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2018年09月13日(木)

地域系ゼミ1~徳山村の記憶と徳山ダムの活用を考えながら~

森林環境教育専攻の科目「地域系ゼミ1」の第2回で揖斐川町の旧徳山村をめぐりました。2008年に完成した徳山ダムは、貯水量6億6千万㎥という日本一の大きさを誇るダムです。この建設過程で揖斐川の最上流部にあった旧徳山村が1987年に廃村となり、全村466世帯(約1,500人)が離村、水没しました。かつての徳山村の記憶は、ダム湖畔にある徳山会館や、道の駅ふじはしの徳山民俗資料収蔵庫などで学ぶことができます。

訪れた9月7日は、数日前の台風21号で4mも水位が上がった徳山ダムで毎秒100㎥の放流をしながら発電中でした。

 

徳山会館は、旧徳山村の歴史・文化やダムに沈むまでの経緯などが展示されていました。施設についてすぐ中村館長に温かく迎えられ、バイ(チャボガヤ)の実を試食させていただきました。チャボガヤは雪の多い急斜面に生えるイチイ科カヤ属の樹木で、徳山の人はこの種子を”バイの実”と呼び。奥歯で噛んで割って中身を口に入れると、アーモンドのように香ばしく柑橘類を思わせる爽やかな香りが残りました。バイの実は栄養価が高く長期の保存に向き、十二指腸潰瘍や夜尿症等にも効くそうです。またチャボガヤの幹はよくしなり、粘り強いことからかつては曲げ木にしてカンジキに利用したそうです。枝は身を預けても安心なほど丈夫で、山の斜面で枝に捕まりながら登るロープの役割も果たします。

バイという名の小さな木の実ひとつの説明の中にも、採り方や残し方があり徳山ならではのたくさんの工夫や知恵が詰まっていました。

 

ダムに沈む前の徳山の集落には、揖斐川が”生きた姿”で流れていました。時には厳しい自然と向き合いながらも皆で助け合いながら、たくさんの恵みを受けて暮らしていたそうです。「”えら
いこと(とても大変なこと)”でも我慢して皆で生きてきた」 お年寄りたちは皆明るくたくましく、元気な笑い声が絶えなかったそうです。

 

かつての集落が徳山ダムの底に沈んでしまった現在、日本一の水量を誇る水瓶を手に入れた代わりに、そこを流れていた生きた姿の揖斐川は失われてしまいました。同じ水には変わらないのですが…。「徳山の人たちが手放した”重み”の分だけ、まだダムは生かしきれていない」 ダムに沈む前の暮らしは戻ってこない。それなら、その分もダムをしっかりと活かしてゆくこと」中村館長の前向きで力強い言葉は私たちの心に深く刺さりました。

 

徳山会館を出た後、道の駅「星のふる里 ふじはし」の敷地内にある「徳山民俗資料収蔵庫」を見学しました。

この施設では、旧徳山村で日常的に使用されていた山村生産用具が5,000点以上展示されていました。山仕事の道具、紙漉きの道具、養蚕・製糸の道具、脱穀・精米の道具。展示されている道具のラインナップを見ているだけでも、山里で持続的に暮らすためにはどんな仕事があるか、を教えてくれているようでした。

 

 

また、雪で曲がった木の根本を利用した民具や枝の生え際を利用した民具などからは、自然の造形を活かしてエネルギーを最小限にする知恵が見られました。

 

産業革命以降から今までの期間よりも、ずっと長く山里で持続的に暮らしてきた人々の叡智に300円で触れられる。また足を運びたいと思う場所でした。(入館料は大人が300円、小中学生150円)

 

報告:石川麻衣子、菊池拓也(森林環境教育専攻1年)
構成:嵯峨創平(森林環境教育専攻 教員)