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2020年10月14日(水)

パッシブ設計(木造建築計画の応用)

先日の熱流体解析に続き、パッシブ設計の進め方です。

アカデミーの情報処理室に導入している「ホームズ君 省エネ診断エキスパート」を活用してパッシブ設計の進め方を一通り流してみました。

まずは、敷地分析から。

いつもは気象庁のHPからデータを抜き出してエクセルでグラフ化して・・・と進めていますが、ソフトがあれば、すでにデータ整理が終わっていますので、地点を選択するだけで、気温や日射量(水平面や鉛直面)、夜間放射量、風向きなど丁寧な表示で確認できます。

下図は2010年の拡張アメダスデータの美濃市と東京(薄い線)を比較したものですが、冬期は2~3℃気温が低く、夏期は最高気温は東京より高いため、寒暖の差が意外と大きいことがわかります。そのため、外皮性能はより重要性が増してきます。

 

次に隣棟が敷地に落とす日影の検討です。敷地と隣棟を入力して計算すると、立体的に影になる範囲が出てきます。
一般的な3D-CADだと、ある平面上の影しか見れないことが多い中、これはわかりやすいですね。

この影の範囲をイメージしつつ、どの位置に建物を建てるかボリューム検討を行います。
各面に当たる日射量が簡単に表現できるので、計画に必要な建築面積を見ながらボリュームを切り出していきます。

ここまでで、概ね配置イメージが固まりました。初めて触る学生でも45分くらい。慣れれば半分の時間でしょう。

次に間取りの入力。建築図面とまで書き込まないので、簡単にモデル化しつつCAD化していきます。

あとは、各部位の断熱仕様と設備仕様を入れれば、省エネ法で求められる外皮性能と一次エネ消費量の計算は終わりです。

この判定はおまけ程度で、パッシブ設計ではここからが本番です。

まずは、昼光利用の照度計算です。
外部が15,000 lxの場合の計算をすると、居室部分はすべて100 lx以上。窓際は400 lxを超え、それなりの明るさが確保されています。不足分は、開口部を調整するか照明計画でサポートします。

断面から見た日照の様子も確認できます。これは何気にわかりやすくていいですね。
下図は残暑が厳しい8月下旬の昼頃。南に出した屋根で直達日射をしっかり防いでいます。

日当たり

外部に当たる日射量の様子も色毎に確認出来てわかりやすいですね。

次は詳細な温熱計算である非定常計算。このツールは宇田川先生のEESLISMを計算エンジンに使用しています。

部屋内部の発熱量や設備の稼働時間など設定していくと、各地の気象条件の場合にどのような室温になるかを計算してくれます。

下図は計算結果ですが、省エネ基準相当のゆるい外皮ですので、寝室が11.8℃とかなり寒い結果となっています。
断熱強化や暖房設備の運転状況など、ここから検討が始まります。

今回はパッシブ設計の流れにそって、学生と進めてきましたが、ツールを使って計算結果を表示するだけならマニュアルを見れば誰でもできます。

重要なのは計算結果をどのように読み解いて、設計に活用するかです。
現状のシミュレーション結果から課題を読み解いて、設計変更のアタリをつけて、ツールに入力し比較する。
冬期の日射の取り込みを増やすと夏期にも日射が増えてしまったり、設備で対応するとエネルギーが増えたりと、性能が上がったと思ったらコストが合わないなど、すべてを理想的な状況にはできないので、最適解をどこに見つけるかが大切です。

操作が簡単なツールであれば、このトライ アンド エラーを頻繁に繰り返すことができるので、自身の勘所も磨かれてきます。

本学の木造建築専攻にはいろいろなツールや設備がそろっている贅沢な環境です。いろいろなツールを使い倒すことで、就職先でツールが用意されてなくても、アタリがつけられます。

この境地に至れるか・・・は学生次第ですが、楽しんで環境設計ツールを使っていましたので、もしかしら驚くほど使い込む学生が現れるかも。楽しみにしていよう。

ツールや設備の一覧はこちらのページからも確認できます。

准教授 辻充孝