豊田市を見学:日本の森林と林業
クリエーター科の全専攻共通の授業として「日本の森林と林業」という授業があります。ここでは、専門の違う学生が共通して森林のことや林業に関する基礎的なことについて学びます。この授業では座学だけでなく現地見学も行っていて、今回は豊田市にお邪魔し、豊田市の行政の取り組みと、豊田森林組合の業務について学ぶ機会がありました。この内容について学生が記録してくれていますので、何を学んで、どんなことを感じたのかをご一読ください。
2025年5月28日 日本の森林と林業@豊田市 授業の報告
森林を団地化(集約化)して、市内の森林の間伐を推し進めている豊田市の事例を学ぶため、豊田市役所足助支所(豊田市足助町)を訪問し、市産業部森林課の深見隆之助さんから話を聞きました。市と連携して活動を進める豊田森林組合についても見学しました。
団地化というのは、個人が所有する大小の森林を集団的に取りまとめて、一括して効率よく施業を進めるようにすることを指します。
豊田市は、平成17(2005)年の合併で旧市に周辺6町村が加わり、市の面積は約92万ha、愛知県の面積の約2割を占める県内最大の市になったそうです。このうち、約7割にあたる63,000haが森林、さらにこのうちの約半分にあたる3万haがスギ、ヒノキの人工林で、市ではこの人工林を対象に団地化を進めています。森林の多くは市北東部に集中しています。
市では平成19(2007)年、独自に「森づくり条例」を制定し、「100年の森づくり構想」も策定するなど、健全な森づくりに注力しています。森の密集度などを調査する「森の健康診断」で、間伐遅れなどで過密な人工林が約2万haあると分かり、構想では2027年までに過密人工林をなくすということを最重要課題に据え、毎年約千haの間伐を実現しているそうです。
話を聞く中で、この事業が実績を上げられている理由が見えてきました。一つは平成12(2000)年9月の「東海豪雨」の教訓が市全体で共有されていることです。市によると、豪雨の影響で、山間部では斜面崩壊が起き、上流の矢作ダムは大量の流木で埋まる被害がありました。市街地では堤防が決壊寸前の状況に陥り、「このような災害を二度と起こしてはならない」という危機感が広がったそうです。堤防が決壊寸前に追い込まれたのは、山間部の森林の荒廃していたためで、「上流の森林整備を怠れば都市が甚大な被害を受ける」と、下流域を守るための森林整備という事業の意義が可視化されたとのことでした。このように、市全体で事業の意義について共通認識を持てたという点は、事業を推進する上でかなりの追い風になっていると感じます。
二つ目は、団地化を推進する上で組織力が機能している点です。豊田市は森林課だけで20人の職員を配置しています。市北東部の足助町に個別に事務所を構え、機動力も高そうでした。また、主体を市としつつも、豊田森林組合と連携したことも功を奏していると感じました。市と組合に森林所有者、各地域の住民が加わり、団地化プロジェクトがスタート。集落単位で100以上の「森づくり会議」というグループが設けられました。会議の中でさらに20〜30ha単位に分けて団地化を進めているそうです。会議では、所有者の特定、境界確認、測量、森林調査を経て、施業の契約までが進められていきます。市側は市が持つデータを駆使して、各種資料を作成するほか財政支援を行います。森林組合は森林の調査や施業提案など現場での仕事を担っており、それぞれの得意を生かしています。森林に関心の薄い市民にも間伐の意義を説明しながら丁寧に事業を展開していることがよく分かりました。
団地化というと、森林組合や事業体が進めるという一種の思い込みがありましたが、行政が組合とタッグを組んで進めるという新しい方法を学ぶことができました。ただ、この財源は税金で、市に本社を置くトヨタ自動車の業績を背景にした高い財政指数を誇る市だからこそできる取り組みだとも言えそうです。その点では、市主導で森林の団地化を進めて、その財源を全て市が負担するという方法を他の自治体が取り入れるのはかなりハードルが高いものであると受け止めました。
市は、間伐プロジェクト推進と同時に、市内に大型の製材工場も誘致しています。これによって、団地化の間伐事業で出た材は、森林組合から大型製材工場に持ち込まれます。組合側の仕分けの手間といった負担も軽減されるという利点があるようです。それまでは森林組合が市売りを行っていたそうです。現在、いくつかの課題はあるものの、基本的には組合側が持ち込んだ素材の全量(建材として使えないものはパルプになる)買い取ってもらえる体制ができています。大型工場の誘致となると一定の供給量が必要で、その量が確保できると見込んで誘致を決めた市の間伐推進への強い意欲を感じました。
深見さんの話の中で、林業は産業としての採算性は見込めないと見極めた上で、下流の被害防止ための森林整備という判断に振り切っている点はとても新鮮に感じました。また、現実を直視した考え方であるとも言えます。近年は、脱炭素の取り組みが加速していることを受けて、国際的にも国内でも森林環境整備に価値を置く風潮が強くなっていること、J-クレジットなどの施策を受けて、森林整備に意識を向ける企業が増えているという実感を得ているとも話していました。今後そうした風潮はさらに強まるであろうとのことです。今後の森づくりを考え上で重要なポイントだと感じるお話でした。
🔳豊田市森林組合
高性能林業機械を活用し、計23台を保有。内訳はプロセッサが6台、フォワーダ6台、スイングヤーダ5台、タワーヤーダを6台で特に集材で活躍しているそうです。令和6年の素材の取り扱いは37,000m3、今年度も29,600m3を見込んでおり、生産した素材は市内の大型製材工場に運ばれます。年間3万m3がノルマとしてあるそうでした。
組合では、熟練の技術者が激減したのを受けて、令和2年度から若手の人材育成にも力を入れているそうです。合併時に森林の伐採できる技術者が120人いたのが、平成の終わりになると半減。今後の事業継続や技術の伝承が危惧され、人材育成の仕組みを模索してきたと言います。現在は、高校に求人をかけており、入組後は、近隣の林業大学校(森林文化アカデミーなど)で職員を学ばせた後、育成期間を設け、現場作業に送り出す流れが定着しつつあるようでした。職員には森林文化アカデミーの卒業生もいました。
そのほか、豊田原木流通センター(土場)を見せてもらうことができました。
土場で目に飛び込んできたのは大径木でした。これは製材工場に持ち込まれなかったものでした。ほぼ全量を買い取ってもらえるという利点がある反面、規格はかなりシビアだといい、丸太の径が太すぎても細すぎても高い値段はつかないとのことです。規格が重要で、それに合わなければ、チップ材になって消費されることになるそうです。組合側としては、建材や他の用途で使い道がありそうな材をチップで消費することに抵抗感もあるそうで、今後は、規格に合わない大径木の活用方法についても模索していきたいとのことでした。
この2ヶ月の間の授業で、森林施業の集約化や森林組合の仕事について学んだところだったので、現場の生の声を聞くことで、より仕事内容をリアルに感じることができました。
以上、クリエーター科林業専攻 五十嵐さんの報告でした。
林業専攻教員 大洞