットがある。また、高騰する燃料費を節約する観点からも、高温セット時の条件(温度・時間)をできる限り緩和させることが望ましい。
そこで、授業「木材学入門」や実習「自力建設(製材)」を通じて、高温セットの時間をどの程度まで短縮が可能なのかを検討した(写真1,写真2)。その結果、(岐阜県の主要樹種である)ヒノキにおいては、曲がりや丸身の大きな製材を除けば、高温セットの処理時間を標準的なスケジュールの半分程度(8時間)にしても、表面割れの発生に大きな影響がでないこと、材色の変化もある程度は抑制できることが分かってきた。今後は、原木の欠点(曲がり、節の多寡など)や製材方法が、高温セットのしやすさにどの程度まで影響をするのか検証をしていきたい。
写真1 人工乾燥に触れる(授業「木材学入門」)
写真2 短時間の高温セットを行ったヒノキ製材
◆「割れ」の生じにくい集成材の製造条件を探る
寒冷地(県内で言えば飛騨地方)の冬季においては、暖房時に室内外の気温差が大きくなるため、室内は著しい低湿度環境になることも多い。特に中大規模の非住宅木造建築の場合は加湿の難しい大空間があるため、その傾向が顕著である。非住宅木造建築において主力の構造材である集成材は、製材に比べて割れが生じにくいとされているが、こうした環境下においては供用中に割れが発生してしまう(写真3)。そこで、低湿度環境環境下においても「割れ」が生じにくい集成材の製造条件について、前職(北海道立総合研究機構・林産試験場)勤務時から現在まで継続的に研究している。
この誌面では研究内容の詳細については割愛するが、結論すると、①原料であるラミナ(挽き板)において、心持ち材(あるいは、年輪の曲率が著しく大きい材)の使用を避け、②欧州規格(EN)に記載されているラミナの積層方法を採用することで、「割れ」の生じにくい集成材が製造できることが明らかになった(図1)(活動成果発表01)参照)。また、上記の条件(①および②)を満たしていれば、集成材製造時のラミナの含水率は、12%程度(国内の製造現場における一般的な水準)であれば割れの発生に影響しないことを示した(活動成果発表02)参照)。
写真3 集成材に生じる「割れ」の例
図1 「割れ」の生じにくい集成材の製造条件をまとめると・・・
◆今後の研究方針
一連の研究を振り返ると、木材の乾燥技術について考える場合、水分のコントロール以外の要素にも着目する必要があることが分かる。特に、木取りを含めた製材技術との関連性は深いと思われるが、これまでに両者をリンクさせた研究はほとんど行われていない。
次年度以降は、「乾燥」と「製材」、もう一歩足を延ばして、これらの前段階である原木生産(すなわち「伐採」)との関係性にも気を回しながら研究を進めていきたい。
◆「製材」と「乾燥」を教育現場に
昨今、SDGsの観点から、木造建築に“追い風”が吹いているように思える。大学の工学部などで、木造建築を扱うことも珍しくなくなってきた。しかし、その根幹となる木材の学理について探求する場、あるいはそれに関係する技術について研鑽する場は、その風に乗じて増えているようには思えない。
特に、木材産業の始点となる「製材」と「乾燥」については、設備的な制約もあり、林学・林産学を扱う高等教育機関であっても深く触れることは稀である。
幸いなことに、本学は敷地内に製材機と木材乾燥機(所有は岐阜森林研究所)を備えており、 「製材」と「乾燥」について体験を通じて学ぶことができる。この貴重な場を最大限に活用することを念頭に、本年度は学生に人工乾燥について考える時間を増やしたり、製材時に木取りを考える時間を設けた(写真4)。研究のみならず、「製材」と「乾燥」に関する知見を磨く場をしっかりと整えていきたい。
写真4 実習にて「大径材の木取り」を考える(実習「自力建設(製材)」)
教員からのメッセージ
北海道立林業指導所(北海道立総合研究機構・林産試験場の前身)の初代所長を務めた小滝武夫先生は、「今後は林業と林産業はそれぞれ独立の産業であるという観念はすてるべきである。このふたつは一体である。すなわち森林産業(フォレスト・ビジネス)として考えるべきである(「林産試験場の二十年」北海道立林産試験場刊行、1970)」と著しています。残念ながら、それから50年以上を経過した現在においても、林業と林産業の距離が大幅に縮まりフォレスト・ビジネスの考え方が定着した、という印象はありません。
森林文化アカデミーはその敷地の中で、樹木の伐採から木材生産、木材加工、強度試験機による性能評価、授業(木造建築専攻の自力建設プロジェクト、木工専攻の実習等)を通じた木材利用までを行うことができます。本文中でも触れましたが、これは全国の林学・林産学を扱う高等教育機関の中でも稀有な例であり、小滝先生のいうフォレスト・ビジネスについて勘考するには最適の環境です。
とりわけ、木材における「製材」と「乾燥」は、木材産業(≒林産業)の始点であり、フォレスト・ビジネスの中でも極めて重要な位置にあるといえます。両者をいかに林業の視点と結び付けていくか、またそれをどのように人材育成(教育)につなげていくべきか、私自身も学びを深めながら挑戦していきたいと思います。―フォレスト・ビジネスの半世紀越しの結実を夢見ながら。
活動期間
2024年度
連携団体
(研究・教育機関)
◆北海道立総合研究機構 森林研究本部 林産試験場
◆北海道大学大学院 農学研究院
活動成果発表
(学会発表・論文)
01) 石原亘、村上了、土橋英亮、宮﨑淳子、大橋義徳、高梨隆也:割れが生じにくいカラマツ構造用集成材の試作、日本木材加工技術協会第42回年次大会(京都)講演要旨集、pp78-79 (2024).
02) 石原亘、土橋英亮、宮﨑淳子、大橋義徳:欧州規格に則して積層した構造用集成材においてラミナの含水率が乾燥割れに及ぼす影響、第75回日本木材学会大会研究発表要旨集、E20-04-1015 (2024).
03) 高梨隆也、宮﨑淳子、石原亘、土橋英亮、大橋英亮:乾燥条件がカラマツの性状に及ぼす影響(第5報)乾燥温度とラミナの曲げ性能の関係、木材工業80号№1、pp17⁻22 (2025).
(その他著作物)
04) 石原亘:北海道産針葉樹を用いた製材・集成材・CLTの乾燥について考える、県木連情報193号(2024).
05) 石原亘:『木表』と『木裏』の心がけ、森林のたより2024年12月号、p11 (2024).
06) 石原亘:“森への招待状”木材は技術・技能の結晶、中日新聞中濃版11月8日号(2024).
関連授業・課題研究&関連研修
01) 森と木のクリエーター科 1年生 木造建築専攻 自力建設プロジェクト(「自力建設(製材)」)
02) 森と木のクリエーター科 2年生 木造建築専攻 授業 「木材学入門」
03) 森と木のエンジニア科 2年生 林産業コース 授業 「木材学入門」
関連教員
田中健斗、中通実(兼務教員、岐阜森林研究所)、
上田麟太郎(前教員、非常勤講師)、
吉野安里、小原勝彦、辻充孝、松井匠(木造建築専攻教員)
過去のアニュアルレポートは、ダウンロードページからご覧いただけます。