活動報告
2020年02月11日(火)

住宅デザインのトップランナー2人から学ぶ「暮らしを提案できるクリエーター」先端建築学

(これからクリエーターになるみなさんへ)

みなさんは「なにかをつくって生きていたい」と思ったことはありますか?
ありますよね。おそらくそう思ったから今の会社を辞めて、クリエーターの世界に入ろうとしているのではないでしょうか。
このままではいけないと思って、または今よりもっとやり甲斐のある仕事を探して、これから自分がどうあるべきか、何をつくるべきか、模索し始めているのではないでしょうか。

森林文化アカデミークリエーター科は、クリエーターになるための場所です。特に、木を使って何かを生み出す人を育てています。
でも、クリエーターって一体なんなのでしょう?
「お金儲けが目的じゃない仕事をする人?」「その人にしかできない仕事で有名な人?」「自分の衝動を形にできる人?」
多分、みなさんはなんとなくぼんやりとしたイメージでクリエーターを目指して、始めてみたはいいけれど、自分がどこに向かっているのかわからなくて、ちょっと困惑していませんか。
結論から言って、みなさんが困惑しているのは正解です。それはずっと続きます。自分のしていることで困惑・葛藤することそのものがクリエーターの仕事なので。いやあ、大変なところに来てしまいましたね(笑)。

でも、先に長くこの世界にいる人間は、みなさんに対して自分の姿勢を示すことで、多くのことを伝えることができます。
そのためアカデミーでは、各分野で活躍するクリエーターに実際に会える授業をたくさん用意しています。

風の円居で集合写真

「風の円居」で全天球集合写真。

「先端建築学」もそう。今回は、小谷和也さんと関本竜太さんをお呼びしました。
住宅建築界の第一線で大活躍されているお二人を同時にお呼びするという贅沢なこの企画は、学生さんに優れたクリエーターの佇まいを感じてもらいたいというのが一番の目的です。
この日は建築だけでなく木工専攻の学生さんにも声をかけ、講師と教員含めて23人という、1学年20人のアカデミークリエーター科では異例の大人数の授業になりました。

小谷和也さん

マンションリノベーションのトップランナー小谷和也さん。

 

午前中は小谷さんと関本さんに、普段のご自分のお仕事をご紹介いただきました。
まずは小谷さんの講義から。
小谷和也さん(マスタープラン一級建築士事務所代表)は、中古マンションのリフォーム、リノベーションに特化した「木のマンションリノベーション」を行っている方です。
「木のマンションリノベーション」とは小谷さんのつくった言葉で、小谷さんの設計手法のことです。奈良県吉野杉の床や、左官の塗り壁といった自然素材を使い、和の建具を駆使し、快適に暮らすために通風・断熱・結露解消・遮音性能などを高めた内装木質化を、類まれな設計力によって高いレベルで統合し、全国各地のマンションに「木のリノベーション」を施しています。

ご自身が団地で育ち、戸建てに住んだことがないことから「自分の設計は、マンションでも木の家の暮らしをできるようにしたい」と思ったのがきっかけでお仕事の方向を決めて行ったそうです。
講義は設計実例に続いていくのかと思ったら、マンションという条件とそれを取り巻く「問題」の洗い出しに進んでいきます。

・中古マンションは6割が同じ間取りで、現代のライフスタイルに対応できていないこと。
・断熱性能が低いために結露やカビの問題を抱えていること。
・傷のクレームを恐れるあまり無垢材が避けられ新建材でつくられていること。
・床の遮音性能がその後の生活の明暗を大きく分けること。
・リフォーム業者は性能まで気にしていないこと。

小谷さんのところにご相談にくる方は、驚くほど共通の悩みを抱えているそうです。
小谷さんはそれらを一つ一つ丁寧に「解決」していきます。まず性能を上げることで大きな問題から解決していき、どうすれば木の良さを感じる暮らしができるのか考え抜き、家具への愛情と、照明計画の潔さ、建具や建材開発への探究心で、バランスよく統合された空間デザインを実現します。
実例紹介で講義が終わった後は、ご自身で開発された「たためるハンモック」や、お持ちのたためる椅子たちをご披露いただきました。

小谷和也さん

開発した「たためるハンモック」を持ってきてくださいました。

小谷和也さん

新作「たためる円卓」。……家具屋さんではなくて一流の建築家ですよ。

関本竜太さん

リオタデザインの関本竜太さん。現代の住宅設計者で知らない人はいません。

次は関本竜太さん(株式会社リオタデザイン)による講義です。
木構造設計者の山田憲明さんと共同で行った設計実例を中心に、ご自身の設計の流れを解説していただきました。
関本さんの設計は「敷地を読み解く」ところから始まります。陽の当たらない北側は窓を開けない、など従来の建築が持っている古い習慣にとらわれず、その敷地の魅力を最大化する建物を執拗に模索していきます。これから敷地に建つ家が町に対してどう拓かれていくのか、この家族に最適な間取りは……数多くの条件から、この敷地にはもうこの間取りしかない!というところまで徹底的に検証します。駐車パターンだけで84パターンを考えた話には会場がどよめきました。
そして、その一案を木造で実現していくために構造設計者の山田さんとの協働があります。
「構造計算できないのに無理ばかり言う意匠設計者 VS 意匠を理解しようとしない構造設計者」という対立はどこに行っても見る光景なのですが(これは日本だけなく世界中同じ。)関本さんと山田さんは、その空間に最適な木構造を“楽しく”探していきます。理想的な構造設計の進め方!そうして出来たリオタデザインの建物は、これ以上動かしようのない張り詰めた緊張感と、暮らしが楽しくなるポジティブで上質な空気の合わさった空間です。
また、関本さんの話し上手は建築業界でも有名でなのですが、冗談を交えながらも、時折設計者としての揺るぎない姿勢を見せてピリッとさせる話術で、あっという間の90分でした。

関本竜太さん

トークの技術も超一流なのがリオタ流。

会場全体でお二人の普段の仕事を共有し、午後は場所を移動して「風の円居」へ。

ここは会議室で、建物の中心に掘りゴタツがあり、そこに向かって議論することでフラットな関係で活発な会議をしようというコンセプト。そのコンセプト通り、23人が車座になり、建物の四方に講師のお2人と僕と辻先生が着席する形で、ディスカッションが始まりました。

関本さんディスカッション

関本さんはディスカッションでは会場の話題をどんどん導いてくれました。

小谷和也さんディスカッション

クライアントとも同業者とも対等な立場を目指すという小谷さんは、学生さんに対してもフランク。

テーマは「暮らしと木の家具」です。このテーマは、僕がお2人の設計案件の完成内覧会に伺った際に、どちらの空間にも独特な“家具(特にテーブルと椅子)への思い入れ”を感じたことがきっかけです。
「設計における家具の役割について、こう考えているという設計指針があれば教えてください。」
という問いかけに関本さんが口火を切って答えてくれました。
「僕の設計は最近、テーブルを造りつけることが多くなりました。ここで集まって団欒してください。と決めてしまう。席順も。お父さんはここ。お母さんはここ。違う違う、あと3ミリ右です。というように(笑)。でも、椅子は好きな椅子を選んで欲しい。家族一人一人が違う椅子でも構わない」
対して小谷さんはこう。「僕は逆に家具は造りつけないんです。テーブルやソファも、建主さんに“ここから動かさないと思う”と言われても、半ば意地になって可動式にしてる(笑)。」
「多分、小谷さんはマンション、僕は新築住宅ということが、固定か可動かのスタイルに影響している気がします。新築は一度建てたらその敷地から動かせないから……」
「なんか、関本さんと僕は似てるってよく言われてるけど、違いがわかってきたなー(笑)」

久津輪雅さん

家具を製作する側である久津輪先生からも、暮らしを考える示唆に富んだお話をいただきました。

2人のトークは家具から始まって、お互いの設計スタイルやクライアントとの対峙の仕方まで深まっていきました。
椅子をつくる側の立場で、木工教員の久津輪先生にも話を振ると、
IKEAなど大量生産の家具に席巻される業界で、個人や小規模の家具工房はやっていけるのか、作り手を育てることに意味はあるのかと思ったこともあったけど、お客さんの暮らしに寄り添い提案する仕事は大手ではできない。個人や小規模の作り手にもまだまだ活躍の場はあると思うようになった
これには講師陣も納得でした。我々は家や椅子だけを提案しているのではなく、暮らしそのものを提案する仕事をしているということを、改めて共有できました。

後半は、会場の学生から質問をもらう形でディスカッション。
Q:施主の要望を聞かない建築家ってなんなの?
Q:こうしておけばよかった……という気持ちとどう折り合いをつける?
Q:若い時と今で、何が変わった?
など多くの濃厚な質問が出ましたが……お二人の回答はここでは書かずにおきます。アカデミー生の役得ということで。
ただ、お二人は真っ直ぐわかりやすく、クリエーターとして対等に、これ以上なく誠実に回答してくださいました。

今回のディスカッションでは、
「暮らしそのものを提案できること」
「クライアントから本当の要望を引き出すコミュニケーション能力」
この2つがこれからのクリエーターに共通して大切であるということを会場全員で共有できたと思います。
盛況のうちに講義は終了。今しか聞けない、貴重な講義でした。

……でも実はもうひとつ、お2人の話から学べることがあります。(これからクリエーターになろうとする人と、この日会場にいた学生の皆さんにこれをお伝えしたくて、この長い文章になってしまったのですが。)
それは「クリエーターは内的衝動だけでなく、外的要因をきっかけにして何かを生んでいく」ということではないでしょうか。
今回の講義では、小谷さんは「問題解決」、関本さんは「敷地とクライアントの徹底分析」の設計プロセスに思えました。いずれも「そこにある条件を整理し、解決案を統合することそのもの」がクリエイティブな仕事になっています。
何もないところから自分だけで突然何かを生むのではなく、そこにある問題を整理して解いていくように提案するのです。別に自分に巨大で独善的な創作欲求がないからといって何も問題はありません。そこは安心してください。

クリエーターは何かをつくり続けるからクリエーターなのですが、つくり続けるというのは本当に大変で、家具でも、建築でも、文章でも、音楽でも、絵でもそれは変わりません。
ですから我々はいつも、“答え”を探しているというより、むしろ“問い”を探しています。つくり続けるために、自分を遠くまで連れて行ってくれる大きな問いを。

2年生はそろそろ卒業ですね。
これからクリエーターになろうと思うみなさんは、悩んだり、訳がわからなくなることを恐れずに、自分の問いに向き合ってください。

小谷和也さん、関本竜太さんにこの場を借りて改めまして御礼申し上げます。

木造建築専攻教員:松井匠

小谷和也・辻充孝・関本竜太

レアなスリーショット。小谷さん関本さん、素晴らしい講義をありがとうございました。

木工学生と小谷さん

木工学生の作品を見てもらいました。「この仕組み使えるかも〜」と小谷さん。


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