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2019年01月11日(金)

木工を仕事にしたいと考えている人へ〜森林文化アカデミー・木工教員からのメッセージ②〜

2007年に私が独立して木工房を開業したとき、木工で独立して生計を立てるというのは宝くじを買うようなギャンブルでした。

大多数の人から見れば、収入も不安定で成功するかどうかもわからないことに飛び込むわけですから、無謀な若者に見えたことと思います。しかし、今はギャンブルをしない木工起業が実現できる世の中になってきているように感じます。ここでは私の身近なところで目にする「今、地域社会に求められている木工家」についてお話をしたいと思います。

自営木工家時代の作業スナップ

自営木工家時代の筆者


おもちゃ作家から教師へ いまは四国や九州でも技術指導

私は2017年の春に森林文化アカデミーの教員になる前は自営業で木工房を経営していました。自分で木のおもちゃをデザインし、作って販売する。世にいう木工家(おもちゃ作家)という職業です。開業当初は何のコネも頼る人もなく、飛び込みで営業をして取扱店が1つ増えることに一喜一憂する。そんな心身ともに過酷な日常でしたが、そこで得られる成果は自分が社会に認められたという実績であり、1つ1つの仕事に大きな達成感とやりがいを得ることができました。

その後、私の仕事はおもちゃのデザイン提供や、製作の技術指導といった広がりを持つようになりました。その現場は岐阜県内だけでなく遠く四国や九州にもあります。

ラトルのジョーイ

自営業のころに作っていた木のおもちゃ「ラトルのジョーイ」

キーワードは地域の木。おもちゃ作りにスポンサーが付く時代が来た

前職(自営業)のころから今も継続して関わっているプロジェクトに、近年多くの自治体が名乗りをあげているウッドスタートという事業があります。これは東京おもちゃ美術館が推進している木育プランのことですが、事業の1つに地域材を使った木のおもちゃ作りがあります。私はこのおもちゃ作りにデザイナーとして参加しています。

今、地域の自治体や企業、子育て支援者などが、このウッドスタートに賛同・出資し、地域材を使った製品や木のおもちゃを作ったり購入して、木に日常的に触れられる場づくりを行っています。

森林組合や製材業も木工品を作る時代へ(林業の6次産業化)

また、これまで素材生産が主だった森林組合や製材業からの商品開発の相談も増えてきています。昨年は地域材で開発したおもちゃへの助言を求められたこともありました。今、林業業界では高い付加価値の付いた商品開発に取り組む事業者が増えています。一方で、材種や地域の木の特性を理解して商品を開発する作り手というのが、業界に不足しているように感じられます。

切られているのに活用されない地域の木

私が四国や九州で地域材の調査をした際に意外だったのが、地域の山に思った以上に多くの広葉樹があったことです。もちろん、杉やヒノキの針葉樹の人工林が多いのですが、丸太を集めた土場に行くと、家具やおもちゃ作りに使えそうな大きな広葉樹も目にします。

話を聞くと「誰かが買うかなと思ってかなり前に山からおろした」「こういう木は現場で邪魔だったら切るけど、普段は山の中に捨ててくる」と言うのです。このような広葉樹は大手家具メーカーが継続的に使うには量が足りませんが、個人の木工家が使うには十分足りる量が確保できると思いました。

土場の脇に積まれた広葉樹

写真の奥の方、けっこうなサイズの広葉樹が土場の脇に放置されている。


今、地域の課題は「作り手がいないこと」

今、日本の山には「誰かが使ってくれたら良いな」と思われながら廃棄されている木材が無数にあります。同時に、昨今の木育事業の普及で自治体や林業従事者の中に廃棄されてきた木材の活用方法を考え始める人が出てきました。そのような人たちがこの木を使って何かをしたい!そう考えた時、地域で求められ始めたのが「地域のことを考え、地域の資源を生かしたモノ作りの提案」ができる作り手の存在なのです。

私が現在、岐阜から四国や九州まで出張して地域材製品の企画に関わっているのは、これができる作り手やコーディネーターが地域に全く足りていないためでもあるのです。

私と地域の具体的な作り手としての関り

私が地域材を使ったおもちゃのデザインを提供するときは、必ず最初に地域材の流通や地元木工業者の調査と、おもちゃ作りへの想いを聞くヒアリングを行います。

これは地域ごとに製品作りへの想いや課題が異なっているからです。私の仕事は、ただ単におもちゃの図面を引けば終わりではなく、おもちゃに地域の想いを反映し、同時に地域で作り上げられるおもちゃの図面を引くことです。ただ図面を引けばそれで終了というわけでなく、おもちゃが完成するまでの助言や指導も求められるのです。

地域の木育推進のために作った積木

ウッドスタートで開発した積木。名産のゆずをモチーフに地元の作り手が製作した。

森林文化アカデミーで取り組み始めたプロジェクト

2017年度にアカデミーの木工専攻では希望する学生を対象に、私が関わっている愛媛県西予市のウッドスタートのプロジェクトに参加してもらい地域材を活用したおもちゃ作りと製品化に取り組みました。

学生達は現地調査から関わり、デザイン起案、試作品の作成や制作指導まで踏み込んで実務に携わりました。このプロジェクトで開発した「西予のたからばこ」は2018年の4月から、西予市の誕生祝品として子どもの生まれた家庭に配布が始まっています。

これに参加した学生の1人は卒業後に、ウッドスタートの誕生祝品(木製玩具の開発)事業に監修者として関わっています。もう1人の学生は地元企業で地域材を使った新しい玩具製品の開発に取り組んでいます。

2017ウッドスタートプロジェクトチーム

学生が関わって企画した積み木「西予のたからばこ」

スキルがある人材には、雇用制度がある(地域おこし協力隊)

今、私のところには地域からの作り手を求める求人の相談が届きます。

2年前にウッドスタートで関わった自治体から、地域の木育事業に携わる木工のスキルを持った人材を求めて私のところに問い合わせが届きました。他にも、自治体が運営している木工房を活用して、新しい地域材製品の開発ができる学生を求める相談や、地域の山に生えるヤマザクラを使ってモノ作りができる人を紹介してほしい。そんな相談が届いています。実際に就職につながった例では、今年卒業予定の学生が作り手のスキルを買われ、木工体験のプログラム開発に取り組み始めた森林組合への就職が決まっています。

地域の工作室

地域の工作室では後継者を探していた。施設には本格的な木工機械がそろっている。

このような求人は自治体が窓口となり、地域おこし協力隊での雇用になるケースが多いです。3年間、地域の課題に取り組みながら、同時に自身の事業自体も独立に向けて準備をしていくことになります。かつて、自分が独立して工房を立ち上げた頃のことを振り返ると、これはとても恵まれた条件だと感じます。安定した収入も得られ、同時に地域の支援を受けながら、自分の事業を立ち上げることができるのですから。

最後に

今の時代に、私が10年前に起業したのと同じ方法で事業を立ち上げ、継続することはとても困難だと感じています。これは、時代が木工家という職業を求めてはいないという意味ではなく、社会が求める木工家の形が変わってきたという事です。

今、地域というワードがとてもアツい時期が到来しています。木工家の1つのあり方として、地域の支援を得ながら、同時に地域のためにスキルを活かしていくギャンブルではない起業が可能になっています。ただ、この地域で求められているポジションも早い者勝ちの椅子取りゲームです。今後もずっと空いたままではありません。

もしこれを読んで、木工という仕事に興味を持たれたなら、1度森林文化アカデミーにお越しください。ここで書いたことをもう少し深くお話できると思います。

前野 健(木工専攻 講師)

「木工を仕事にしたいと考えている人へ①」こちらも合わせてお読みください


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