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2024年03月27日(水)

川上と川下、過去と今をつなぐ製材実習

アカデミーでは学生全員に製材実習の機会がありますが、
2023年度の実習では「製材」を軸に色々な体験を採り入れてみました。
En科林産業コ―ス・Cr科建築専攻「製材(自力建設)」、En科林業コース・Cr科林業専攻「素材から製材品へ」、クリエーター科全専攻「林業・製材体験実習」のダイジェスト報告です。

 

<製材で川上~川下を考える>

「川上から川下まで」のつながりの重要性がこれまでになく叫ばれている昨今ですが、
川中にあたる「製材」を軸に置けば、両方を見通せるのでは?という試みです。

製材実習はまず、丸太の観察から始めました。
木材を最も使用するのは建築(川下)ですが、木材は見飽きるほど見ても、丸太はほとんど見ることがありません。
林業(川上)でも、丸太の細かなところまでは見る機会が(あるいはその暇が)無かったりします。

ヤニが出ていたり、穴が開いていたり、凹んでいたり……学生それぞれ面白い特徴に気付きます。
どれも丸太や、その後の製材の値段にかかわる大事な特徴です。

丸太の形(寸法・曲がり)を測って、材積(体積)を計算してもらいました。

丸太の値段は、「材積×材積当たりの単価」で決まります。
値踏みしてもらいましたが、なかなか当たりません。
市場価格では、写真の丸太で1本4000円を下回ります(23年10月時点)。
見た目から思うより、遥かに安いのです。

材積が分かれば、ある程度ながら重さを見積もることもできます。
エンジニア科・林業コースの学生には材積をもとに重さも考えてもらいました。
トレーラーに丸太がどれだけ積めるか?は体積次第ですが、法律を守って安全に搬送するためには、ちゃんと重さを考える必要があります。
丸太の重さは、水分に応じて倍近く変わることもあります。
過積載を避けるために必要な知識です。

 

お楽しみの(?)皮剥きタイム。

秋に伐採された丸太では、樹皮がなかなかきれいに剥けません。
手で引っ張るだけでペロッと剥ける、夏の丸太との違いを感じてもらいました。

 

樹皮が剥けたらさっそく製材です。
どんな材が採れるかな?木取りを相談して決めます。
採れる材の質と量から、製材(川中)の売上が決まります。売上の見込みは……?

採る材を決めたら、製材機の操作体験です。
挽きながら、材面や材の反り(挽き曲がり)の様子も見ていきます。

 

最後に、採れた材を川下で建築材として売る場合の価格を計算しました。

製材品の価格から丸太の価格を差し引くと粗利を求められますが、
実際はここから乾燥処理や仕上げ加工のコストと人件費、設備費、輸送費が支払われることになります。
川中(製材業)の収益性が何から決まるかについても考えてもらいました。

 

製材品の価格を見つめると、川下の価値基準が見えてきます。
材積が小さくなっても、例えば節の多い箇所を切り取った場合には売値が上がることもあります。
材寸が大きかったとしても、材積あたりの単価は上がるどころか低くなったりもします。
林業(川上)の学生も、建築・林産業(川下)の学生も不思議がっていたところです。

 

川上とどこが共通して、何が違うのか?
価格をもとにして、川上・川下がそれぞれ木材をはかる価値基準のズレについて考えを深めてもらいました。

 

川上~川下の産業がどこも取り残さず持続できるためには、何が必要なのか?
製材実習を通して、色々とヒントを与えられたかなと思います。

 

<製材と林業の昔を体験する>

クリエーター科1年生の製材実習では、大鋸による製材を採り入れました。
製材機が広まる前、道路網が発達する前は、大鋸を使って人力での製材が行われていました。
鋸と言えば大工道具の印象が強いですが、かつては木こり(杣師、そまし)に欠かせない道具でもあったのです。
岐阜県内でも杣師が山に分け入り、大木を切り倒してはその場で大鋸で板に挽き、かついで下山するという産業がありました。

 

丸太1本はとても大変なので、タンコロを預けてみます。
さっそく固定方法を相談中。
ヒントは大鋸の全盛期、江戸時代の絵図一枚です。
現代人のパワーはいかに。

半割りした後で固定方法がまとまり、大鋸での製材開始です。

かわるがわる鋸を引きます。
なかなかの重労働で、次々交代です。

なんとか無事に一枚板が取れました。
最後は楔で割っています。
風情のある挽き肌に感嘆の声が上がりました。

余談ですが、最初のタンコロの半割では両手挽鋸を使用しました。
室町時代伝来の大鋸(前挽大鋸)よりも昔から伝来していた、2人で操作する鋸です。

こちらの両手挽鋸、実は横挽き用で、写真のような縦挽きには向きません。
2人懸かりにもかかわらず、なかなか進まない……と苦戦しています。
「削る」より「切る」ための歯で、鋸が木に噛んでしまうためです。

 

縦挽き用・前挽大鋸の切粉(左側)と横挽き用・両手挽き鋸の切粉(右側)を比べると違いが分かります。

鋸の歯の違いについても学べる機会になりましたが、体験としてはハード過ぎたかも……

 

助教 上田 麟太郎