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2021年06月08日(火)

自力建設2021「木立の通路・木立の庇」設計者決定

自力建設の公開プロポーザル&講評会から一週間。

約60名の投票の結果、今年度の代表設計者・素人棟梁は「木立の通路・木立の庇」で提案された橋本さんに決定しました。

全員の提案に票が入り、かつ1位から4位までがそれぞれ1票差の僅差。私もそうでしたが、それぞれの提案が甲乙つけがたい出来でした。投票された皆さんも同様の悩みがあったと思います。

講評用紙は両面では足りず複数枚書かれる方もいて、70ページの大ボリューム。自分の計画案にこれだけのコメントいただく機会は、実務をやっていてもまずありません。本当に貴重な経験です。
また、毎年のことながら、これだけの講評を書いていただく学生さんにも感心します。

これから頂いた意見やコメントを全員で読み込んで、橋本さんを中心に、一つのチームとなって計画案を取りまとめていく作業が始まります。

今年はどんな計画案に育っていくのか非常に楽しみです。

 

11人の計画案、それぞれに特徴が際立ち、良さがあります。どのように咀嚼して、一つの計画案に収斂されていくのか、、、。

11名の学生の提案を私のコメント付きで少し概観してみます。まあ、あくまで私の感想ですので他の方はまた違った感想を持っていることでしょう。

 

1.「木立の通路・木立の庇」橋本さん

必要な機能を分割し、既存建物を延長する庇部分と新たに建設する屋根付き通路を、それぞれに丁寧な検討を行い空間を組み立てていました。デザインもセンターゾーンには無かった樹状トラスで違和感なく納まっています。完成度が非常に高い提案です。
特に、無柱で庇を伸ばす形状は秀逸。リズミカルかつ軽快な印象を与え、既存建物がより洗練された景色になっています。既存格子に取り付ける後付けカウンターもさまざまな利用をイメージで樹使い勝手が良さそうです。。
通路部分も同じ構成の繰り返しながら、柱位置を千鳥にし、起点高さを変えることで、ある種ランダムな自然な景色に見え、移動時にはより一層引き立つイメージが頭に浮かびます。

2.「フォレスター通り」田村さん


川上と川下を繋ぐ場としてこの立地を位置づけて、丸太から製材まで、材の使い方を徐々に変化させていく考え方が面白い建物です。通りというタイトルとイメージ写真から、いろんな人が行きかう賑やかな空間を目指したことが明確でわかりやすく楽しみな空間です。
しかも「おうらいの茶の間」から中庭まで計画範囲を広げてまさにここに、学生たちのメインストリートが現れる構想はワクワクでした。
建物は気をてらわない非常にシンプルなデザインで、建物が空間を引っ張るというより、ここに集まる人が空間を創っていくのだとわかります。

 

3.「For Rest」宮森さん

アカデミー生活の経験から、特に印象深い既存の樹木を活かすことを出発点として考えを発展させた流れがわかりやすいです。単純な通路だけでなく、樹木に視線を誘導する東屋や土間を追加することで、少しだけ非日常の意外性を足し、しかもその効果的な演出のために高さを変えたアイデアは、秀逸でした。また、現在デッドスペースで景観を害しているアカデミーセンターの外壁周辺に活動範囲を広げた提案も素晴らしいです。

 

4.「Lucia」名和さん


お気に入りの木漏れ日に着目して、全体を統一したデザインの考え方が素晴らしいです。屋根形状は奇抜とも思える三角形で構成し、それらが落とす影と木漏れ日の変化を意識した屋根が印象的です。そのままかけてしまうと、異質な形態になりがちなところを、センス良く不思議と空間になじんでいるから不思議です。絶秒なバランスで成り立っています。デッキ側から見ると、受け止めるような形態と、6期自力建設の桂の湯殿側から見た高さの変化に加えて屋根材質の変化の見え方の変化も自然に感じます。
内部での交流と内部と外部の交流にどのように寄与できるかを意識した空間の作り方が面白く、特に内部での交流に視線の交錯を建物形状で表そうとした考えは秀逸なアイデアでした。

5.「木のダンス会場」河村さん


通路とタープ部分を分けてそれぞれに丁寧な検討を行っていました。通路部分は、13期自力建設の「おうらいの茶の間」をリスペクトしたようなシンプルな形状ながら、東西に設置された二枚の壁が特徴を際立たせています。
デッキ側の局面を描く左官壁は、遠くからも何だろうと気を惹くアクセントになっており、機能的にも良くできています。歩行者と活動している人との適度な距離感を形成する境界の役割があり、夜間には、この壁に照らされた光が照明装置としても機能します。
駐車場側は、桂の湯殿と対をなすような格子壁で、デッキ側をステージとすると裏方の役割で、ここから漏れる光が緩やかに足元を照らし、駐車場に導くサインにもつながります。
タープ棟は独立して存在し、収納やランチなどに使える休憩場所として機能しつつ、タープを設置するワイヤーの土台にもなっています。分割された既製品のタープはメンテナンスを考えると、便利な提案です。

 

6.「空間に溶け込むアカデミーらしさ」鈴木さん

この完成度、すごいですね。下図は竣工予想CGですが、まるで設計当初から計画されているような出来栄えです。
全体的に高次元できれいにまとまっており、すぐにでも建設にかかれそうな検討結果と情報密度です。
デザインは非常ンいシンプルな屋根の連続で、特徴的なのは高さの設定。活動と見え方に適したふさわしい高さを検討し、リズミカルに、機能的に屋根がつながっていきます。
通路を歩く人も遠くから俯瞰する人も気持ちよくみることができます。
柱の足もとの腐朽を嫌い、鋼管を採用している点も現実的で公共施設として素晴らしいです。半面、現実的過ぎて面白味にかけるというのは、贅沢な悩みでしょうか、、、。

 

 

7.「オープンデッキ」小島さん


自ら体験した昼食時の心地よさの期間をなるべく伸ばすように解放感をコンセプトにシンプルに空間を構成しています。既存の通路から外に庇を持ち出すことで、はつり台等の収納を外に出し、既存建物の庇下を従来の通路として復活させています。独立して庇を支えるように柱が多くありますが、きちんと既存格子とピッチをそろえることで、使い勝手として窮屈な印象を受けません。逆に柱があることで新規庇の下の収納容量の増加(収納の可変性に対応)や活動の場として拡張した場合の安心感につながっています。
ゆったりとした片持ちタープの設置で、無柱空間を拡張することで、雨を楽しむ余裕の場所に広がり、当初コンセプトの心地よい期間を延ばすことにつながっています。

 

8.「陰のたまり」斎藤さん


陽だまりが魅力のこの空間に「陰のたまり」と聞いてどうなるかと思いましたが、陰があることで、逆に陽だまりの良さが相乗効果で拡張されています。
深さを変えた庇が格子の隙間の既存建物の外壁から出ており、既存屋根から引っ込んだ奥行きのある外観の立体感と陰影が美しいです。しかも、軒下は交互に光と陰の空間が繰り返され、歩くだけでも変化が楽しめそう。既存のアカデミーの黒い外壁が活かされて、タープがあることで面発光し、より光の空間の印象が高まりそうです。
大きな屋根下部分もアカデミーらしい、半屋外の教室として機能しそうでワクワク感がでています。屋根付き通路は既存の繋ぎ梁を連続してみせる手法など、センター棟からの導入は自然で面白いです。
デッキの列柱+庇は緑を切り取る印象深い空間で、この位置に構築物があることで、タープの増設など別の機能も持たせることができそうで面白い提案です。

 

9.「”のがっこ”の広場」波多腰さん


マズローの欲求の段階に合わせて今回の課題を整理し、特に交流の視点で選んだ場所が小彼岸桜周辺の空間。現在は、桜の季節しかフォーカスされていない場所ですが、行ってみるとデッキと地面の工程さも少なく割と開けた空間で場としてのポテンシャルは高いと感じます。現在のデッキをほぼ触らないことで、新たに拡張された空間での機能が追加されることになります。
その桜を取り囲むように段々に下がっていく連続した屋根をかけることで、雨の流れと、桜のシンボル性を際立たせ、ここに集まるイメージが目に浮かびます。

10.中島さん


屋根付きが必要か?という前提条件に疑問を持つところからスタートし、現状の課題を解決ではなく、解消を目指して検討を重ねた内容は素晴らしいです。
中島さんの具体の提案としては、デッキの減築とコナラの形をしたステージの増設、休憩場所としての傘の設置で、どうなるだろうと感じたが、スケッチがとても上手く、使われているイメージが伝わります。

11.「森の縁側」河野さん


日本独特のあいまいな空間「縁側」の機能に着目した点は非常に面白いです。空間は縁と円をかけて、円形の活動領域が屋根屋パーゴラ、飛び石などの様々な素材で連続し、それぞれの場所でそれぞれの縁を結ぶ内容が秀逸です。
構造もリズミカルに連続し、きれいな空間を創っています。
柱があることでの活動の広がりの提案は面白く、柱は空間の邪魔者ではなく、有益なパーツであることが明確に伝わってきて面白かったです。

准教授 辻 充孝