授業報告「森林施業と森林生態」
林業を学ぶにあたって、生態学的な視点で森林を見られるようになることや、森で起きている事象と造林・育林技術の関係について理解できるようになることはとても重要です。これらの知識や技術を学ぶ授業「森林施業と森林生態」が2日間にわたって行われ、1年生5人が郡上市と高山市の広葉樹林を見学し、森林の今の姿からどんなことが読み取れるかを考えました。
1日目は郡上市白鳥町六ノ里(ろくのり)の山林を見学しました。所有者は地元の方ですが、本校OBで現在は教員の塩田先生が、アカデミーを卒業してから現在まで20年ほど調査を続けている森で、この日は、塩田先生に5箇所ほどを案内していただきました。この森は、以前は薪炭林として活用されてきた広葉樹の二次林で、約100年生の林が36haほど広がっています。
最初に、ブナとミズナラを生かすため施業を行ってきた現場を見ました。ミズナラに関してはナラ枯れが発生してしまい、30本近く被害のあった樹木を処理してきたそうですが、ブナは大きく育っています。胸高直径は70㎝ほどあり、一番下にある力枝は見るからに立派でした。このブナは300年生を目標にしているとのことで、今後どんな成長をしていくのか気になります。
また、ブナの周辺にはウリハダカエデがたくさんありました。ナラ枯れを処理した後にできたギャップで更新が進んだようです。塩田先生によると、この状況は狙った結果ではないとのことでした。どんな樹種が天然更新をするのかを予測したり、見極めたりする難しさを知りました。
↑奥にあるのが300年生を目標としているブナの大木。手前は天然更新したウリハダカエデ
すぐ近くのミズナラ、ケヤキ、カエデを植樹したエリアも見学しました。苗木を単木防護材(ツリーシェルター)で保護するなどして手間をかけて育ててきましたが、思うように成長せず、多くが枯れてしまったそうです。枯れずに残った木でも、幹がヒョロヒョロとしていて自立できず、曲がっていました。ここは以前に重機で土壌が踏み固められたことで、土壌を痛めてしまったことが考えられるそうで、土壌環境が樹木の成長に与える影響について知ることができました。
↑ひょろひょろとした樹木を見せる塩田先生
続いて、ミズメを育てようと作業を続けている現場を見ました。競合していた近くのミズナラを伐採したところ、そのギャップにはシロモジ、コハウチワカエデが枝葉を伸ばしてきたそうです。ここでは、思わぬ事態が起きてしまったそうで、現場近くに作業道を整備する際、ミズメの根の一部を傷つけてしまったため、成長の勢いが落ちてしまったとのこと。道作りは施業の効率化を図る上で重要ですが、根を痛めてしまうリスクも考慮する必要があると感じました。ただ、数年後は根からの吸水と葉からの蒸散のバランスを整えて、ミズメの樹勢が復活してきた話を聞くことができ、観察を続けることで、人為の影響を自然がどう受け取るのかを学べることが分かりました。
今回の授業で、狙った通りの森林にするのは容易ではないという受け止めをしていましたが、一方で、塩田先生からは、「目標を持って観察し続けることで、次に必要な作業が見えてくる」という説明を受け、私自身、森についての情報を断片的にしか受け取れていなかったなと感じました。
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2日目は、大洞先生に案内していただき、高山市清見町夏厩(なつまや)の広葉樹林を観察しました。1年生5人が森に入って好きな場所を選び、森林の階層や植生を約1時間かけてじっくりと見ました。主に樹冠を支配している高木層と林床の植物を同定し、分かった樹種をシートに書き込みました。私は高木層では、ホオノキとカスミザクラくらいしか見つけられませんでしたが、他の4人のデータとつき合わせると、コナラ、アカマツ、クリ、シラカバなどがあるのが分かりました。下層植生については、多い人は15種類くらい見つけていました。ちなみに大洞先生は40種類以上を観察されたとのことです。
↑1時間ほど植生を観察した森林の樹冠
この後、この森を見て分かることについて考えました。単木が多いか、または萌芽更新して株立ちした木が多いか、どんな樹種が優占しているかといった観点で観察し、森を見る視点をやすことができました。
次に、同じ夏厩にある地有用広葉樹のモデル林を見学しました。ここは地元の二本木生産森林組合が管理をしているところです。ここでは、無間伐を含めた間伐率が異なる計六つのエリアを見ました。強度な間伐をしたエリアでは、「後生枝(こうせいし)」という、幹の中で予備として残っていた芽が出てくる現象を確認しました。主幹から芽が出てくると枝になって節になってしまい、用材としては価値が下がってしまうため、あまりに強度な間伐はリスクがあることが分かりました。樹種でいうとミズナラやコナラで出やすいそうです。
最後に見学した広葉樹林は樹冠の光景が美しく、上層木の樹高はかなり高く感じられました。ここでは、樹木の1本1本の間隔は5〜10mほどだということでしたが樹冠は閉じていて、それぞれの樹木が大きく広く枝を伸ばして葉をたくさんつけていることが分かり、広葉樹林の一つの理想型を見ることができました。
また、シラカバの木が倒れてギャップができ、林床に光が届いているところがあり、この後にどんな実生が出てくるのか気になりました。
授業を通じて、森を観察する上でのさまざまな視点を得ることができ、その楽しさを体感することができました。今後、各地の森に行った時も、できるだけ複数の観点から森を観察して、森の歴史や移り変わりを読み解きたい
以上、クリエーター科林業専攻 五十嵐さんの報告でした。
林業専攻教員 大洞





