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2021年12月01日(水)

木工事例調査 関西②(株式会社 三栄)

クリエーター科木工専攻の恒例授業「木工事例調査」に行ってきました。昨年はコロナの影響で県外への訪問は実施できなかったのですが、今回は感染対策を万全にして兵庫、大阪、京都の博物館、製材所、木工工房などを1泊2日で回りました。

学生によるレポート第二弾は神戸で唯一の製材所、株式会社 三栄です。

 

株式会社 三栄

神戸市兵庫運河のすぐ近く、「材木町」という町名のつくこの地域は、多いときには20軒もの材木店が商売をされていたそうです。しかし時代の変化に伴い、現在、製材機能をもつ材木店は三栄さん一軒のみとなっています。神戸で唯一の大型製材工場であり、直径1m、長さ8mの丸太まで製材できるそうです。

今回は株式会社三栄代表取締役の服部鋭治さんからお話を伺いました。

服部鋭治さん

「世の中変わっていくが、どうやったら木で食べていけるのか」、そして「次の世代にどうつなげていくか」を考え、様々な取り組みをされてきました。製材所だからこそできる地域材の利用、製材所としての役割を終えた場所に新たな風を吹きこむ『北欧ヴィンテージ家具・カフェ「北の椅子と」』とのつながり、そこからさらに広がる輪…。服部さんは朗らかに「(いろいろな立場の人がチームになって)みんなで食べていけたらいいやないの」とお話され、「今までだったら捨てていたものをいかに対価にするかがこれからの時代」と未来を見据えたヒントを下さいました。

「北の椅子と」

昔は化粧合板や、突板(内装材で使われる薄くスライスした木材)にする前の原材料、テーブルの天板などの多くを米スギ、スプルース(マツのなかま)などアラスカ産材で加工製造していました。しかし伐採が進み、アラスカの山の環境が悪化したことで、川に流れる山からの栄養素が不足して名産品であるサーモンが捕れなくなってしまい、2021年の春から主な輸入先であるアラスカからの出荷がストップしてしまったそうです。

現在は地産地消をテーマに掲げ、六甲山で採れた木材や、神戸市内の街路樹などの地域材を積極的に取り扱っています。六甲山は広葉樹の割合が高く、スギやヒノキだけではなく様々な木があります。実際に三栄さんでもクスノキ、シイ、カシ、ナラ、タモ、クヌギ、コウヤマキ、エノキ、ケヤキ、ヒノキ、スギ、センダン、ナナミノキなど様々な樹種の木材をストックしてありました。

街路樹は舗装された歩道近くに植えられているため、締固められた土の中で根がのびのびと育たなかったり、排気ガスで汚染された空気が影響したりと、山の木に比べてストレスがかかっています。また石が食い込んでいる場合があり、製材加工する際に刃を痛めてしまうことがあるなどデメリットもありますが、ストレスがかかっている分、木目が複雑に入り組み、美しい材がとれるなどメリットもあるそうです。

ちなみに神戸市は街路樹の割合が日本一だそうです。実際に今回の移動中に通りかかった新興住宅街では歩道を挟んで2列に街路樹が植えられていました。

 

このような地域材は世の中に浸透しつつあります。コナラの虫食い材を公共施設のフローリングに活用したり、住宅メーカーが内装材として活用することで差別化を図るなどの事例があります。しかし課題もあります。それは需要に応えられる寸法を確保するのが難しいため、なかなか売れないこと。また売れないということは在庫がどんどん増えて、材を置いておく場所の確保が困難になるということ。そのため地域材をお金に替えるシステムづくりが必要だとおっしゃっていました。

服部真俊さん

また、今回は三栄4代目の服部真俊さんからもお話を伺いました。本業の家具用木材の販売の他に、「兵庫県木材青年クラブ」や「兵庫運河を美しくする会」へ参加され、地域や人とのつながりを大切にしながら精力的に活動されている服部さん。「木育」の視点で、「こどもフェスタ」という神戸南公園での体験イベントの企画運営もされています。公園で伐採された立ち枯れの木が出た際には、集まった子ども達と協働して皮むき・ノコギリ・表面みがき等を行い、公園で使うテーブルとベンチを作ったそうです。「身近な木が生活の道具になる」体験が人と木の関わりを考えるきっかけになってほしいと思う服部さんが、木を扱うプロとしての強みを生かし、さらに次世代へのメッセージを伝える素晴らしい取り組みだと感じました。

 

お忙しい中、時間を割いて製材工場の説明をしていただきまして、ありがとうございました。

 

文責 

森と木のクリエーター科木工専攻

坂野幸太、髙橋久美子、奥山茂