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2022年07月22日(金)

自力建設 2021「木立のこみち」タープの話

最近、日差しの強い日と時折降る強い雨が交互に訪れる不安定な天気。1 日の中でも天気の移り変わりが 早く、屋外の活動は少しやりづらいところ。 「こんな天候に振り回されず、グリーンウッドワークを屋外で気持ちよくやりたい!」そんな声がちらほらと聞こえてきます。

先日、竣工式を迎えた 2021 年自力建設「木立のこみち」。ちょこちょことこれまで話題に上がっていま したが、同時進行で屋外作業用のタープの検討を進めていました。木立の庇によってウッドラボの軒先 空間は広がりましたが、屋外の作業には物足りない広さです。それを、タープで補おうという計画です。

タープの下でGWW

青空のもと授業を行う様子。1 枚でもしっかり日陰が落ちているのがわかります。

 

完成形を見せてしまうとこんな感じです。「家具をつくる」の授業で制作した椅子やホワイトボードと合 わさってなかなか良い空間になっていると感じます。久津輪先生もご満足いただいている様子に私たち もほっとしています。
今回は経緯について説明します。

 

「屋根付き自由通路」と組み合わせた屋外空間の設計

元々は、2021 年自力建設のお題とは別に、木工専攻の教員の方々がウッドデッキにタープを設置する予 算を申請していました。 新型コロナの感染流行のこともあり、密閉された屋内よりも気持ちの良いウッドデッキ上の屋外空間で、グリーンウッドワークなどの活動や、授業や外部向けの講座を開催したいとのこと。

全国の自力建設ファンの皆様ならお分かりの通り、講評会の後、「木立のこみち」の設計を詳細に進めて きました。別予算とは言え、タープの設計をおざなりに行えば、「木立のこみち」全体が台無しになる可 能性があります。そうならない様に、以下の点に着目して慎重にタープの導入を検討していきます。

・強い日差しを遮り、少々の雨を問題にしない性能 ・授業や外部向けなど、10~15 人程度が一斉に作業できる広い空間 ・ずっと日陰にはしたくないため、使わないときは収納できる開閉式 ・ウッドデッキ周辺の景観を損なわない意匠 ・設置と片付けに手間のかからない仕様 ・自力建設とは別で、80万円の予算 ・橋本棟梁のプランにマッチすること

多くの条件に頭が痛くなるところ、一言にタープといっても様々なものがあるので、まずはタープと名 の付くものを調べたおして、とりあえず 3 タイプに候補を絞っていきます。

1「ソラカゼ」タイプ(独立型) メーカー品の名前を勝手に使っていますが、要は既製品の中から適したものを探そうというところ。 フレームが独立式のものもあれば、オーニングのように庇の延長のような商品もあります。商業施 設に多く使われているイメージです。

2 特注(支柱、基礎、タープ生地を一から設計) こちらも滋賀県にある商業施設の名前を勝手に借りてカテゴライズしましたが、要は 1 から設計し ようというところ。

3 アウトドア用タープ(後付け型) 最後は、軽量な生地で丈夫なアウトドア用のタープを、架構を利用して設置するタイプです。今回 であれば柱や登り梁を利用してタープの一端を固定することができそうです。

当初は2特注を検討していましたが、タープを受けるための構造を作るための予算が圧倒的に足りない のと、どうしてもタープ設置と撤収の手間を小さくすることができません。1の既製品を使う案につい ても基礎やフレームが残ってしまうことなど、「木立のこみち」にマッチしません。

そこで、有力となったのがアウトドア用タープ。軽量なタープを設置することで、庇の架構先端にかかる 荷重を抑えることができれば、実現可能なプランでした。取外し可能なので、使わないときの景観は維持 できるのと、緑が多い空間に相性がよいと感じました。 早速、庇に着けたときにどのくらいの屋外空間を作ることができるのか図面で確かめます。

格子を構成する柱と登り梁は 1820mm 間隔で並んでいる。それに合わせたタープの大きさを検討。

 

木立の庇の登り梁の先端に金具を取り付けることで、最大で 3 枚ほどのタープを張ることができ、10~ 15 名が十分に作業できる広い空間(庇とタープ合わせて約 70 m²)ができそうです。

早速、施主である木工教員の皆さんにプレゼンをします。

施主へのプレゼン

先の3つのタイプについてと、私たちの押しのプランであるアウトドア用タープの後付けプランについ て説明します。実際にウッドラボの古い格子に取り付けてみます。この時は、サンプルで購入した M社の軽量タープを使いました。

サンプルを用いて施主とイメージを共有。

 

この時は、私たちの提案にご理解いただき、アウトドア用のタープで進めていくことに。その際に、既製品もいいけど、この空間にふさわしい素材や色、ボリューム(大きさや設置高さ)を検討するよう要望を いただきました。

早速、タープの素材、色を見るため、いくつかのメーカーから生地サンプルと色見本を取り寄せてみんなで検討に入ります。今回はタープ単体で考えるのではなく、関連する木材の塗装の色、屋根の板金や雨樋の色も併せて検討します。ほかにも、既存の建物(ウッドラボ)やデッキの色、周りの植栽、空の抜け感、などなど様々な点を考慮して一体感のある空間の実現を目指します。

数多ある色から最適の色を各自選びます。一人ひとりの想像力が試されます。

 

まずは学生間で色を絞ることに。数ある色のサンプルを見ながら、各自想像を巡らせます。ついてこい、私の想像力。投票を行い、各自の意見を聞きながら協議をおこない数種類の色を厳選、そして再度施主の木工教員の みなさんへプレゼンです。

建築の学生で厳選した色をもって先生方へプレゼン。生地サンプルはなるべく大きめを用意。

 

この後、木工専攻の学生にも聞き取りを行い、生地と採用する 2 色が決まりました。生地メーカーは TEIJIN 社で、色は白に近いベージュと、遮光性能の高いグリーンとなりました。

取り付け方法の検討

肝心の取り付け方法の詳細が決まっていません。設置と片付けの簡易性と使っていないときの見栄え(意 匠)を両立させる仕組みを検討します。

・使わないときのロープの巻き取り方法(収納方法)をどうするか
・柱と登り梁にどのようにロープを沿わせるか
・周囲が暗くなった際に、タープのテンションを張るためのポールやロープを蹴り飛ばさないように視認性を上げること
・タープを貼ったときに木立の庇の構造に加わる荷重(風圧力の中でも吹上げの力に耐えれるのか)

タープの取り付け方を検討したときのスケッチ。アウトドア用のタープの貼り方を参考に。

色々と工夫したのですが、このような形でイメージはまとまりました。構造検討チームも交え、風圧力 (吹上げ)の荷重を算出するために、タープの面積も加えてもらい検討します。「庇が壊れる前に金具が 吹っ飛んでくれたら大丈夫そうですね」そんな冗談を言いながら、安全性を確認しました。

ここから先は、取り付け工事の様子を見ながら説明していきたいと思います。

 

そして、大工さんによる取り付け工事

さて、時は進んで、屋根や雨樋などの板金工事が終わり、タープの取り付け工事に入ります。お二人の大工さんに大まかなイメージと使う金物について説明しながら、具体的な設置方法を現場で決めていき ます。打ち合わせになんと 1 時間ほどかかりましたが、大工さんのお二人がアウトドアに詳しい方で非 常に助かりました。

まず、大工さんがタープを取り付けるためのロープとカラビナを庇の柱と登り梁に手際よく設置していきます。リングのついたステンレスプレートで、ロープをガイドします。ロープに余りを持たせておき、 先端のカラビナを引き下ろす仕組みです。

(左写真)引き下ろして、(右写真)小柄な方でも手が届くようにロープの長さを決める。

(左写真)柱の根元にステンレスプレートで基点を作り、(右写真)自在金具でまとめます。

 
まず、一枚設置してみます。なんとかなりそう。

試しの一枚目。

ところで、ポールの役割は?という疑問。タープの取り付け高さの確保(高さ 2400mm)と、ポールから先のテンションを張るためのロープの起点になります。ポールを引っ張るためのロープの先はデッキ 材に金具を付けてカラビナで引っ掛けます。

こんな感じ。

(左写真)ポールの先にロープをひっかけ、(右写真)デッキ材に取り付けた金具にカラビナでフック。

 

 

ここからの大工さんの仕事は早く、あっという間にすべての金物を取り付けてくれました。

午前中にすべての作業が終わり、ほっと一息。

という訳で、タープを取り付けることができるようにした、と一言いってしまえば簡単ですが、ここに至るまでに色々な手間と苦労がありましたので、長々と説明してしました。

ところで、タープは 2 枚のカラーを選択しました。グレージュ(透光率 20%)とフォレストグリーン(透光率 1%未満)。試しにタープを貼った際にスマホのアプリを使って地面付近の照度を測ったところ、グ レージュは 18500lx、フォレストグリーンは 200lx となんと 0.01%ほど。日差しが特に強い日はフォレス トグリーンが活躍しますね。

手前が透光率 1%以下のフォレストグリーン。明るさの違いは一目瞭然。

 

今年の翔楓祭ではこのタープが活躍してくれるとうれしいですね。

木造建築専攻 2 年 河野哲寛