ドイツフォレスターの野生動物管理⑦
今回の報告は森と木のエンジニア科2年生の田中君が報告してくれます。
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視察研修6日目は
・午前中に狩猟学校へ視察
・午後は新津裕准教授、クリエーター科の長航介さん、そして私の3人で「日本における野生動物管理の現状について」HFRの学生向け講義を90分×2回行いました。
先にドイツの狩猟制度について簡単に説明させていただきます。ドイツでは狩猟を行うためには猟区が設定された土地の所有者から狩猟権を契約して借りなければなりません。※もしくは狩猟権を有している猟師から招待される
しかし、借りてからその土地で適正な捕獲を行わず森林被害や農業被害が発生した場合、狩猟権を有している猟師が賠償金を払わなければならなくなります。両区の設定には一定の面積が必要なため、複数の人と合同して組合のようなものを作り貸していることもあります。
狩猟学校はこれから狩猟ライセンスを取得しようとする人が通う学校です。例えるなら自動車学校のようなものです。入学時に面接があり、過激志向の方や適性が疑われる場合は入学を拒否されることもあるようです。

チュービンゲンの狩猟学校「Jagdschule Wildbretschütz」
今回視察した狩猟学校では狩猟契約を結んで借りている土地をフィールドにして実習を行っています。Jagdschule Wildbretschützでは全体で600haあり、70%は林地で30%は農地になっています。このように色々な土地をもっているのは通う学生が多くのシーンでの経験を積むことができるようにするためです。
さて、皆さんはドイツの狩猟ライセンス取得の為にはどのような試験があるかご存じでしょうか?試験は「知識試験」「口頭試験」「射撃試験」の三つに分けられます。知識試験は日本の試験で言うと筆記試験のことを指します。問題は1250問の中から5つの科目で各25問出題されます。現在はこれらの勉強をアプリでも勉強できるようになっているとか。
口頭試験は10~15問ほど質問され回答するものです。科目としては「①哺乳類・鳥類(この中に農業と造林学が含まれている)」「②武器及び、武器の取り扱い」「③猟犬・狩猟の実践」「④関係法令」「⑤野生動物の病気・食肉加工と流通」の5つから聞かれ、法令と食肉についてが特に難しいようです。特に食肉については臓器の見分けを行う必要があり、なおかつ病気があれば病気の判別を行わなければなりません。
射撃試験は銃の分解から射撃までできるようにしなければなりません。銃種は最新のライフル、旧式のライフル、ショットガン、ドリリングの4種類の武器とピストル、リボルバーの2種類の短い武器の取り扱いを勉強する必要があります。実射撃ではノロジカやイノシシなどを模した動く的を狙う必要があり、ノロジカは5発中3発、イノシシは5発中2発当てる必要があります。

狩猟学校ではこれらのことを短期集中で勉強することができます。また、実践に近いことも行っており将来免許を取る人がよりよい狩猟を行うために学校側の利益に見合わないことも行うそうです。なお、試験を受けるためには130時間の座学と実践が最低限必要で、ライセンス取得に必要な費用は€2000~2500かかるそうです。
午後からはロッテンブルク林業学校で日本の狩猟制度について発表しました。

新津:日本の野生動物管理に関わる歴史、狩猟免許取得の流れ、獣害対策の手法、研究、熊事情

田中:狩猟免許制度と狩猟方法について

長 :野生動物が引き起こす人間への影響 ※長さんはすべて英語でプレゼンしました
日本では比較的ポピュラーなくくり罠や箱罠ですがドイツではごく一部の例外を除いて罠の使用はAnimal Welfareの観点から禁止されています。また、獲物をしとめる方法としてドイツでは基本的に銃で仕留めますが、日本では銃が扱えない場合はこん棒や電気ショックで仕留めることがあげられます。これらのことについて話した時に渋い顔をした学生もいました(特に仕留める方法については顕著だったように感じた)。

しかし、皆さんは真摯に受け止め、様々な質問をしていただきました。発表後には希望者に対してくくり罠の仮設を実演しました。終わった後にはバイムグラーベン先生からお褒めの言葉をいただき大変うれしく思いました。
1日を通しての感想としましては、狩猟学校では主に狩猟免許を取るための勉強を行っていましたが、狩猟免許を取ったのちに実際に行う上で必要なことや問題にならないようなことなど試験には出なくても必要なことを教えているところが印象的でした。また、狩猟者は造林学や農業についても学ばなければならないように一つの分野ではなく様々な関連分野を知る必要があることを知り、それは環境が違っても日本でも言えることだと感じました。狩猟が周辺環境に与える影響を知らなければ多くの悪影響を及ぼすことをこれまで視察を行ってきて感じ、ただ狩猟を行うだけではならないと特に考えさせられる機会となりました。
森と木のエンジニア科2年生 田中大晴
あとがき
狩猟学校にも郡の狩猟協会が運営する週末実施の長期コース、企業・個人が運営する短期集中コースがあります。今回視察させていただいたのは、マルクス・シューラー氏が運営する個人の狩猟学校でした。フォレスターではなく、猟師として狩猟学校に通う人の話は日本の猟師にも通ずるところがあり非常に興味深かったです。
本日はHFRの1年生に対して日本の野生動物管理の様子を紹介する時間を設けていただきました。興味持ってくれるかな?の不安をよそに多くの学生が手を挙げ質問をしてくれました。小原さんの通訳のおかげで双方に理解を深めることができたのかと思います。それにしても、90分2回のプレゼンは疲れました。その後、翌日の予習ということでバイムグラーベン先生からシューティングシュミレーターで、銃の取り扱いについての確認を行い1日が終了しました。

終了後も多くの質問をしてくれた学生たちと集合写真
報告:引率教員 新津裕(YUTA)
過去の活用報告
・1日目
・2日目
・3日目
・5日目