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2017年05月27日(土)

鵜飼舟プロジェクト 第1週目

美濃市の船大工・那須清一さんの指導のもとでアメリカ人船大工のダグラス・ブルックスさんらが鵜飼舟を1艘作る「鵜飼舟プロジェクト」が本格始動して1週間が経ちました。第1週目の様子をご報告します。

5/21(日)、制作開始に先立ち、関係者を集めてミーティングを開きました。
このプロジェクトでは、東京文化財研究所が制作工程をつぶさに記録し、2019年度に報告書・DVD映像記録を出版することになりました。そのため、制作の手順やスケジュールを確認しておきたかったのです。加えて、なるべく多くの機関に呼びかけ、支援体制を作りたいと考えました。集まったのは以下の個人・機関です。

・那須清一(指導)
・ダグラス・ブルックス(制作)、マーク・バウアー(製図)
・古山智史(アカデミー学生、制作)
・東京文化財研究所(記録映像撮影、報告書出版)
・長良川うかいミュージアム(特別企画展、報告会開催)
・岐阜市歴史博物館(資料提供等)
・岐阜市教育委員会(協力)
・関市教育委員会(協力)
・岐阜県立森林文化アカデミー(全体統括)

長良川の鵜飼用具一式は国の重要有形民俗文化財に指定されていますが、その中の1つである鵜飼舟の制作工程は実は今まで詳しく記録されたことがなく、今回が初めてなのです。そのため、鵜飼を実施している岐阜市や関市の教育委員会でも、このプロジェクトに注目しているとのことでした。

那須さんに、最初の段階であるシキ(底板)の制作工程を説明してもらいます。

 

報告書の出版について相談する、東京文化財研究所の無形文化遺産部主任研究員・今石みぎわさんとダグラスさん(右)、木造船の設計士のマーク・バウアーさん(中)。報告書にはダグラスさんの原稿や、マークさんによるCAD図面も掲載されることになります。

プロジェクトチームで記念撮影。このあとレストランで懇親会を行いました。

 

さて、いよいよ制作初日。報道機関には、事前にプロジェクトのスケジュールを伝えておいたため、多数のメディアが集まりました。NHK名古屋、中日新聞、朝日新聞、CBCテレビです。他にも数社から問合せがありました。このようなプロジェクトでは多くの人に知ってもらうことが大切だと考え、常に情報発信を行っています。

NHKのインタビューに答えるダグラスさん。5/30(火)の「ほっとイブニング」で放送予定だそうです。

 

シキの制作開始。
まずは板揃えから。材料はコウヤマキ。日本のほとんどの地域ではスギを使いますが、コウヤマキを使うのはこの流域だけの特徴です。4〜5メートル長の板を縦に3枚、横に7列つないで、全長13メートルの船の大きな底板を組み上げていきます。どの板をシキのどの部分に使うかを決め、カスガイで仮留めして、釘を打って接合していきます。
下の写真は、ダグラスさんはノミで「ダキ」と呼ばれる釘を打ち込むための溝を掘っているところ、那須さんは「モジ」と呼ばれる道具で釘の下穴を開けているところです。
使う釘の量は、シキだけで約380本。舟全体では約1000本に及びます。延々と、溝掘り、穴あけ、釘打ちの作業が続きます。

 

普段はダグラスさんが、以下のビデオのように日本語で那須さんとコミュニケーションを取っています。

 

東京文化財研究所の撮影チームは最初の2日半を撮影しました。今後も東京と岐阜を往復しながら、鵜飼舟づくりの各工程を映像に収めることになります。今石さんは那須さんへの聞き取りの傍ら、那須さんとダグラスさんの通訳も務めてくださり、とても助かっています。

 

森林文化アカデミー学生の古山智史さんは、課題研究の一環としてこのプロジェクトに取り組んでいます。授業のない日のみの参加になりますが、那須さんから指導を受けてダキを切ったり釘を打ったりしています。

 

岐阜から、そして全国から、たくさんのサポーターや見学者が訪れています。
下の写真左は、岐阜市の鵜飼観覧船の船頭、後藤秀明さん。連日作業のお手伝いに来てくださっています。写真右は、一般社団法人・瀬戸内伝統航海協会の原康司さん。山口県から見学に来られました。

 

下の写真は沖縄のフーカキサバニのみなさん。1月30日に森林文化アカデミーで「長良川の和船技術継承を考えるミーティング」を開いた際にも来ていただいたのですが、今回も作業の様子を見学に来られました。瀬戸内伝統航海協会やフーカキサバニのみなさんとは、メーリングリスト「和船ネットワーク」を通じて情報を共有しています。

 

岐阜市の鵜飼観覧船事務所職員の田口誠さんは、ダグラスさんが制作した「鵜舟」キャップの購入第1号になってくれました。売上はプロジェクトの調査研究に役立てられます。
森林文化アカデミーというオープンな場所で制作することで、たくさんの人が見学に訪れることができます。この場所で実現できて本当に良かったと思っています。

 

マークさんに自転車を貸してくれたのは、環境調査やコンサルティングがお仕事の豊田崇文さん。アメリカからの2人は、2ヶ月間自転車だけの生活なので、高性能の自転車はとてもありがたいです。

 

このように、さまざまな人に支えられて進んでいる鵜飼舟プロジェクト。最初の5日間を終えて、シキの中心部分の3列がほぼ組み上がりました。全部で7列なので、さらに両側に2列ずつ接合されることになります。

ダグラスさん、マークさんの2人は、毎朝6:30頃から夕方5:30頃まで、月〜土の毎日作業をしています。7/22までの期間中、見学可能ですので、ぜひ応援しに来てください。

久津輪 雅(木工・准教授)