ドイツフォレスターの野生動物管理⑨
ドイツ研修8日目
さて、ドイツの野生動物管理視察研修の活動はついに最終日を迎えました。最終日は造林の視点で森を見る機会を頂きました。以下は田中君からの報告です。
ドイツ野生動物管理視察研修管理最終日

最終日は改めてロッテンブルク林業学校の演習林内の見学です。早朝にハイン教授とお会いし、助手を務めているリッパートさんから演習林で実施している研究について案内してもらうことになりました。
まず初めに、ドイツでは2003年、2004年、2018年に深刻な干ばつがあったそうでどの樹種も枯れてしまうほどひどかったそうで、20万haも被害を受けていたそうです。特に被害を受けた樹種はトウヒ、ブナだそうです。このことから気候変動の耐性が強いベイマツに焦点を当て、乾燥に関して研究をしているようです。
ベイマツは1800年代より北アメリカから持ち込まれた樹種でベイマツの故郷はドイツと似た環境で育っており、夏に降水量が少なく冬に多い環境なのだそう。また、ノロジカによる被害もないため焦点が当てられました。
試験地はベイマツの試験地と比較のためにトウヒの試験地があり、共に50~60年生の林分です。また試験地ごとに地質で分けているそうです。
各試験地では胸高直径、地質の水分状態、木の中の温度を測る機械があり、それを用いて「レジスタンス(抵抗性)」「レジリエンス(被害を受けてから翌年までに戻った量)」「リカバリー(被害を受けてから完全に成長量が戻るまでの期間)」の3つの要素に分けて調査を行っていました。
どうやら成長するには地質が重要な要素の一つらしく、根が深くに張れていれば地下水が流れる場所に接続できるため、地面が乾燥しても成長ができるようです。また、樹木が健康的に成長するためには適度な間伐を行う必要があると説明を受けました。

演習林内にキハラスズガエルの為のビオトープ
次にビオトープの見学をしました。このビオトープはキハラスズガエルというカエルのために作られた、ビオトープにたまっている水はすべて雨水だそうです。地質が粘土質のため水がためやすくなっています。このカエルは繁殖のために常に新しい水場でなおかつ、浅瀬の水場が必要です。以前は水路の暗渠が住みかとなっていましたが近年は気候変動の影響もあり水路に水が流れなくなり、最近だと山林でハーベスタなどの重機が移動した後の轍が繁殖の場となっています。
それならこのビオトープいらないんじゃないか?そう思いませんか?このカエルは出産のため冬になるとこういった水場で暮らす必要があります。このビオトープはそのための水場になっています。

そのあとはツリーシェルターの設置されている場所の見学に行きました。ツリーシェルターは経年変化の調査のため12年ほど経過観察をしています。どれだけで分解されるかは現在調査中ですが、生分解性のものでも分解には時間がかかるようです。屋内の試験室で行った際は直ぐに分解されたそうですが、森では気温や環境の違いから分解が進みにくいようです。

この試験地では生分解性のもの以外にも通常のプラスチックタイプのツリーシェルターも使われておりこれはどれだけマイクロプラスチックが出てしまうかを研究しています。網タイプのツリーシェルターはモミの生育でも使われるそうですが雪で倒れたりすると起こさないといけなくなるため雪との相性は悪いようです(場所にもよる)。
ドイツではどのタイプを使うことが多いのか伺ったところ値段が一番大切らしく一番安いものが多いそうです。

検土杖での調査体験
これで最終日、およびドイツ野生動物管理視察の報告は終わりとさせていただきます。
今回の視察を通し、森林経営を行い、野生動物との付き合い方というのは難しいものだと感じましたが同時に多くのことを知る必要があるのだと知りました。
研修前半では野生動物の狩り方、それも狩るための計画が動物の行動から射手、勢子の位置まで適格に練られたもを体験させていただきました。同時に計画をしっかりと練らなければどうなるのかも知ることができました。狩りを一つ行うにも動物の生態学、どこにどうやって勢子で追い立てれば射手が打てるかなど。そして巻き狩りで走り回っていた猟犬についても知り、犬種の得手不得手に合わせ調教を行う。ただ一つ狩猟のことについて概要として知るのではなくそこに動物の生態学などが入り込んでやっとで一つの計画を立てられます。そして、捕獲した後にどうやって流通に乗せるのか。ドイツでの巻き狩りの後に食肉加工業者が捕獲した動物を買い取りに来る流れを見学しました。加工場へと持っていき食肉へと精肉を行います。7日目のブログにて長さんが書いたように食肉として流通させるための基盤があるからこそ、狩猟が文化として社会に根付いているのだと感じました。
また、獣の被害を受けている場所を見学し、話を聞いて受動的な獣害対策ではなく能動的に獣害対策を行わなければならないと知りました。今の日本の被害状況を見て被害を受けて、ツリーシェルターを立てて被害対策完了なのか、やったうえで野生動物の個体調整を行うのか、必要なのはどちらなのか考えさせられました。
国立公園の見学では森林全体の関係性を知る必要性を知りました。例えばアカシカは増えすぎてしまえば前日見学させていただいた場所のように森林経営にとって悪影響をもたらしますがそのアカシカが下層植生を食べることによってオオライチョウは自身の住処を得ることができます。森林を使うことによってどう影響が出るのか知る必要があります。
私はこれまでただ狩猟、獣害対策と細分化した中の一つしか見ていませんでしたがそれは本当に正しいことだったのだろうか?狩猟を行うにも狩猟対象の生態を、使うものの知識を、狩った動物のその後を知る必要がある。獣害対策にもなぜ起こったのかを調査し、解析しなければならない。そして的確に対応しなければ対策も力を発揮しきりません。
知ることのできるものを可能な限り知らなければ正しい対処はできない。ほんの一部しか知らないのでは自分の知らない場所で、自分に影響が出るように帰ってくる。狩猟学を勉強するだけではなく、造林学、生態学などあげたらキリがないが知るべきことを知って初めて対応できるのだと、この視察より感じました。
最後に
本視察でつきっきりで案内してくださったロッテンブルク林業学校のバイムグラーベン教授、ドイツ連携の橋渡しとなってくださっているハイン教授、今回全日程で翻訳や解説をしてくださったアカデミーOBの小原光力様、関わってくださったロッテンブルク林業学校の学生及び職員の方々、視察させてくださった関係各所の皆々様にはお忙しい時間の中視察させていただき大変ありがたく存します。このような形ではございますが感謝の気持ちを述べさせていただきたいと思います。大変ありがとうございました。
森と木のエンジニア科2年生 田中大晴
あとがき(教員)
ついに1週間の視察研修が最終日を迎えました。最終日は森と地質目線から野生動物と自然の関係性を考える機会となりました。今回の研修は教員にとっても未だかつてないほどの内容のボリュームで、学生にとっては頭が追い付かない部分も多くあったのではないでしょうか。そんな中、情報の整理も兼ねてほぼ現地でこの活動報告の記事を作成してくれました。本当にお疲れさま!また、今回の視察は多くの方の協力を頂き実現できています。今回の視察で現地対応していただいたバイムグラーベン教授・小原さん含め、連携協定で様々な調整をしていただいた事務職員の方々にも感謝いたします。今回の視察を踏まえて、日本で・アカデミーで出来る事を広げていきたいと思います。今後をお楽しみに!
報告:引率教員 新津裕(YUTA)
過去の活用報告
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