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2023年03月06日(月)

自力建設2021#20「木立のこみち」板金工事

・屋根葺きと雨樋(あまどい)の計画

・板金工事

・建物の輪郭が明確になった(雨樋完成)

 

もう卒業というタイミング。

ですが、昨年の自力建設の報告の宿題となっていた板金工事の記録を追加させていただきます!

 

 

雨のデザイン—雨をしのげる施設づくりが最重要課題—

 自力建設「木立のこみち」では、雨天時でも校舎間を濡れずに行き来できることが求められました。そこで屋根は大きくして軒下を深くし、軸組の足元に雨がかからないようにしよう、という方針で設計を進めました。

 屋根は雨のすべて?を受け入れ、速やかに地面に排出していく必要があります。

地面へと流す役割を担う雨樋もセットで考えていく必要があります。

屋根を架ける前の状態

屋根のデザイン

 大事なデザイン要素にもなるのが屋根です。その検討点は、①屋根の葺き方、②屋根の勾配、③軒の出寸法、④そして屋根のシャープさを阻害しない雨樋、の4つです。

 

①屋根の葺き方

 庇・通路とも片流れ屋根としました。屋根材料は軽量かつ耐久性の高い金属板とし、薄くシャープなラインを出すため、軒ラインに対して垂直に立上りを設ける「立平葺き」としました。

平板葺き(ニスクカラーPRO)

木立の庇の屋根伏図

②屋根勾配

 「木立の庇」と「木立の通路」の屋根は同じ勾配とし、ぎりぎり雨水が流れる0.5寸勾配としました(1,000mmの水平距離に対して50mm立ち上がる勾配)。

 理由は、雨仕舞上、庇と通路の屋根の一部が重なるのですが、通路の屋根高さをなるべく高く確保しながらも、ウッド・ラボ棟の既存屋根の下に、庇と通路の屋根を重ねたかったことが理由です。

屋根の重なりの構成(ウッド・ラボ、庇屋根、通路屋根)

庇と通路の屋根を重ねつつ、通路の屋根はなるべく高く、となると、屋根勾配をできるだけ緩く、水平に近い勾配にすることになります。その結果、0.5寸勾配となりました。

 

③軒の出寸法

【木立の庇】

 庇の出幅をどのくらいにするかは、構造上無理のない範囲で、かつなるべく雨に濡れない軒下空間を広く確保したい、でも過大にならない程度、という観点から、約2.1mとしました。

木立の庇矩計図

【木立の通路】

 軒の出の検討は、美濃市の風速から雨の傾斜角を割り出し、吹込みの程度を検討しました。

気象庁HPなどから美濃市の平均風速と降雨量をピックアップし、エクセルで計算します。

 計算方法については、書籍『雨仕舞のしくみ』(石川廣三著、彰国社発行、2004年)に計算式があり、それを元にしました。

降雨時に風速を考慮した軒の出の検討。赤囲みの数値の範囲で考える

上記の検討を経て、「木立の通路」は、軒の出を約70cmとすることに決まりました。

軒の出を1m近くにする案もありましたが、建物のプロポーション的にあたまが大きくなりすぎるのでは? ということと、台風時の吹上力を相当大きく受けるのでは? という意見から70cmにしました。

木立の通路 小屋伏図

木立の通路 断面図

屋根板に用いる板材は、以前のブログで報告した「屋根野地板の製作」(https://www.forest.ac.jp/academy-archives/jrk-racp/)をご覧ください。

 

雨樋の計画

 屋根には雨樋が必要です。雨樋が無いと、屋根に降った雨が軒先からしたたり落ち、地面に当たって跳ね返り、結局は木造躯体を濡らしてしまいます。

 一方で、雨樋の見え方も考慮しないと、軒先のシャープなシルエットが損なわれてしまいます。半円形状の雨樋が一般的ですが、普通過ぎる。。もっとデザインされたものが良い、ということで、タニタハウジングウェアの「HACO 6号」にしました。

 雨樋と板金屋根の軒先の「唐草」との取合いについて、簡単な模型をつくり皆で確認しながら決めていきました。

唐草と雨樋の取合いの確認

 「木立の庇」の雨樋は、樹状方杖に沿わせたデザインとし、方杖架構を横から見たときに雨樋が目立たない工夫をしています。

木立の庇の雨樋

「木立の通路」の雨樋は、既存のウッド・ラボ棟の竪樋まで接続する納まりとしましたが、斜めに伸ばす必要があり、板金屋さんの提案で、T形ドレンを上手につけていただき、図のような納まりとなりました。

木立の通路の雨樋

屋根工事

 そして屋根の施工です。以下の手順での施工となります。

①屋根板の設置

②アスファルトルーフィング貼り付け

③板金工事(屋根葺き)

④雨樋の設置

 

①屋根板の設置

幅はぎして板材にした屋根板を張り付けていきました。ざっくり数えると、庇と通路と合計で長さ1.82m×50cmの板60枚、3.6m×50cmの板10枚。

これらを持ち上げ、設置していきます。1.82mの板が一枚15kg。3.64mは倍の30kg。この工事のおかげで腰痛持ちの体になってしまいました。

いよいよ屋根板設置

木立の通路の屋根板設置

木立の通路の屋根板設置 ひたすらビスを打って留め付け 400本弱打ちました

木立の通路の屋根板 柱との取合いは板を欠き込んで納めています

木立の庇の屋根板設置

木立の庇の屋根板設置

屋根板を載せて、木質構造用ビスで留め付けていきます

設置した屋根板上で喜ぶ

②アスファルトルーフィング貼り付け

その後ルーフィング工事です。

木立の庇のルーフィング

木立の通路のルーフィング

ルーフィング工事を終えたのが2021年12月21日。雨や雪から保護するため、ブルーシートをかぶせ2021年の工事は終えました。

 

③板金工事

板金屋さんとのスケジュール調整と天候の関係から、板金工事は年明け2022年2月26日に行うことになりました。木立の通路、木立の庇とも、屋根の葺き方は「平葺き」です。

2月21日。雪降った~

軒を深くしておいて良かった

木立の庇 板金を敷き込みます

あらかじめ軒先のパーツ「唐草」を取り付けておきます

木立の庇 板金を敷き込みます

木立の通路 こちらも板金を敷き込みます

板金を敷き込んだら、端部を折り曲げて固定します

端部の折り曲げが綺麗にできる「くるりんぱ」

「くるりんぱ」を使って端部を折り曲げていきます

端部を折り曲げていきます

板金を折り曲げて最初に取り付けた唐草となじませます

先端の留め具をビスで固定します

軒先のシャープなラインができてきました

水糸で雨樋の取り付ける勾配を調整します

雨樋を付けていきます

既存の竪樋にグラインダーで穴をあけ、新規の樋と接続します

木立の庇に雨樋が付いた

木立の通路にもうまく付いた

ようやく雨樋が付いて完成! 作業は1日で終了

竣工後の風景 雨樋が建物のかたちを引き立たせています

屋根は建物を使っている立場だと、普段あまり意識しませんが、建築の見栄えに大きくかかわるものです。今回の自力建設ではシャープな屋根のラインを作ることができました。「木立のこみち」を通るときは、ぜひ屋根も見ていただきたいと思います!

 

木造建築専攻 橋本剛