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2018年03月11日(日)

「木工事例調査」in 静岡・山梨 〜②ヒノキクラフト

はじまり

有限会社ヒノキクラフト代表の岩本雅之さんは24年前、広告業界から無垢の家具作りの仕事に転身されました。(非耐久)消費財を扱うのはゴミをつくっているようで、感覚的に受け入れられなくなり、天然素材で(厳密には消費財とはいえ)耐久性のある“家具”を作ろうと決意されたとのこと。初めは広葉樹を使われていたものの、製材のみ国内という外国産材の使用が少なくなかった当時の状況に疑問を抱き、正々堂々と扱えるものを、との考えから国産のスギ・ヒノキ使用に思い至ったそうです。山の手入れにもつながる伐採と計画的な植林で循環管理が見込める針葉樹の使用は、近隣からの伐り出しで輸送にかかる化石燃料も少なくすみ、環境負荷のかからない点でもうってつけ。そのような経緯から2004年の法人化以来、ヒノキを中心にこだわりのものづくりをされてきました。

 

創業当初は課題のひとつはインフラ整備。針葉樹の建材はあっても家具材は流通していなかったという前例なしの状況で、家具使用に耐えうる含水率にまで材の状態を乾燥させることをはじめ、企画・デザイン・製造(製材、木取、加工、組立、塗装)・管理・販売と、一貫して自社内生産する内製化体制を試行錯誤しながら整えていかれました。
(注:建材は木に含まれる水分の割合=含水率を15%程度まで下げますが、家具材ではさらに10%以下にまで下げます)

前例のない難しさは市場においてはさらに厳しく、ふたつめの課題として「ヒノキは家具材ではない」との先入観から取り合ってもらえず販売経路にのせられない = 売れない、という切実な問題がありました。売れ出すまでにたいへんなご苦労があり、ヒノキ家具の良さを世間にわかってもらうのに時間がかかったそうです。それでも家具向きの、すなわち、素性のよい(狂いづらい)・あてがない、という点で優れた静岡産の材に恵まれ、現在は認知度もあがり、オーダー家具や既製品(机・椅子・棚等)、学校の学習机や椅子等公共物、と幅広く制作されています。

 

ヒノキの扱い

年間計画をたて、1年分の丸太の買い付けを伐採時期にまとめてストックし、含水率10%以下にまで乾燥。屋根の下できちんと管理すること、寝かせすぎるとボソボソ・スカスカの使いものにならなくなるため、タイミングを外さず作業に入ることが肝心で、また、ヤニ対策も必須です。密閉しない、梱包時間を短くする、出荷前には入念なチェックをし、ヤニが出た場合にはアルコールで拭き取るとのこと。

木取り時には必ずあてを取り除き、針葉樹の性質上、避けられない節についても状態を見て、枝による埋め木・接着剤による凝固等の必要な処理が施されるそうです。

他にも広葉樹と比べて工夫を要することとして、接着剤を吸い込みやすいため接着強度が出にくいという難点があり、温度変化の激しい場に置かれても接着面がはがれないよう微調整の実験を繰り返し、知識と工夫を駆使して対応策をとってこられたとうかがいました。接ぎ材作りの工程に用いる特注のプレス機を見学させていただ際には、感嘆の声があがりました。

山とも市場とも繋がる、という言葉とともに印象的だったのが、「結局は人」という職人さんに対してのお話で、ものづくりに必要な技術・知識・ノウハウ(経験)を持った職人さんたちと、のんびりと楽しくやっていきたい、とのことでした。ただ、その前提には怪我をしないよう安全に作業できることが必須条件。シビアな口調で繰り返されたのは 「機械・刃物は怖い、との意識を持つ」「作業を怖いと思ってはいけない」、つまり、作業は怖がらず刃物を怖がる、無闇に怖がる必要はないが正しく怖がることは必要、と、ふだん木工機械にふれている私達にはとても響く内容でした。

従業員さんの休日についても十分な休みがあり、体を整えることにも重きを置いていらっしゃるのが分かりました。

工場を拝見した後、ショールームにもお邪魔させていただきましたが、シンプルで飽きのこない製品やメリハリのあるクールな感じの製品が並んでいました。17年前からはインターネットでも紹介されているそうです。

 

これから

学習机が主力製品のひとつである会社として少子化問題をどうお考えかとの問いかけに、少子化による市場縮小はさまざまな分野に関わる国全体の問題であり、たとえ規模が縮小してもヒノキクラフトさんで扱われるような机の市場は一定数保たれるので問題はなく、現状も市への納入は全受注を1社で受けておられるとのこと。会社を大きくせず、いいもの、わくわくするようないいデザインのものを生み出し、アフターサービスで細やかに対応していくとお答えくださいました。

ロットの多いライン工場的な役割も少しは考えていて、これからは色んな製品にチャレンジして作っていきたいとおっしゃっています。

報告:クリエーター科1年  柴田眞規子・長屋紀子