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2023年11月28日(火)

獣害対策研修会2023報告

2014年からドイツ・バーデンビュルテンベルク州のロッテンブルク林業大学との間で連携協定を結んでいますが、連携の柱のひとつである【獣害対策】に於いて今年はロッテンブルク林業大学からフォレスターに狩猟学を教えているバイムグラーベン教授にお越しいただきました。

Thorsten Beimgraben教授

 

ドイツではフォレスターにとって野生動物管理に関する知識と技能は必須との事です

現在、日本で深刻化しているニホンジカの獣害の事を考えると、森林を持続的に維持管理して木材を生産する立場の我々にとって欠かせない視点だと考えます。

 

研修の中では岐阜県内の獣害に関わる様々な地域・関係者を視察させていただきました。

 

①美濃加茂市(行政)の獣害対策の取り組み視察

美濃加茂市は市で制定した里山千年構想の理念の基、様々なICT機器を導入しながら有害鳥獣対策に積極に取り組んでいます。

 

②ニホンジカの深刻化している地域の視察

コンソーシアムの連携でドイツから獣害対策資材の試験設置を行っているエリアも視察しました。

生分解性とはいえ素材によってはマイクロプラスチックの発生等の課題や積雪による影響などもある事から、単木の保護を単純に行えばいいという訳ではないようです。ニホンジカの被害が10年以上も続いており、林業の現場としては非常に困難な地域ですが、「この現場を見てドイツの狩猟者だったらどう思う?」と聞くと「最高じゃないか!なぜ日本の猟師はここで捕獲しないんだ?」とのコメント。何故なんでしょうかね。皆さんぜひお考え下さい。

 

③猟師の6次産業化を行っている組織の視察

郡上市の猪鹿庁を視察しました

元々は自然学校として活動していたノウハウを活かした「伝える」スキルやターゲットの絞り込みはバイムグラーベン教授も感心していました。

日本での狩猟の現状や課題を話す中で、ドイツでは伝統的な狩猟者と新たな取り組みを試みるモダンな狩猟者の間にも軋轢があるようです。BW州のフォレスターの多くがÖJVというモダン派の狩猟協会に所属しながら野生動物管理を行っています。HP内のミッションからも趣味の狩猟ではなく、持続的な森林や生態を維持するための狩猟を意識していることが伺えます。同じ【狩猟】とういう手法を使いながら目指す先の姿は異なる様です。

 

④シンポジウム「野生動物管理と獣害対策を考える」の登壇

ドイツでの獣害の現状と課題、狩猟者の動向と責務について丁寧に説明してくれました。狩猟者は設定された猟区で独占的に狩猟を行える権利を購入する代わりに、その土地で農作物や森林に被害が出た場合は猟師が保証を行わなければならないという事について、多くの参加者が驚いていました。

シンポジウムについてはコチラで簡単に報告しています

 

シンポジウム後は郡上の古川林業で行われているエコツアーのプチ体験や森林空間活用の事例を視察しました。

 

今回の研修を受け入れる中で感じたことは

【動物福祉(animal welfare)の意識の高さ】

日本では家畜に対しての取り組みはありますが、野生動物に対しての意識はまだまだです。罠に対してもその意識からドイツでは中型動物に対して・ミュンヘンで行われるアフリカ豚コレラ対策を除いて導入されていません。これは動物愛護の関係者からの圧力もありますが、捕獲する動物に対しての苦痛を可能な限り軽減するという配慮によるものです。

 

【マイクロプラスプラスチックへの意識の高さ】

視察中にプラスチックが放置されていると、すぐ目が行きます。日本人はあまり意識せずに放置されいますが、言われてみれば「資材の残骸」「ブルーシート」「散弾の薬莢」「波板」など目につきます。獣害対策として様々な取り組みがなされていますが、耐久性や回収の事はあまり考えられていません。もちろん対策をしなければ樹が育たないですが、その後の事も意識しておく必要があります。

 

【狩猟者の意識の高さ】

ドイツで狩猟を行うためには(州によって異なりますが)4週間~半年の知識と実技のカリキュラムを修了する必要があります。その中には野生動物の生態学・農林業について・自然保護と景観保護・狩猟論理や動物の病気・ジビエの衛生対策など多岐にわたる知識と技術を収める必要があります。日本では資格の取得のハードルがそこまで高くない代わりに、実際に必要な知識や技術を各自で学ぶ必要があり、その知識水準は一定ではありません。

 

獣害対策というと、捕獲と防除がまず頭によぎりますが

持続的に森林を維持管理するという点を考えれば、可能な限りその先にある森林の姿や生き物の命に触れるという倫理観を意識しながら対策を行わなければなりません。そんな事を意識しながら獣害対策に取り組める森林技術者はこれからの日本に必要な存在ですね。アカデミーでもそんな人材育成をこれから行っていきたいと考えています。

 

来年1月には実際にドイツでの狩猟を視察する機会を頂きましたので

またの報告をお楽しみください!

 

今回の研修で視察を受け入れていただいた皆様誠にありがとうございました

 

報告:新津裕(YUTA)