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2016年09月16日(金)

フェアトレードからコミュニティトレードへ~「わたしのもの」は「わたしだけのもの」か~

里山インキュベーターいびがわ」2016年間講座3回目は、垂井町「みずのわ」を会場に、岐阜経済大学准教授(経済学)の菊本舞先生を講師にお迎えして開催しました。

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会場の「みずのわ」は共催団体NPO法人泉京・垂井の事務所であると同時に、フェアトレード&地産地消の食品雑貨を販売するショップでもあります。実は菊本先生もかつて生協で働いていた経験があり、フェアトレードにも関心が深くて、当日はフェアトレードの衣類を身につけて登場されました。

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お話の前半は、菊本先生が研究生活を送ってこられた金沢市に隣接する野々市市にある「コミュニティトレード al」というショップの具体例から。1997年にフェアトレードのバナナを共同購入する活動から始まり、店舗の場所を移すたびにコンセプトを進化させてきました。2002年にフェアトレードからコミュニティトレードへと店舗名を変えて、福祉施設との連携、耕作放棄地に悩む生産者との連携なども始めました。商店としての魅力向上に取り組む中で、2005年から地産地消の生産物を使った「デリカフェ」を開店したことで、客層も一気に広がりました。

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こうして進化を遂げてきた alさんが独自に定めた「トレード基準」が大変興味深いものでした。フェアトレードだけでなく、農山村の生産者が都市の消費者・店舗と関係づくりをする際にも大いに参考になりそうでした。

 

後半は、やや理論的な面を掘り下げたお話でした。フェアトレードは世界の南北格差の是正を目指していますが、現実的には先進国の購買力と市場を前提とした経済活動です。するとフェアトレードが目的を達して南北格差が是正→解消されたら、その先には何があるのか…。

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そのヒントが「コミュニティトレード」という考え方です。一方的な生産者→消費者という関係性を超えて、双方向で暮らしをつくる関係性を目指す(いっしょにやれる部分を増やしていく)ことが基本姿勢です。

 

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かつての農山村には「総有」という慣習がありました(今でも多少は残っていますが)。例えば、住居も、農地も、森林も、「わたしのもの」でありながら「わたしたちのもの」でもある。確かに所有区分はあるけれども、その「利用」や「関わり」は顔の見える共同体全体が行っている。

 

そんな巧みな所有と利用の共存の知恵は、戦後の法律体系、ビジネス思考の浸透、そして農山村の過疎化によって急速に失われてきました。でも今、私たちがフェアトレードの先に見すえるシェア・エコノミーの時代とは、実は一周まわって日本の伝統的な慣習に学びつつ、新しい共同体を創ることなのかもしれません。

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小さな会場に満員の25人が詰めかけて、フェアトレードのコーヒーを飲みながら、菊本先生のお話に熱心に耳を傾け、真剣に質疑を交わした、あっという間の2時間でした。講義だけでは理解が難しかった人も、フィールドで「総有」の先達に地域資源の利用について学びながら、新しい「里山の起業家」を目指しませんか? そんな意欲を改めて掻き立てられた刺激的な会でした。

 

 

担当  嵯峨創平(揖斐川町駐在)