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2017年03月07日(火)

教員リレーエッセイ13:木材を使うことが、温暖化対策になる?

 吉野安里(木造建築)

写真-1  筆者近影

もっと光を! もっと高く!

光合成は、植物が進化の中で獲得した「ソーラーシステム(太陽光を利用した機構)」です。私は、樹木の葉が「究極の太陽光パネル」に見えます。古くなった葉は、自然に更新され、数まで増えています。人類の発明した「太陽電池」は、いつの間にか新しくなったり、数が増えるなんてことはありませんね。光合成こそ、人間の知恵がまだまだ及ばない「最先端科学」であると感じています。太陽光を使い、水と二酸化炭素を原料に、その産物である木材は、私たちの生活を心豊かにしてくれます。

写真-2 光合成は究極のソーラーシステム?

光合成のためには、太陽光が必要です。より多くの太陽光を得るためには、より高く伸び、より多くの葉を広げる必要があります。そうなると、樹体には十分な強度が必要です。木(木本,もくほん)は、茎(幹)の部分が毎年成長を繰り返す一方で、自ら生命を閉じる仕組みを持っています。この点が草(草本、そうほん)と大きく異なります。

 

木材とは・・・えっ死骸なの?

木本では、幹の樹皮の内側の部分に形成層という部分があり、ここの細胞が分裂し、肥大成長します(幹が太ります)。

形成層の内側(木部)では、3~7月ころまで細胞が分裂を繰り返し、7~8月には細胞が強度に耐えられるような構造へと変化します。この分裂した細胞の部分を辺材(へんざい)といい、丸太断面を見ると白っぽく薄い色をしています。しかし間もなく、ほとんどが死んでしまいます。その後、数年間をかけて腐りにくい物質などが細胞の中に蓄積されていきます。これを心材(しんざい)といい、丸太断面の中心の色の濃い部分です。この心材に蓄積された物質は、樹種特有の色や香りを持っています。

私たちは、心材と辺材の部分(木部)を木材として利用しています。

写真-3 丸太の断面をみる

 

一方、形成層の外側(師部)へ分裂した細胞は、生命を閉じ樹皮となり、乾燥から内部を保護します。この樹皮は防水能力が極めて高く、樹皮のついたままの丸太は何年経っても乾きません。写真は、2015年の冬に伐採されたヒノキの断面ですが、過去の様子が年輪に残っていますね。

 

山に木があるのは最近になってから?

私たちの先祖は「木材」を、燃料、住居の材料、生活の道具として利用し、文化を築きました。木材は高価で、枯枝まで無駄のない使い方をしていました。しかし、山には木が少なく、江戸時代の風景を描いた絵には、“ハゲ山”が多く登場します(写真-3)。その状態は第二次世界大戦後も続きます。戦後、復興のために大規模に植林をしました。しかし1960年代以降、日本が経済的に豊かになるにつれ、木材の用途は、石油や鉄、プラスチック、コンクリートに代わってしまいます。必要な木材は外国から輸入しました。森林は年々成長しているのに、国産の木材は使われなくなり、森林や林業への関心も薄れてしまいました。しかし、植林をした森林の健全な維持のためには、手入れと適切な伐採が必要です。

写真-4 絵画にみる江戸時代の森林

 

木材を使うことが、温暖化対策になる?

温室効果を防ぐために、空気中の二酸化炭素をこれ以上増やさないことが人類の課題となっています。省エネルギー技術では、炭酸ガスの排出を少なくできても、地球規模で吸収はできません。吸収できるのは森林しかありません。では、もっと木を植えたらいいのでは・・・。しかし、今の日本には、森林を伐採しなければ植える場所はありません。

そこで、木材を使うことに注目です。在来工法の木造住宅10戸分で、スギ人工林(50年生)1ha (100m四方) 分の立木蓄積量(約315 m3)に相当します。さらに住宅の寿命を約30年とすれば、その間は木材の形で炭素を保持し続け、二酸化炭素として放出させないことになります。伐採する⇒木材を住宅に使う⇒住宅は安定した炭素貯蔵源になる⇒伐採後に植える⇒育てる⇒新らたな炭酸ガス(炭素)吸収源になる・・・というサイクルをつくりたいですね。「植える」「育てる」までは社会的な関心も高いのです。さらに一歩すすんで、木材として「使う」こと「輸出」までも視野に入れてほしい。木材利用の環境への貢献を評価されれば、林業の社会的、経済的地位の向上のきっかけにもなります。

写真-5 森林は二酸化炭素の吸収源

写真-6 木造住宅も第二の森林?

 

木材利用があって林業が成り立ちます。森林の機能も維持できます。最大の木材の用途は住宅です。森林文化アカデミーでは、木造建築を担う人材を育てています。

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