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2024年03月12日(火)

学びの祭典!!令和5年度「課題研究公表会」

今年も無事。アカデミー最大のイベントである【課題研究公表会】を開催することができました。
森林と共生する生き方を選び、学び始めて2年。あっという間に過ぎ去ったであろう2年間が、いかに充実した学びの期間だったのかを感じた2日間となりました。
2024年2月20~21日の2日間にわたる発表の様子とその概要を、報告します。

公表会開催に先立ち涌井学長のにこやかな挨拶からスタート

まずは、涌井学長の挨拶です。普段、分タイムでスケジュールされている学長のスケジュールですが、この2日間は、朝から腰を据えて聴きに来ましたと気合ばっちりとのあいさつで、和やかな雰囲気と心地よい緊張感の中で始まりました。

奥田真司「樽材を使った木工品づくりー思いをつなぐ愛用品としての椅子製作ー」

発表のトップバッターは、木工専攻の奥田真司さん。彼は、この2年間の中で出会った廃棄予定のウイスキー樽を再利用し生まれ変わらせたいと挑んだ挑戦について、報告してくれました。
製作に挑んだのは、「ウイスキー樽の物語を活かした椅子づくり」

60~70年使い込まれた廃棄前の樽と生まれ変わったカウンターチェア

樽材は、100年生のホワイトオークで柾目板と、素晴らしい材質である一方、色や幅がまちまち、曲がっていたり、内部が焦げている、などの木工製品づくりとしては乗り越えなければならない壁がいくつもありましたが、それらを「鉄媒染と手作りの黄血塩溶液で理想の青に留める方法の発見、曲げを活かすことのできる治具の開発、ほぞ穴の工夫など、試行錯誤の上一つ一つ乗り越え、見事なカウンターチェアーやダイニングチェアへと生まれ変わらせることに成功した過程とその作品を披露してくれました。公表会トップバッターとして、クリエイティブな精神がきらりと光る発表をしていただけました。

兒島京太朗「飲食業界で実用可能な木製カトラリーの製作と提案」

二人目は、前職フレンチレストランで調理師経験を持つ兒島京太朗さん。彼は、アカデミー入学前から抱いていた木製カトラリーの必要性を、この2年間、試作と実証試験、そして改善を繰り返し具現化した過程を発表してくれました。
このブログを通して彼の作品を初めて知る方には、大変申し訳ないのですが、その試行錯誤の過程や製品の精度の高さを適切に表現できる言葉を報告者(塩田)は持ち合わせておりません。
樹種の選定、木目の方向、厚さ、塗料、形状、耐久性、そしてメンテナンス面等々、試作と改良を重ね、実店舗で使用できるレベルのナイフ・フォークにたどり着くまでに、彼のもとに何度神様の声が舞い降りたのだろうか?発表と作品を見て、その一端を共有できワクワクさせてもらいました。

プロのシェフから、木製カトラリーで肉が切れるという評価を頂いた瞬間

後半、実地検証を繰り返す中、長い期間付き合ってくれた8店舗ものレストランを通して彼のもとに届いたお客さんの声から、箸に加えて木製のナイフとフォークを使って食べる「新しい和食スタイル」の可能性が見えてきたと報告があり発表は締めくくられました。
食文化の変化を敏感に感じている彼の木製カトラリーのさらなる進化を感じさせてくれる研究発表となりました。
興味を持った方は、彼のカトラリーへ出会うために「Bistoro Toshindo」(彼の作品で食事ができるレストランの一つ)を尋ねてみては、いかがでしょうか。

寺島基「中津川木遊館サテライトにおける大型玩具『クーゲルバーン』の設計」

3人目は、中津川市の道の駅、花街道付知を改修して建設される「ぎふ木遊館サテライト」の壁一面に設置される大型玩具の設計に携わった寺島基さんの発表です。
設置会場となる木遊館サテライトがある中津川市付知町周辺地域は、江戸時代から幕府の御用林として木材生産を担ってきた歴史ある地域で、彼は、その地域の文化に遊びながら触れられるようにデザインした「グーゲルバーン」という玩具の設計過程を発表してくれました。

地域の文化的遺産である森林鉄道をモチーフに“大一”とデザインされた列車が走る試作機

「グーゲルバーン」は、写真の通り、坂道を玉や車が通り、繰り返し遊ぶことのできる玩具で、ピタゴラスイッチでおなじみと言えるかもしれません。動く玩具は難しいからやめておいたほうが良いよ。という師匠の助言通り後々苦労した話を織り交ぜ会場に笑いを届けながら、繰り返し使うことで変化してくる、木部同士の摩擦への対応や、地域の文化的遺産を訪れてデザインに取込んでいく様子など、設計が進み、試作機が出来上がっていく様子を発表し、聴衆一同、玩具という言葉の響きから受けるイメージとは別の次元へと引き込まれました。
今回発表した設計案が本格的な製作に入り、お披露目されるのは、彼の卒業後の取組みとなり、2024年夏に設置予定とのことです。
今年の夏が待ち遠しい発表となりました。

中西靖子「身近な樹木を使用した木の箱製作 ~木の生命力を表現して暮らしに癒しを~」

木工4人目は、この2年間、箱を作り続けた中西靖子さんの発表。本学の工房前を通る時、彼女が箱作りをしていなかった時があっただろうか?そう思うほどに、箱作りに打ち込んできた彼女の作品は、前職(病院勤め)の時に感じていた違和感を、身近な特徴ある木に託した薬整理箱やお弁当箱でした。
病院の中は、一般に人工的なものに囲まれた生活が営まれます。その中において、大切なものをしまう箱や薬ケースがあったら、「その人らしさ」が漂うホッとできる空間になるのではないか?そんな動機に端を発した彼女の「人の気持ちやモノを大切にする暮らしに貢献したい」を形にした箱達が次々とスライドで発表されました。

中西さん自らが製材した小径木から作り出された薬箱

最後、中西さん自らが身近な樹木を製材・乾燥して小径木を使用する中で発見した、「一本の樹木の特徴を一つの箱の各部材に納めることで、木の生命力を表現できた」と発表していた薬箱は、本当に素敵な箱でした。公表会後の商品説明の時間では、大切な人へのプレゼントとして購入したい。そんな感想が飛び交っているのが印象的でした。

根上拓「ちょうなを使った木の器づくり -ものづくりの楽しさを手道具で感じるワークショップ-」

木工専攻5人目は、場所を選ばずに手工具で木を彫る楽しさを体験できる木工体験プログラムを考案し発表した根上拓さんです。自身で感じた、ちょうな、ノミ、彫刻刀など様々な手工具を用いて木の質感を肌で感じながら木を彫る経験を、より多くの人と共有したい。と、手道具の中でも難易度の高い「ちょうな」によるお皿づくりプログラムを考案し、実践した結果を発表してくれました。

一般の方でも使いやすいように打撃面の角度や刃先の角度、幅など作業に合わせて改良していった「ちょうな」

「ちょうな」は一般に使いにくい手道具ですが、それを使いやすくするための工夫を鍛冶屋さんと共同で行った経緯など、“道具”というものの見方や向き合う姿勢を変えてくれる提言を含んだ報告がなされました。また、アカデミーで長年使われてきた削り馬を進化させ、お皿づくりに特化した工夫をしたことなど、参加者への思いやりも感じられるプログラム開発の報告でした。
今後は、作業工程の違いにより所要時間1.5時間の角皿づくりプログラムと約5時間の楕円皿づくりプログラム、この2つの木工体験プログラムを中心に活動していきますと心強い宣言で締めくくられました。
興味を持たれた方は、morinosの体験プログラム情報などにも注目し、ぜひ、改良された「ちょうな」を使って皿づくりを体験してみてください。

迫間涼雅「“端材”から“小さな材料”へ
-製品とワークショップの提案から端材の可能性を探る-」

6人目も木工専攻からの報告です。迫間さんはアカデミー卒業後の働き先を見定める過程で、インターンシップ先の資材置き場を見た際の気付きから、“端材”の活用について商品開発とワークショップの提案という2つの視点から研究に取り組み、その成果を報告してくれました。

迫間さんが命名した端材の呼名

インターンシップ先の会社への聞き取りの結果、様々なサイズの製品を展開することで、材料を使い切ろうとしているものの、規格が合わない材料が出てきてしまうという課題を知り、何とかしたいと取り組みました。
彼の取組は、まず研究対象となる“端材”を寸法や状態により区別し名称を付けるところから始まりました。
そして、名称が付けられた後、それぞれに役割を持たせ、商品へと生まれ変わっていく過程が報告されました。各々の材料が持つ「不均一さ」をそれぞれの「らしさ」と捉え、“端材”を小さな材料として扱うことで、強みを持った個性ある材料として、生まれ変わらせていくことができることを明らかにしてくれました。
卒業後は、“端材”の活用を提案した会社「木と暮らしの製作所」で活躍していきます。
紙面の都合上、写真は掲載しませんが、どうぞ、彼の命名した端材、“ぱかん”が、素敵な椅子に生まれ変わっている様子を高山市でご覧になってみてください。

 

堀田陽介「視覚障がい者に向けた木育活動」

1日目最後の発表者は、堀田陽介さんです。今年度は、木工専攻から7名の発表となりました。
彼は、自身が持つ、次第に視野が狭くなっていく可能性のある、網膜色素変性症という視覚障がいから仕事や生活に悩んだ経験と、生活に木製品との親しみを取り入れてきた体験を糧に考案した、木育プログラムとその実践について報告してくれました。
目的は明確で、彼自身と同じような視覚障がい者でも参加できる木育プログラムを提供し、参加者のより良い暮らしにつなげること。自分にしかできないこと、を追求した結果たどり着いた目的です。
プログラム開発は、彼自身の木製品との出会いの場となった、ぎふ木遊館に全盲の方と一緒に訪れるところから始まり、様々な発見をし、そこで得た経験から、木に触れ、割る、削る、においをかぐなど、5感を刺激する要素を取り入れたプログラムを展開し、盲学校での実践などで確かな手ごたえを得た成果を報告しました。

 

最後に発表された、視覚に頼らないモノづくり講座「スプーン・イン・ザ・ダーク」は、視覚に意識が行かないように目を覆い、南京カンナで木を削っていくプログラムでした。
参加者含め、関係各位から、木育プログラムとして高評価を受けた旨の報告がありましたが、研究発表の会場全体がそれに共感しているのが伝わってくる成果報告となりました。
そして、発表の中で紹介されていた、視覚障害者生活情報センターぎふ館長さんのコメント、「自らの障がいをいい方向に転じた企画で、その体験を同じ障がい者にも伝えていくことに期待します。」とのコメントに、他者のために試行錯誤することによって発見し感じることのできた、堀田さんの体感をも伝えてほしいという意図が感じられ、胸が熱くなったのは僕だけではなかったろうと思います。
堀田さんからは、アカデミー卒業後に、盲学校の講師としての活躍が決まった旨の報告もあり、希望を大いに抱いた一日目の締めくくりとなりました。ありがとう御座いました。

以上、一日目
報告:林業専攻教員 塩田(しお)