林業事例調査2020(3)東近江市永源寺森林組合
林業事例調査 2020 3日目
滋賀県東近江市の永源寺森林組合は、森林組合としては全国でも珍しく、広葉樹林での施業を多く行っています。
今回は、里山地域での広葉樹林の施業とその利用について学ぶため、見学をさせていただきました。案内をしてくださったのは、クリエーター科1期生で、現在、永源寺森林組合で森林施業プランナーとして活躍をしている落部さんと、同じく森林施業プランナーとして活躍している水野さんです。
永源寺森林組合は滋賀県東近江市に位置し、鈴鹿山脈から琵琶湖まで様々な環境を持った地域です。市のおよそ56%にあたる21,849haを森林が占め、その内のおよそ64%を広葉樹が占めています。
鈴鹿山脈のある奥山ではスギ・ヒノキの人工林が、町には広葉樹二次林の里山林が多く、田畑が広がる人々の生活のすぐそばに里山林があることが特徴です。
以前は薪炭材などの入手先として利用される里山林でしたが、石油などの燃料の普及後その利用が減り、手入れの行き届かなくなった林内は獣にとって恰好の隠れ場となりました。その結果、近年ではイノシシやシカによる農作物の被害が増加し、地元の農家さんたちはその対策に悩まされていました。
そこで、市は緩衝帯の設置(林縁の伐採)やフェンスを張り巡らすなどの対策を行い、その後、荒廃した里山林も整備してほしいという住民の要望に応えるため、森林組合による里山林の更新伐施業が行われるようになりました。
施業の特徴としては、
- 合意形成を地元の自治会が行ってくれたことによって、団地化がスムーズにいったこと
- 契約はすべて自治会と森林組合との間で行っていること
- 事業は補助金と木材販売による収益で行い、地元に負担がかからないように行っていること。その際、木材収益が多く、補助金と合わせて事業費を上回る場合は、その差額分を返却金という形で自治会へ返していること
- 濃淡をつけた間伐を行うことで、風倒木被害の軽減を図ったり、林縁に雑草木が繁茂しないように工夫をしていること
など、多くの工夫が見られました。
現場の見学に先立ち、木材の乾燥や製材、販売についても教えていただきました。
上の写真は土場の様子です。夏は虫による被害が大きいため、伐採を行わないようにしているとのことでしたが、それでもコナラ、サカキ、クリ、ヤマザクラ、アオハダ、キハダなど様々な種類の材がありました。
皆さんは下の写真から、どれが何の樹かわかるでしょうか?
永源寺森林組合で取り扱っている広葉樹は少量多品種で、材の大きさや樹種の違いによってその販売方法に工夫が見られました。
小径木の材はチップ用材や薪ストーブの割り木用材に、直径が大きく通直性の高い材は製材品用材として販売をしています。製材品用材の主な使い手は木工作家の方だそうですが、広葉樹を扱い始めた頃は作家さんの求めるサイズや厚みがわからなくその販売に大変苦労をしたとのことでした。
今では厚みや大きさなど工夫を凝らし、作家さんが使いやすい大きさに製材をすることによって売上を伸ばしているとのことです。また、「広葉樹特別市」を開催するなどして一般の方にも積極的に販売を行っており、他県からも広葉樹材を求めて訪れた方がいたそうです。
乾燥施設もご紹介いただきました。
乾燥施設といっても永源寺森林組合では乾燥機を持っていないため、太陽光を利用したビニールハウス内での乾燥作業となります。ビニールハウスでの乾燥を始めた頃は反りや割れが大きく出るなどなかなか思うようにはいかなかったそうですが、試行錯誤を重ね、現在では反りや割れも少なくなりました。
今回の見学では、里山林での広葉樹の施業からその利用まで幅広く学ばせていただきました。
私たち日本人は昔から、里山林という身近な森から生活に必要な様々なものを手に入れ利用してきました。それらが利用されなくなった今、森は荒れ、イノシシなど獣の住みかとなり、農作物に被害が出るなど人と獣の生活のバランスが崩れています。
永源寺森林組合では里山林を整備することによってそのバランスを取り戻し、そしてそこから出てきた材を工夫をしながら販売することによって利益を生み、その利益によって里山林の整備を行っています。
今も昔も人が関わってきた森は、人が関わり利用することで健全な姿が維持されるのだと今回の見学で改めて実感しました。
一般の人が昔のように山を利用しなくなった今、私たち林業に携わる者が山にあるものにいかに付加価値をつけて利用していくか、山で木を伐るだけでなく、その利用についても考える必要があると改めて思いました。これからの学生生活において今回の見学で得た学びをさらに深めていけたらと思います。
最後になりましたが、お忙しい中見学を受け入れてくださった永源寺森林組合の皆様、誠にありがとうございました。
報告:齋藤智比呂(クリエーター科 林業専攻1年)