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2021年07月06日(火)

下刈りしてないんです・・・「森林獣害の基礎」

先週に引き続き、野生動物が林業に与える影響を理解するための授業「森林獣害の基礎」でフィールドワークを行いました

その時の様子を学生が記事にしてくれましたので紹介します。

 

 

クリエーター科林業専攻のオグリこと岩屋です。

実習「森林獣害の基礎」で、森林所有者様の許可を頂き岐阜県内某所の“鹿大量出没地帯”を見学しました。

森林獣害被害を引き起こす動物はノネズミ、クマ、イノシシなどがいますが、被害面積の7割以上を占めるのがシカによる被害です(令和元年森林・林業統計要覧より)。前回の授業では美濃市内某所でシカを探し親子のシカを目撃しましたが、今回は果たしてシカを見ることができるでしょうか? 写真をメーンに紹介します。

 

舗装された道から遊園地のアトラクションのようなデコボコ道の林道に突入。標高は約600メートルです。ゆっくりスピードで(悪路でスピードは出せません)15分ほど進むとドライバーのユタ先生が「いたっ」と叫びました。100メートルほど先にメスジカがいます。私たちの乗る車を発見すると一目散に逃げていきました。たくさんのシカに会えそうなワクワク感が車内に漂います。

さらに進むと今度は立派な角を持つオスジカが登場しました。

森林内のオスシカ

私たちの車を発見しても逃げるどころか近づいてきます。その距離約40メートル。“動物写真家”の一九カメラマン(学生)もシャッターを切りまくりました。

シカを発見するたびに歓声を上げる生徒たちに対し、同乗する山林所有者の方の表情はさえません。私たちがその理由を知るのに多くの時間を要しませんでした。

植林地

まるで下刈りしてきれいに整地したような場所が現れました(標高635メートル地点)

「植林しても全部食べられてしまいます」

さらに標高は上がり900メートルを超えた地点へ。右に広がる谷地には何頭ものシカが生息し自在に斜面を駆け上が上っていました。そこはシカの天国であり、山林所有者の方にとっては何ともやりきれない場所でした。

食害にあった10年生のヒノキ

ユタ先生が触れているのは植林して約10年が経過したスギです。しっかり根を張っているのでガッシリしていますが、高さは約60センチ。成長点を食べられてしまい上に伸びることないスギです。もちろん対策もしています。

チューベックスを施工した植林木

別の場所では4種類のチューブ状獣害防止用資材で植林時に苗をカバーしていました。しかしこの場所の敵はシカだけではありませんでした。

積雪約150センチ。雪との戦いも待っていました。獣害防止用資材の支柱も木製では倒れてしまうものもあるそうです。FRP(繊維強化プラスチック)支柱を使った方がいいのですがコスト高となってしまい採算が合わないそうです。雪の影響はまだあります。獣害防止用資材はシカが芽を食べられない高さにしてあるのですが、降雪により雪の上に乗ったシカが獣害防止用資材の先端から顔を出した芽を食べてしまうそうです。

ここに生息するシカは大きなメスジカで約70キロにもなるそうです(一般的には40~50キロ程度)。「良いものを食べているんでしょうね」。山林所有者様の言葉がむなしく響きました。

本来なら右の様に成長するはずが、左のスギがシカの被害を受けたものです

シカの難を逃れたスギですが、上方に上手く育っても下部は御覧の通り。これでは売り物になりません。

ヒノキは上に伸びれず、まるでハイマツのような形状になっていました。

クワンタイを施工したエリア

別の場所ではネット状の獣害防止用資材で対策をしてありましたが、こちらも同様に被害を受けていました。

この写真の中に何頭のシカが映っているでしょうか?

重い気持ちで帰路につきました。山を下る間もたくさんのシカが谷を挟んだ斜面で草を食べていました。

「(山という場所ではシカと人間の)どっちが邪魔者かわからないですね(苦笑)。仕方ないでねー。(シカと)共存するために数を減らしてバランスをとれればいいのですが…」

この日見たシカの数はオスジカ6頭、メスジカ49頭でした。もちろんこれ以上の数のシカが生息しているはずです。

 

果たしてどうしていけばいいのでしょうか。答えはありません。現地を調査した学生3人が考えた思いは以下の通りです。

 

うんちゃん(林業専攻)

山林所有者の方が、コスト、労働力をかけて植えた木が、野生動物の食害に合った時の悔しさは、どれほどのものなのでしょうか。また、はっきりした食害の痕跡、下層植生の乏しい地面を見ると、数十年後の森林の姿を思い不安になります。日本全国には、同じような状況の山林が多いことは想像に難くありません。一方、シカは生きることに一生懸命です。「お腹が空いたら食べ、未来に命を繋げて行く」。とてもシンプルです。

山林所有者様にシカに対する心象を訪ねた時、「人間とシカ、どっちが邪魔者か分からないですよ。バランスが大切です」という答えが返ってきました。山の恵をいただき、山とともに生きている方からの言葉は、とても印象に残りました。

シカをはじめとする野生動物と、人間の営みの共生。難しい課題ですが、野生動物、林業の経営などなど、広い視点を忘れない技術者になっていきたいと思いました。

 

一九(環境教育専攻)

私達、”ヒト”が便利や損得求めて、不便を放棄した山に、シカ達が暮らせる場所を拡げてきた。そこに取り残された「リンギョウ」が苦しんでいて、それを「ジュウガイ」と呼ぶ。

山で暮らし、山を使い、山で遊び、山を楽しむ。そこへ立ち戻らないと彼らと林業は対立するしかない。山で、暮らしている彼らと、対立しているのは、”ヒト”のうちのほんの一部の「リンギョウ」の人たちだけかもしれない。

私たちが、以前のように、山を利用する暮らしをしないと彼らとの争いは続くのではないだろうか? 「グリーンツーリズム」「フォレストスタイル」「森林サービス産業」といったキーワードにその解決を求めていくべきだと考える。

山間地の人口と町の回復。地方再生。里山の復活。等々。そのようなものがない限り解決しないと思う。

 

オグリ(林業専攻)

無闇な殺生は好みません。しかし林業を営んでいくうえで「バランス」というのは大切なキーワードです。この日見学した場所で考えるとワナや猟である程度のシカを捕獲し数を減らす必要はあると思います。もちろん獲ったシカは有効に使わねばなりません。ジビエとして使用する(流通させる)には捕獲して止め刺し(とどめをさすこと)してから1時間程度で解体所に運ぶ必要があるそうです。山林の奥地になると運搬時間も難題となってきます。できれば皮も有効に使いたいです。考えなければならないことは山積みです。

 

以上、学生からの報告でした

実習担当:新津裕(ユタ)

撮影:森一九