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2026年03月02日(月)

学びの祭典!令和7年度「課題研究公表会」(後編)

前回の続きです。

 

 森林環境教育専攻のトップバッターは、伊藤悠貴さんによる「森林空間を活用したデジタルデトックスキャンプの可能性を探る-スマホ依存度が最も高い10 代のために-」です。

 10代のスマホ依存という身近で深刻な課題に向き合い、「森でのデジタルデトックスキャンプ」に可能性を探った取り組みです。調査では、10代の8割以上がスマホ依存を自覚しているという結果もありました。一方で、集中力の低下や人間関係の希薄化などの影響も指摘されています。そこで、スマホを手放し、森の中で五感を使いながら過ごす1泊2日のキャンプを企画しました。火起こしや伐採体験、ナイトハイクなどを通して、「感じること」「直接話すこと」「自分で考えること」を大切にしました。スタッフも一緒にスマホを預け、時計も持たずに過ごしました。参加した中学生からは、「時間が短く感じた」「意外とスマホなしでもいけた」「家族と話す時間を増やしたい」といった声が聞かれました。森の中での体験が、スマホとの向き合い方を見直すきっかけになったようです。まだ小規模な実践ですが、森には心と体のバランスを整える力がある。そんな可能性を感じさせる研究でした。

 

デジタルデトックスについて熱弁する伊藤さん

 

 森林環境教育専攻の2人目は、石岡美優さんによる「自然と共に「私に還る」-五感・描写・対話がひらく回復のプロセス-」です。

 石岡さんの研究は、「自然と共に“私に還る”」というテーマのもと、ネイチャージャーナルと対話を組み合わせた実践を通して、心身の回復のプロセスを探ったものです。現代はスマートフォンやSNSの影響で、意識が常に外へ向きがちです。その中で「自分が何を感じているのか」に気づく余白が失われているのではないか、という問いから始まりました。プログラムでは、自然の中で五感を使って観察し、絵や言葉で記録するネイチャージャーナルを行い、その後に感じたことを分かち合う対話の時間を設けました。実践を通して見えてきたのは、自然に触れ、描き、語ることで、思考中心の状態から身体感覚へと意識が戻り、心が落ち着いていくという変化です。参加者からも「今ここに集中できた」「頭がすっきりした」といった声がありました。自然は評価せず、ただそこに在り続けます。その中で静かに観察し、描く時間は、自分自身に戻るきっかけになる。そんなやさしい回復の可能性を示した研究でした。

 

ネイチャージャーナルについて丁寧に説明する石岡さん

 

 森林環境教育専攻の3人目は、上田博文さんによる「幸せな森の風景をつくる- 森林美学から考える、人と森と暮らしをつなげる道(エトス)-」です。

 上田さんは、「幸せな森の風景をつくる」というテーマのもと、森林美学の視点から人と森の関係を見つめ直しを試みました。現代の森林は、炭素吸収量など“数値”で評価される一方で、林業の低迷や所有者不明土地の問題など、多くの課題を抱えています。その背景には、森が「共に生きる存在」から「管理する対象」へと変わってしまった歴史があるのではないか、と考えました。研究では、19世紀ドイツの森林美学を手がかりに、「ケア(大切にすること)」「利他(他者のために考えること)」「歓び(森と関わる喜び)」という三つの視点から森との関係を再解釈しました。そして、「所有から人格へ」「管理から交歓へ」という発想の転換を提案しました。森を単なる資源ではなく、尊重すべき存在として捉え直すことの大切さを示しました。これらの過程はアニメーションで整理され、聴衆へひたすら問いかけるユニークな発表でした。また、岐阜県郡上市の明宝や石徹白でのフィールドワークも行い、地域の実践から学びを深めました。森を愛し、手入れをし、共に生きる。そんな“在り方”こそが、これからの時代に必要なのではないか。未来の森を思い描く、壮大で温かな研究でした。

 

AIなどのツールを駆使した発表をする上田さん

 

 森林環境教育専攻の4人目は坂本環さんによる「地域密着型自然学校「ノーム自然環境教育事務所」における新規事業の可能性」です。

 坂本さんは、実家でもある福井県大野市で25年間続いてきた「ノーム自然環境教育事務所」を次世代につなぐための、新しい事業の可能性を探った取り組みを行いました。両親が大切に育ててきた自然学校ですが、行政委託事業への依存や拠点の不安定さなど、いくつかの課題も見えてきました。そこで、既存事業を引き継ぎながら、自分ならではの新規事業を提案することを目指しました。調査やインターンを通して見えてきたのは、「心から楽しい」と思える事業であること、そして地域との日常的なつながりが何より大切だということでした。そこで着目したのが「縄文」というキーワードです。恐竜で有名な福井ですが、縄文遺跡も多くあります。縄文時代の“工夫して生きる暮らし”にヒントを得て、不便さの中で創造力や主体性を育む「縄文キャンプ」を提案しました。自分たちで道具をつくり、土器で料理をし、仲間と話し合いながら生活する体験を通して、人とのつながりや自己肯定感を育てることをねらいとしています。まだ構想段階ですが、福井の自然と太古の知恵をつなぐ、新しい挑戦が始まろうとしています。

 

学長からの激励に真摯に耳を傾ける坂本さん

 

 森林環境教育専攻の5人目は、森田水加穂さんによる「しなやかな関係の輪を広めるために-レジリエンスをもった、妻の在り方に着目して-」です。

 森田さんの研究は、「しなやかな関係の輪を広めるために」というテーマのもと、夫婦で互いを生かし合う実践者の“妻の在り方”に注目した取り組みになります。環境教育の現場では、仕事に打ち込みすぎて家庭が後回しになる姿も少なくないそうです。そんな中で、自然と共に生きながら、夫婦で支え合う姿に出会い、その関係を支えている妻の姿勢に光を当てました。実践者の妻3名にインタビューを行い、共通するポイントを探りました。そこには、夫の才能を尊重すること、自分の考えも大切にすること、前向きに生活を楽しむ姿勢などがありました。相手を支えながらも自分を失わない、まさに“レジリエンス”のある在り方です。その内容を冊子やSNSで発信し、アンケートをしました。多くが「素敵」「こんな関係に憧れる」と前向きに受け止め、自分の生き方を見つめ直すきっかけになったという声もありました。まだ課題はありますが、これからも対話を重ねながら、この輪を広げていこうとする研究でした。

 

終始笑顔で語る森田さん

 

 森林環境教育専攻の6人目は、山本佳穂さんによる「持続可能な森のようちえんの開園を目指して―HANAの森を舞台にした1年間の実践記録―」です。

 山本さんの研究は、愛媛県西条市の「HANAの森」を舞台に、持続可能な森のようちえんの開園を目指した1年間の実践記録です。ゼロから園を立ち上げるにあたり、よくある課題をあらかじめ意識しながら準備を進めました。基礎調査から見えてきた課題は4つです。「地域との関わり」「自然との関わり」「他業種との関わり」「お金との関わり」です。これらの課題を意識しながら、地域には丁寧に挨拶を重ね、自然観察会を開いて環境の特徴を把握しました。トンボの多さに気づき、「トンボ公園」という方向性も生まれました。また、異業種の人と積極的に出会う中でヤギとのご縁もつながり、地域との関係づくりにも広がりが見られました。運営面では、民泊と森のようちえんを組み合わせた「異業種連携型」モデルを構想しました。宿の価値として森の体験を位置づけ、相互に支え合う仕組みを目指しています。専門家からも評価を受けつつ、いよいよ4月から事業がスタート予定です。森のようちえんが、より多くの子どもたちの選択肢となる未来を目指す、挑戦の記録になりました。

 

課題を意識しつつ確実に森のようちえん開園へと準備を進める山本さん

 

 最後は林業専攻になります。林業専攻のトップバッターは、田中裕子さんによる「リモートセンシングによる広葉樹林の樹種識別方法の検討-岐阜県高山市の市有林を事例として-」です。

 田中さんの研究は、ドローンとAIを使って広葉樹林の樹種を見分ける方法を検討したものです。広葉樹は日本の森林の約半分を占めているにもかかわらず、資源量や有用樹種の分布情報が十分に把握されていません。そこで、岐阜県高山市の市有林を対象に、コナラとミズナラの識別精度を検証しました。まずドローンで空撮し、作成したオルソ画像をもとに現地調査を実施。そのデータを森林解析ソフトに読み込み、「教師なし」と「教師あり」の2つの方法でAIによる識別を行いました。結果として、コナラは教師あり学習で7~8割と実用レベルの精度が得られました。一方、ミズナラは取りこぼしが多く、安定した精度にはまだ課題が残りました。今回の検証から、現地で集めた樹種データをAIに学習させることの重要性が確認されました。今後さらに画像データを増やすことで、識別精度の向上が期待されます。広葉樹資源の把握と活用に向けた、一歩となる研究でした。

 

学長からも田中さんの発表に興味津々です

 

 林業専攻の2人目は、米澤翼さんによる「ヒノキ枝材の材質とその活用方法について」です。

 米澤さんの研究は、これまであまり活用されてこなかったヒノキの「枝材」に注目し、その材質の特徴と活かし方を探ったものです。伐木作業のあとに大量に出る枝は、多くがチップ材として処理されていますが、ものづくりに使える可能性があるのではないかと考えました。まず、枝材を使った椅子やナイフの事例をヒアリングし、実際の工夫や使い方を学びました。さらに、ヒノキの枝(新しいものと林内に放置されていた古いもの)と幹材、そしてミズナラ幹材を比較し、圧縮強度や曲げ強度の試験を行いました。その結果、枝材は「あて」と呼ばれる特性により、圧縮には強く、条件によってはミズナラに匹敵する強度を持つ可能性があることが分かりました。一方で、引張には弱い傾向もあり、使い方には工夫が必要です。枝材の特性を理解すれば、家具や小物など新たな活用の道が広がります。これまで見過ごされてきた枝にも価値がある。そんな気づきを与えてくれる研究でした。

 

枝材の可能性について語る米澤さん

 

 最後は、渡邉久美子さんによる「架線集材における架設手順書の作成」です。

 渡邉さんの研究は、急傾斜地の多い岐阜県で重要な技術である「架線集材」の手順書づくりに取り組んだものです。高性能林業機械が普及する一方で、作業道がつくれない山では架線集材が欠かせません。しかし、その技術は経験に頼る部分が大きく、継承が難しくなっています。そこで、自走式搬器を使った架線集材の架設手順を、写真や図を多く用いたわかりやすい手順書としてまとめました。演習林で3回の架設を行い、その流れを整理。実務者や学生からのフィードバックを受けながら、専門用語を現場で使われる言葉に直したり、ラインの掛け回し順を図解したりと、より実践的な内容に仕上げました。完成した手順書は、アカデミーのホームページに掲載予定です。これから架線集材に挑戦する人が、現場で迷ったときにすぐ確認できる“相棒”のような存在になることを目指しています。技術を未来につなぐための、大切な一歩となる研究でした。

 

架線への想いを語る渡邉さん

 

 2日間にわたる課題研究公表会が無事に終了しました。クリエーター科19名の皆さん、本当にお疲れさまでした。そして、それぞれの想いが詰まった素敵な発表をありがとうございました。2年間の学びの積み重ねがしっかりと伝わってくる時間でした。

 最後になりますが、学生たちが安心して学び、挑戦できる環境を日々支えてくださっている事務局の皆さま、そして課題研究の作成にあたりご協力いただいたすべての方々へ、心より感謝申し上げます。多くの支えがあってこその公表会でした。

 関わってくださった皆さま、本当にありがとうございました。

 

林業専攻 中森