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2024年03月19日(火)

学びの祭典!!令和5年度「課題研究公表会」2日目

河合和博「これからの林業経営と補助金~郡上市和良町山林から考える」

2日目発表のトップバッターは、林業専攻の河合和博さん。彼は、実家が自営業を営んでおり、その親の背中を当たり前に見てきたため、アカデミー入学時には既に、林業で“自営”していきたいと希望をもって入学してきました。そんな彼が、研究課題に選んだのは、「林業経営と補助金」。

彼にとって、林業を学び始めて早々に腑に落ちなかった事実が、あちこちで聞く森林に関する補助金の多さでした、その違和感の正体を、林業経営が補助金を「前提」にしていることだと言語化するところから、彼の研究は展開。

山林調査した結果、生えていた17の樹種の内9種類までの販路を開拓

「補助金を前提としない林業」とは、どんなものなのか?実際の現場を設定し、林分調査を行ったうえで、彼が導き出したのは、その山林に生えている樹種の販路をとにかく探すことでした。
林業経営では、雑木として扱われがちな、各広葉樹の販路を探し、届け先を開拓することで、目の前の山林の価値を最大化することができる。
その上で、不足する部分を補助金で補うという姿勢で、補助金を林業経営の味方にしていくという説明がなされました。さらに、これは、かの二宮尊徳が行った報徳仕法の「分度」を意識した経営によって生まれる「希望」と「工夫」を大切にすることだと説明がありました。
新たな林業経営の種が生まれた瞬間のような気がしました。

さて最後、彼は、卒業後、岐阜県郡上市和良町の山林で、屋号“かわいい森づくり”として、自営を始めると宣言し発表を締めくくりました。
新たな種は蒔かれましたが、芽吹き、葉を展開し、花開くためには、実践を通した自らの水やりが大切です。
一人で行う水やりが間に合わず、土壌が乾いてきたら、一緒に水やりしましょう。そんな声が聞こえてきそうな拍手で、2日目トップバッターの役割を終えてくれました。

 

酒井浩美「主体的な学びが生まれる「野外で算数」を日本の教育現場に広められるのか?
-実践と聞取りから見えた教育現場の課題と可能性-

2人目は、環境教育専攻の酒井浩美さんです。彼女は、小学校の教師として長年過ごし、退職の年にアカデミーで開催された教員向けのプログラム「野外で算数」に出会い、それまでの子供たちへのアプローチとは異なる教育の姿に衝撃を受け、「もっと知りたい」と探求心に背中を押されアカデミーの扉をたたきました。

そんな彼女が課題研究として取り組んだのは、もちろん「野外で算数」。自分で実践し、そして、やりたいと希望する教員に体験してもらい、振り返りをするという実践から見えてくる成果を取りまとめてくれました。

「野外で算数」の一場面1㎥をつくろう

小学校の教育現場を知らない者からすると、我が子にも野外で算数を学んでみてほしい。どんな感想を持つのだろう?と興味津々で聞かせていただきました。

彼女は、教員が教科書と指導書のみで授業を準備している(せざるを得ない)現状や、「野外で算数」を知るきっかけがないこと、興味を持ち、取り入れるために体験したいと思っても、体験する場が少ないことなど、現場の状況を把握されないまま導入され、うまく展開できなかった「ゆとり教育」で課題になっていた点も引き合いに、そうならないために必要な要素が何なのか?を自らの実践と振り返りの中で見つけ発表してくれました。
彼女が発表してくれたのは、教員の「体験-実践-フィードバックースキルアップー実践」のサイクルだとし、さらにその教員の実践やフィードバックをすぐそばで支援する専門官が必要、組織的な支援が必要だと提言されました。

そして、アカデミーを卒業後は、再度、地元の学校現場に戻り「野外で算数」を実践し広めるための取組みをしていきたいと締めくくりました。まさに、有言実行。力強い卒業生の誕生を頼もしく感じました。

発表後の休憩時間「うちの子の小学校でも、やってほしい」そんな感想が彼女のもとに届いているのを耳にし、「あっ、うちも!!」と言いに行ったのは僕だけではなかったはずです。

 

福田一葉「薪火を見つめなおす-薪火を伝えるために必要な要素とは-」

3人目は環境教育専攻の福田一葉さん。
彼女は、薪ストーブのある家に育ち、小学生のころからキャンプなどで薪火での調理や、風呂焚きなどを体験する子供時代を過ごしてきました。その中で実感してきた薪火の魅力について、その役割や薪火の良さを伝える側になるために必要な要素は何なのか?を探り発表してくれました。

教えられるより、自分で薪火を育て、大きくすることに夢中になる小学生

必要な要素を探るために実施したのは、まず体験、火を用いたイベントへ参加し、どんな手法で火の良さを伝えているのかを体感し、主催者に聞き取りすること7イベント。
その後、その経験を基に実践に次ぐ実践、授業で行う実習はもちろん、豊田市、明宝小学校、セラミックパークMINO等々、積極的に学外のイベントに薪火のお姉さんとして出店すること8回、参加者に何を提供し、そして主催者としてどんなことをすべきか?観察と試行錯誤を重ね、その結果として、薪火の(光・熱・煙・動き・灰や炭)を通した役割や心理的な(コミュニケーション・リラクゼーション・レクリエーション)に関する役割を、一つ一つ言語化し報告してくれました。

その結果、参加者の自発的な成長、チャレンジや試行錯誤を見守ること。同時に、必要最小限の適切なかかわり方ができることが大切だと報告してくれました。
最後、人の根幹にうったえる力のある「薪火」に早くから注目し、体験と実践を繰り返した成果を武器に、卒業後は、薪ストーブの販売やワークショップの企画運営を行っていくと宣言されました。
老若男女問わず、魅了する薪ストーブ屋のお姉さんが誕生したことをここでご報告いたします。

 

山崎葉子「「森と人をつなぐ」場づくり―森林環境教育の視点から―」

4人目の発表は、アカデミー入学前から愛知県矢作川地域で森林ボランティア活動を親子で行い、親子でアカデミーに入学、共に学び共に卒業していく“ようちゃん”こと山崎葉子さんです。
彼女は、森林は資源の供給はもちろん、水や酸素の供給など公益的機能の観点から人にとって欠かせない存在だとし、その森林を守るためには、人が山村に訪れ、魅力を感じ住み続けることが必要ではないか?そのためには、まず山村を知ってもらうことが必要。そのための場をどのように作ると、山村の良さが伝わるのか?という観点で実践から得た成果を発表してくれました。

手間をかけ愛情を注ぎ自己決定を尊重するアットホームな場

彼女が行った研究の取組みは、1.場づくりの調査とエッセンスの抽出2.場づくりの実践3.「森の人をつなぐ」活動のヒアリング。
調査は徹底しており、森や山村に関する講座やワークショプや、対話を目的とした会合へ参加すること70回、その中でインタープリテーションやファシリテーションなど、場づくりに必要なエッセンスを収集、分析しました。

その後、調査の結果を学内外含め30回以上様々な場所で実践し昇華していった様子を数々のスライドと共に報告してくれました。そこには多くの笑顔が映し出され、たどり着いた彼女なりの理想の“場”は、“アットホームな場”。
相手をよく見聞きし、寄り添い、安心できる場を提供する。その場で、共通する目的や経験を持つ人たちの交流が深まった結果、自主的な発言や行動が生まれてくる。そんな場をつくることが彼女の道。

アットホームな場によって、共感や理解、信頼と安心感そして、個の尊重など人と人に良質な関係が生まれ、参加者の自主性や主体性につながる。
大切なことを言語化してくれたことに感謝です。

個人的な感想で恐縮ですが、発表の中で引用された故島崎洋路さんの言葉「森林とか関係ないんだ、みんなでわっーっと盛り上がるんじゃなくて、一人ひとりの人生なんだから、自分は何をしたいんだ、どう生きていくのかということが大切なんだ」という往年のセリフが印象的でした。
そんなセリフが飛び交ったその後に、つながっている人のきずなの強さを想起させていただきました。ありがとう御座いました。

その一人一人の自主性や主体性が、やがて山村と人をつなぐ人の「結い直し」につながると結論付けた彼女は、卒業後、彼女を森へいざなった「とよた森林学校」「山里ひとなる塾」の運営スタッフとして活動予定とのことです。
ぜひ、愛知の森で彼女の笑顔と“アットホームな場”を体験してみてください。

 

湯本仁亨「子供の試行錯誤を促すワークショップの可能性を探る
―「あまり教えない」竹とんぼづくりの実践を通して―

続いて出てきたのは、発表席ではなく演題から登場し、何やら“試行錯誤が何とかで~♪♪”とリズミカルに歌って踊りながら登場した竹トンボマン!?です
竹トンボの原料を腰に携え、頭に大きなタケコプター、羽織ったマントに力強く書かれた文字は“試行錯誤”の4文字。本日の5人目は、環境教育専攻の湯本仁亨さんです。
さて、場違いのようでもあり、アカデミーらしくもある発表の皮切りを演じた彼の演目は、子供の試行錯誤を促すワークショップの可能性。

彼が問題だと提起したのは、何か一歩踏み出す場面で、失敗をおそれ躊躇してしまう彼自身を見つめた考察結果からくる問題提起で、「まずやってみる」ができないのはなぜだろう?という問題提起から始まりました。
これは多くの人に共通してみられる現象で、このままでは、変動性、不確実性、曖昧性といった言葉で表現される、これからの予測できない変化に富んだ(VUCAな)現代社会を生き抜いていけないのではないか。そう問いかけました。

皆さんはどうでしょう?
その原因を探していた時出会った言葉として、紹介された、伊勢達郎さんの言葉「懇切丁寧な教育で しっかり育つ依存心」が、とても印象的でした。

子供のころから、正解はこっちだよ、こっちだよ。と導かれる中で、極端に失敗を恐れるようになったのではないか。そう解釈した彼が、懇切丁寧な教育に風穴を開けるべく、考え出したのが、「あまり教えない竹とんぼづくりワークショップ」でした。
思いついたものが実践してみるしかない。と、実践を繰り返した結果として次のように報告してくれました。

どこまで教えるか試行錯誤する湯本さんと、
何度も何度もチャレンジしコツをつかんだ参加者

そもそも子供が集まるのか?途中で帰ってしまうのではないか?うまく試行錯誤が生まれるのか?そんな心配をよそに、子供たちは次々と、チャレンジし失敗し、成長していく姿がスライドの中で映し出されました。
参加した73名の参加者から得られた成果として、「あまり教えない竹とんぼづくり」はワークショップとして有効で、参加者の試行錯誤が生まれ、指導者としての関与の仕方が大切だと結論付けました。

彼自身の「失敗をおそれて動けない」という悩みから始まった課題研究ですが、「失敗も成功も存在しない」、行動した結果に納得できるかどうかが大切だと分かった。と締めくくりました。

去年の夏ごろ、見かけた湯本さんが、竹とんぼの材料を削りながら「どこまで準備するかいろいろ試しているんですよ」とチャレンジしていた姿が印象的で、その姿を思い浮かべながら発表を聞かせていただきました。

アカデミーでは、広い敷地のあちこちで、それぞれの課題に向かって試行錯誤している姿が、そこここに見られます。
ぜひ、覗きに来て、誰でもいいので話しかけてみてください。きっと、何かにチャレンジしている学生(か教員)の姿が見られますよ。
最後の質疑応答の中、「どこに行ってもこの気持ちでやっていきます」と力強く宣言し、竹トンボマンの発表は終えました。

 

坂井梨奈「川上~川中~川下の情報交流を考える」

6人目は、木造建築専攻の坂井梨奈さんです。

彼女は、大学で林学を学び林業事業体で素材生産(川上)に従事した経験を持ってアカデミーに入ってきました。入学後は木造建築(川下)を学び、自力建設でも学生棟梁として設計施工に携わってきました。その中で彼女が感じた課題は、同じ木を扱っている、川上~川中~川下で木に対する認識や常識が違うということでした。

その認識や常識の違いを解消することで、木材の需給情報の円滑な伝達や山側で行われる造材の変化につながり、製品の質の向上につながるのではないかと、林業(川上)製材~プレカット(川中)工務店、大工(川下)関係者にアンケート調査を実施し、領域間に生じている疑問や課題の違いを抽出し、その領域間の情報交流の質の向上に働き掛けられるツールとして「川上川中川下のあたりまえを共有するA3ポスター」(全8枚)を作成し発表してくれました。

8枚のポスターとその周りを取り囲む気付きの輪

内容は、木材価格の決まり方、木材乾燥、木造住宅で使われる木材の量・価格、原木の伐り旬など、木材関係者間の共通話題の種から、アンケートの結果で判明した領域間交流で発生したメリットの事例まで掲載されていてとても参考になります。

発表後の成果品の説明会場では、多くの人がポスターの前に集まり、次から次へと気付きの輪が広まっている光景が見られました。
アカデミー入学後の、住宅に使われる木材の用途を知らずに林業の現場で働いていた自分への気付きから始まった課題研究ですが、その気付きが、学ぶ意欲に形を変え、人と人をつなぐ、見た目にも分かり易いポスターへと形を変えている光景、その中心に彼女がいました。

ポスターで取り上げたトピックは 川上、川中、川下のどこかで当りまえになっている事柄をピックアップし、見た目もサイズ(A3)も工夫され、他領域の方とも共有しやすい内容になっています。森林組合、製材所、プレカット工場や工務店、 設計事務所などの、ちょっとしたお茶飲みスペースにいかがでしょうか?

https://www.forest.ac.jp/wp-content/uploads/2024/02/0219sakaiposter.pdf

杉山達彦「大径材の利活用に向けて」

7人目も木造建築専攻からで、杉山達彦さんです。
彼は、授業で訪れた木材チップ工場で大径のスギがチップになるために椪積みされているのを見たことをきっかけに、「せっかく育てた大きなスギがチップではもったいない」木材使用量が多い建築分野から何か提案できないかと、大径材の効果的な使い方を強度・構造的観点から検討し提案してくれました。
現在、日本の人工林は10齢級以上の高齢人工林が増えてきており、大径化が進んでいます。一方、木造建築分野では、大径材の需要が少ないのが現状です。
ならば、大径材の利活用を合理的に提案出来れば、双方の分野にとってWIN,WINでないかという発想、まさに、多分野が一つの学び舎に集っているからこその視点。特に、スギは太く大きく育てても市場に持っていくと中目丸太よりも安い単価で取引されている例があることなども、調査し報告してくれており、山側にとって心強いエールを感じる研究報告です。

ヤング率の分布を考慮した製材方法の提案や、大面積平角材のデザイン提案

さて、彼が、まず提案したのは、強度面を考慮した製材方法。富山県木材研究所の大径木内部のヤング率データを活用し、現在、市場で良く使われている柱材を取り分けるより、芯持ち大断面の平角材を挽いた方が有利だと報告してくれました。
そして、その活用デザインとして、ヤング率が高く曲げ耐力が強いことを活かし、写真右上の片持ちの木造カーポートを提案してくれました。片持ちによる広々とした空間が特徴で、なんとこのデザインは、韓国のコンペに出場し優秀賞に輝いたという嬉しい報告も併せて行われました。

また、大断面の平角を取った後の側板も強度的に有利な材が取れやすいため、この側板を活用する耐力壁も提案されました。この耐力壁は、実際に作り、壁-1グランプリに出場しベスト4に入り、一般的に使用されている構造用合板以上の高強度を得たと報告されました。そして、強度的エビデンスを得るとともに、こちらも「意匠」面で審査員特別賞に輝くなど、今年の木造建築専攻のチームワークが全開している様子が報告されました。
大径材の有効な活用法がどんどん提案され、心強い限りです。

最後、これらの検討案を建築実務者へ説明した後、アンケート調査をした旨の報告もされました。そこでは、多くの建築実務者が山側で起こっている大径木の利用が課題となっていることを知らない実態も見えてきたと報告があり、卒業後はアカデミーの卒業生が起業し集うWOODACに就職し、今後も周知活動を進めていきたいと心強い宣言がなされました。今後とも、アカデミーとタッグを組んで頑張っていきましょう!!

 

坂本一哲「木の家づくりに興味関心を持ってもらう
-子供に対しての活動、大工の重要性-」

本日8人目は、木造建築専攻の坂本一哲さんです。彼は幼少期に実家の建設にかかわった経験があり、当時の一哲少年が、大工さんの仕事を見て、毎日ワクワクしながら楽しんだ様子が伝わってくる思い出写真で幼少期を振り返りながら、木造建築分野の現状と課題解決への取組み事例について紹介してくれました。

まず、建築分野の現状として新築住宅は減っているものの、空き家対策などの改修は年々増えていること。建築業界全体では、事業者数は増加しているが、同時に、大工就業者数は減少していること。と続き、このままでは、住宅や改修を担える大工さんがいなくなってしまうのではないか?適切な技術の伝承ができなくなってしまうのではないか?と問題提起されました。

そんな問題意識で研究を進め、行政の取組み(賃金の改善、休暇取得の推進、教育者の教育)以外で他団体で行われている「木の家の良さを伝える取り組み事例」を調査し、その特徴や改善点を克服する提案として、キグミニという、大工キットによるワークショップを開発・提案してくれました。

大工キット(キグミニ)を組立て終わり遊ぶ子供たち

キグミニは、小さな家型の大工体験キットで、
・一目で家と分かる家型
・子供が二人以上は入れて、大工一人でも開催できるサイズ感
・乗用車に入る部材の大きさ
・大工技術(木組み)で構成されている
・子供向けに作らない、本物に近いもの
というコンセプトで開発されたキットで、実践した様子を数々レポートする中、子供たちがどんどんキットを改良していく姿や、主催者の坂本一哲さんを見て大工と間違えられたシーンもあったなど、課題克服につながる作業姿を見せることができた。と報告がありました。

坂本一哲さんの手元を見つめる少年

坂本一哲さんの手元を見つめる少年のまなざしは、未来の大工さんのまなざしのようにも見え、坂本さんの手の動きや笑顔が、彼の目にしっかり刻まれているように感じられました。
そして最後、幼少期の経験どおり、やっぱり「木の家づくりは面白い」卒業後は、子供が憧れる大工兼設計者を目指して、家づくりを楽しみます。と締めくくった彼の笑顔がとても印象的でした。

 

小島亜素佳「既存住宅の性能向上を伴う改修の普及に関する研究」

本年度最終となる9人目は、木造建築専攻の小島亜素佳さんです。彼女は、住宅性能を向上させる改修に注目し、その改修の当事者である住まい手の不安と、改修を手掛ける実務者の不便を取り除くようなツールを提案してくれました。
住宅建築の分野では、新築現場は減少傾向にあるものの、改修現場はどんどん増えています。そんな住宅改修のうち、耐震に関する既存住宅性能に焦点を当てると、1980年以前に建てられた木造住宅のうち60.7%が耐震性能を充たしていないのが現状。

住宅改修に関して住まい手が抱く素朴な疑問に答えてくれるQ&Aシート

彼女は、この現状に対し、住宅の住まい手と改修を手掛ける実務者へのアンケートとインタビューを通して、耐久性/耐震性/温熱性などの性能に関することに注目が集まっていること、メンテナンス性/音環境/採光計画などは、実務者と住まい手の意識の差が大きいということを明らかにしました。特徴的なアンケート結果としては、
<住まい手側>
・コスへの不安(ダントツ1位)
・どのように改修していいか想像がつかない
<実務者側の実態>
・改修方法はケースバイケースなためその事例を知る手段があると、改修方法の検討に役立つ
・改修はどこまでやるべきか悩む
などの意見が多いことを突き止めました。

そして、彼女が取り組んだのは、木造建築改修におけるプロフェッショナル実務者集団である、住宅医協会が実施してきた143軒の改修事例のデータベース化と、住まい手向けの「提案シート」の作成でした。
実務者向けデータベース化は、過去の事例を簡単なステップで改修事例の詳細物件にたどり着くことができる仕様になっており、改修を考える住まい手に向けた「提案シート」は、素朴な疑問に対する適切な回答をもとに、安心して生活改善を検討できるようなシートとして紹介してくれました。

発表後は、膨大な文字資料を実務者向けにシンプルなデータとして整理した成果品とその裏に捧げられたであろう真摯な時間、まだ見えない改修を考える住まい手への優しさなどが称賛され、様々な方から質問と激励を受け、最終発表者にふさわしい大きな拍手で締めくくられました。

2024年2月20~21と2日間にわたる課題研究公表会、クリエータ科卒業生16名の皆さま大変お疲れさまでした。そして、ありがとう御座いました。
最後になりますが、学生の学ぶ環境をいつも陰ながら支えてくださっている事務局の方々への感謝を伝え、報告を終えたいと思います。皆さま、どうもありがとう御座いました。

以上

報告:林業専攻教員 塩田(しお)