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2019年02月18日(月)

京都の「アサギ椀プロジェクト」 卒業生が木地制作で活躍

かつて京都で日常使いされていたという漆の椀「浅葱椀」を、100%京都の素材と京都の技術で復興しようという「アサギ椀プロジェクト」に、京都の伝統工芸の職人たちが取り組んでいます。その展示会「アサギ椀 〜木地師のこころをつなぐ〜」を見学してきました。

アサギ椀の子供用(手前)と大人用(奥)

京都・京北産のヒノキを薄く挽き、京うるしで仕上げた美しい椀です。子供用と大人用があり、将来は幼稚園などで子どもたちにも使ってほしいと思っているとのことでした。いま全国各地で、地域の木を地域で使うこと、地域の文化や技術を伝承することのさまざまな取り組みが始まっていますが、さすが京都と思わせる事例です。

 

プロジェクトを中心となって運営するのは京都の上塗師の三代目、西村圭功さん。実はこの漆工房で昨年春から、森林文化アカデミーを卒業したばかりの上田量啓さんがロクロ木地師(挽物職人)見習いとして働いています。上田さんは京都出身で、京都造形芸術大学の建築系学科を卒業したものの、木工に関心があったことから森林文化アカデミーに進学してきました。在学中に、木地師の後継者を求めていた西村さんとの出会いがあり、2年生の頃からは必要な授業だけを岐阜のアカデミーで受け、あとは京都でインターン生として技術の習得を続けていました。指導は木地師の西村直木さんが行なっています。まだ本格的に働き始めてから1年しか経っていないものの、めきめきと腕を上げ、今回展示された椀はすべて上田さんが挽いたのだそうです。

アサギ椀の木地制作を担当した上田量啓さんと西村圭功さん

展示されているアサギ椀の木地は上田さんが制作を担当した。

 

森林文化アカデミーでは、日本の伝統的な挽物技術、いわゆる「和ロクロ」は教えていません。かわりに初心者でも使いやすい西洋の木工旋盤を授業に取り入れています。上田さんも当初は木工旋盤に興味を持ち、卒業後は旋盤の工房で働ければと思っていたそうですが、まさか自分が伝統工芸の職人になり、このようなプロジェクトに取り組むことになるとは想像もしなかったとのことでした。

このように森林文化アカデミーは伝統工芸そのものを教える学校ではありませんが、上田さんのように伝統工芸の世界に飛び込む卒業生がいます。いま、アカデミーで学んだことは役に立ったと感じているのか、上田さんに聞いてみました。

「木の性質について科学的に学べたのが大きいです。伝統工芸の職人さんは木の動きを体感として分かってはいるのですが、科学的に学んだわけではありません。ですので私から師匠に説明することもあります」

「伝統工芸系の専門学校を卒業してきた先輩職人もいるのですが、立っている状態の樹木や森について学ぶ機会があるのはアカデミーだけのようなので、そのことも良かったです」

「和ロクロは学ばなかったけど、木工旋盤を学んだのも役に立ちました。師匠から『上田君は刃を木に当てる正しい角度を飲み込むのが早かった』と言ってもらえました。あとは昇降盤や帯鋸盤など木工機械の使い方を一通り学べたのも役に立っています」

森林文化アカデミーの教員から尋ねられたので、良いところばかりを伝えてくれたのかもしれませんが(笑)、伝統工芸の世界でもアカデミーの学びが有益だったと聞いてこちらも安心しました。

上田さんの仕事を間近で見ている西村圭功さんは「彼の内向きだけど探究心のある性格が職人にむいているのだと思います」とコメントされていました。

森林文化アカデミー在学中に旋盤の練習に取り組む上田さん

京都・京北産のヒノキ丸太を買い、上田さんが荒挽きをして乾燥中の木地。100個のアサギ椀を作る予定とのこと。

学校は人と情報の交差点のような場所なので、核となる技術をその学校で学ぶことはなくても、在学中に吸収した幅広い知識や技術や人脈が後で生きてくることがあります。また、何よりそこに在籍したことで良い人との出会いがあり、天職を得ることにつながるなら、すばらしいことだと思います。

まだまだ厳しい修行が続きそうですが、上田さんの今後の活動を応援したいと思います。

 

久津輪 雅(木工・准教授)