2025年06月30日(月)
【アニュアルレポート2024】広葉樹伐採跡地の更新について
~飛騨市古川の事例~
准教授 大洞智宏
プレビュー (新しいタブで開く)岐阜県立森林文化アカデミー活動報告2024より
目的
広葉樹天然林の皆伐後の更新方法は、天然更新もしくは針葉樹の人工造林が主であった。しかし近年では、針葉樹を植栽する事例は非常に少なく、天然更新に委ねることが多い。これまで、岐阜県では広葉樹天然林の皆伐後の更新について大きな問題は発生していない。しかし、気候変動による気象の極端化やニホンジカの増加など森林を取り巻く環境は変化しており、これまで通りに更新がなされるのかどうかは不明な点もある。このため、伐採後の森林の状況(更新の成否)をモニタリングすることは非常に重要になっている。
現在、地域森林計画で伐採後の天然更新完了基準は示されているが(岐阜県2024)、その値が閾値として妥当かどうかについて十分に検証されているとはいえない状況にある。
また、再度広葉樹林での木材生産を考えるのであれば、どのような樹種が更新するかを知ることは非常に重要である。本調査は、皆伐直後の更新状況の把握を目的として、更新樹種のサイズを測定した。
調査方法
調査は飛騨市古川町黒内にある広葉樹林皆伐跡地(図1)で実施した。調査地は、標高約950m、南西向斜面の中部に位置し、2020年に伐採が行われた。この地域では2020年以前からナラ枯れ※1の被害が発生しており、伐採時には枯損木が確認されていた。
調査は2021年9月9日および2024年8月26日に実施した。2021年に等高線方向に幅1m、長さ50mの調査枠を設置し、1m×1mの調査区50個(No0~49)に分割した。2021年、2024年とも全調査区内に生育する高木性木本種の樹種、樹高を記録した。ただし、調査区No0~6,11,16,21,26では、すべての木本種を調査対象とした。また、2021年に調査木の由来(前生樹、後生樹)についても記録した。
結果の概要
調査区内の総出現種数は2021年31種、2024年32種であった。このうち高木種は2021年17種、2024年19種で出現種数には大きな変化はなかった。出現個体の由来は前生樹が97%を占め(図2)、更新個体のほとんどが伐採前から存在していたことが分かった。
出現した高木種の平均樹高は2021年が20.2cm、2024年が78.6cm。高木種以外の平均樹高は2021年が20.4cm、2024年が106.3cmで、高木種以外の方が成長量は大きかった(表1)。
高木種の出現個体数は2021年、2024年ともにコナラが最も多く、次いでミズナラ、ヤマモミジであった(図3)。しかし、これらの3種は2021年に比べ2024年で個体数が減少していた。この一方で、マルバアオダモ、コハウチワカエデなどの個体数は増加していた。
高木種のうち樹高50cmを超えるものは48600個体/haであった。このうちナラ類は22600個体/haであった(図4)。岐阜県の更新完了基準では、樹高50cm以上かつ競合植物の高さ以上の更新樹が3000本/ha以上成立している状態をもって更新の完了とされている。現在の状況は、競合植物との関係を考慮に入れていないが、成立本数としては、この基準を大きく上回る数値であった。ナラ枯れ跡地では、ナラ類の更新がうまくいかない事例もあるが(伊藤ほか2011、大洞ほか2013)、本調査地では比較的多くの個体が更新していることが分かった。
図2 2021年出現個体の由来
表1 平均樹高と個体数の変化
図3 高木種出現個体数
図4 2024年高木種の樹高分布
※1 ブナ科樹木萎凋病:カシノナガキクイムシが媒介するラファエレア菌によりナラ類、シイ・カシ類が枯損する現象。岐阜県では1998年に旧揖斐郡坂内村で初めて確認された。
引用文献
岐阜県(2024)第15次宮・庄川地域森林計画書(宮・庄川森林計画区).岐阜県
伊東 宏樹,衣浦 晴生,奥 敬一(2011)ササ型林床を有するナラ類集団枯損被害林分の林分構造.日本森林学会誌 93 (2), 84-87,
大洞智宏、渡邉仁志、横井秀一(2013)ナラ枯れ被害跡地での更新に与えるシカ食害の影響.緑化工学会誌39巻2号260-263