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2025年06月02日(月)

【アニュアルレポート2024】海外製集材機械の調査

岐阜県立森林文化アカデミー活動報告2024より

海外製集材機械の調査

准教授 杉本和也

【目的】

 日本の林業において急傾斜地での集材作業に架線は必要不可欠である。従来から長距離集材では集材機を使ったエンドレスタイラー式による架線集材が広く行われていたが、架設撤去にかかる時間と労力が大きいことから、集材機による集材は減少しつつある。また2012年頃から欧州式のタワーヤーダが林野庁の補助事業などを通して導入され、簡易に架線集材ができる林業機械として期待されてきた。

アカデミーが所有するタワーヤーダ

 しかしながら、タワーヤーダの特徴として、機械価格が数千万から1億弱という高額であることから、効率よく稼働できる現場をコンスタントに確保しなければ機械の導入コストを回収できない。また尾根や谷が細かく入り組み林道密度も低い日本の森林において、タワーヤーダが効率的に稼働できる現場が少ないなどの実情から、導入台数は少ないのが現状である。代わりに作業道開設と合わせてスイングヤーダによる50~100m程度の短距離集材が主流となっている。スイングヤーダは、作業道開設が可能な緩傾斜~中傾斜の事業地に限られるため、35°以上の急傾斜地では、タワーヤーダもしくは集材機による長距離の集材が求められる。

長距離集材が可能な集材機(写真は索長が300m程度の小型の集材機)

 集材機については、油圧型の集材機が開発され、グラップル搬器などが登場しているが、索張り方式はエンドレスタイラー式と同様なため、架設撤去に労力が必要という課題が解決されていない。従来の集材機や新たな集材機含め、一度架設が完了すれば高い生産性で集材が可能であるため、いかに架設撤去の効率を上げるかが重要な課題である。
 オーストリアやスイスなど山岳地での林業が盛んな国では、日本と同じく架線集材が広く行われ、タワーヤーダや集材機、自走式搬器などの架線系機械メーカーも多く技術開発が盛んである。ヨーロッパでは、架設撤去の手間が少なくなるよう架設する索数をいかに減らすかという方向で架線系システムの開発が行われている。2024年6月にドイツでの林業機械展KWFにおいて、架線系機械の展示が行われるため、架設撤去の手間を減らすことが可能な架線系システムについてリサーチを行うことを目的とする。

 

【概要】

 欧州製の搬器の特徴は、リフチングラインを強制降下させる仕組みを備えていることである。欧州製の搬器で横取りを行うためには、降下したフックを持って荷掛け地点まで移動する。横取り距離が長くなると、フックと降下したワイヤを持って移動するのが困難になるため、主索の張替えを頻繁に行うことで横取り距離を少なくよう対応する。

タワーヤーダに搭載する搬器。搬器のデザインは各社異なるが、フックを強制降下させる仕組みは同じ。

 対して日本における集材機による皆伐作業では、横取り範囲が主索から100m近くに及ぶこともあり、フックを荷掛け地点まで持って移動するのが困難なため、ホールバックラインにより荷掛けフックを引き込む方式が採用されている。この方式は皆伐作業では効率的なものの、ホールバックラインが引き回せない間伐では不向きであること、内角作業が発生してしまいワイヤに激突される死亡事故が発生していることなどから、間伐でも採用できる索張りや安全性の高い索張り方式が必要である。日本で欧州製の搬器と同じフックを強制降下させる仕組みを採用しているのはアベックキャレジによるダブルエンドレス方式による集材である。しかしながら、ダブルエンドレス方式では、エンドレス索が2つ必要であること、それに伴い必要な滑車の数も多く、架設撤去に多くの労力が必要であることが課題である。

海外製搬器と同等の仕組みを持つのが、ダブルエンドレス方式によるアベックキャレジだが、エンドレス索が2本必要なため、架設に労力が必要。

 ダブルエンドレス方式の課題をクリアするためには、欧州式の搬器およびタワーヤーダの導入であるが、タワーヤーダの導入コストが高額であること、タワーヤーダでは地形的に索張りが困難な場合があることから、欧州型の搬器を集材機に搭載して使えるかという視点で調査を行った。

KWF2024機械展で視察を行った搬器の概要

 

いずれも搬器も構造的には、集材機と組み合わせて用いることが可能であるが、主索やメインラインのクランプ操作をタワー本体の無線を介して動作させているケースが多く、メーカー協力による開発が必要であった。

こちらマイヤーメルンホフ社の搬器。アカデミーでも所有しているが、リモコンの電波をタワーヤーダで受信しているため、このままでは搬器単独で使用できない。

【今後の検討】

 メーカー各社の索張り方式が異なり、大変興味深い。過去に日本でも主索クランプにより強制降下が可能な搬器が開発されていたが、架線系システムの衰退に伴い、新たな搬器の開発は少ない。今後集材範囲や林地保護の観点から架線系システムへの期待が再度高まる中、「架設撤去の手間がかかる」など従来の課題をクリアできる架線システムについて検討を続けていきたい。