ドイツフォレスターの野生動物管理
森林文化アカデミーと連携協定を結んでいるロッテンブルク林業大学へ視察・研修で訪問しました。今回は学生2名+教員1名が参加し、クリエーター科林業専攻・エンジニア科のそれぞれの視点で学びを得てきています。簡単ではありますが、研修の様子をお伝えいたします。
研修初日はクリエーター科1年生 長航介さんが報告します
【午前】演習林で学ぶ「狩猟を前提とした森林管理」
いよいよドイツの現地での研修が始まりました。午前中は、チュービンゲン郡に所属するフォレスターのステファン・シェンマンさんに案内していただき、大学演習林を見学しました。

(シェンマンさん、ロッテンブルグ林業大学の演習林3000haのうち1500haを管理されている。)
まずは演習林に入り、樹種と獣害の関係について説明を受けました。 モミは陰樹で、林冠が混み合った環境でも生き残れる一方、ノロジカに最も好まれて食べられやすい樹種であるといいます。演習林では天然更新を基本としているため、獣害対策は森林再生に直結する重要な要素であることを実感しました。

(モミはノロジカにとってチョコレートと例えられるほど大好物らしい)
シェンマンさんの管理区域では、ノロジカの個体数目標を「10ヘクタールあたり1頭」と設定している。この目標を達成するために、個人で行う狩猟と、大規模な巻狩りを組み合わせて管理しているという点が非常に印象的でした。
特に興味深かったのは、「狩猟圧」と「野生動物へのストレス」という考え方です。
単独での猟は効率が低く、長時間銃を構えることになるため、結果的に動物に与えるストレスが大きくなる。一方、年に数回行われる巻狩りでは短時間で多くの個体を捕獲でき、動物へのストレスを抑えられるという説明は、日本であまり聞くことのない視点でした。
【安全管理と狩猟装備】
狩猟における安全管理についても詳しく教えていただきました。
地面からの跳弾事故を防ぐため、射撃は必ず高さを確保した位置から行い、「高さ×7メートル」が安全な射程距離の目安になるという、研究に基づいた基準が示されていました。
待機場所としては、巻狩り用のボックジッツ、固定式のホッハジッツ、携帯型のクレッタージッツが使い分けられており、それぞれにコストや耐久年数が明確に計算されています。
「狩猟にもお金がかかるし、植林や保護にもお金がかかる。そのどちらが合理的かを常に考えている」という言葉が強く印象に残りました。

(写真手前が巻狩り用の待機場(ボックジッツ)で上部が携帯型の射撃足場(クレッタージッツ))

(モデルは今回アテンドをしてくれているバイムグラーベン教授。クレッタージッツはロッテンブルグ大学でも最近導入された最新備品らしい)
【午後】シュバルツバルトでの食害調査
午後はシュバルツバルトに移動し、塩を用いた誘引がノロジカの食害に与える影響を調べる調査に参加しました。この調査は州から依頼を受けて研究しているとのことで、社会課題に対して獣害対策につながり得る基礎研究の現場を実践させていただく貴重な機会でした。

(バイムグラーデン教授の助手をされているジーナさんから研究内容の説明を受ける)
塩は、観察のしやすさやミネラル補給、狩猟のための誘引として広く使われているが、使用量や頻度に明確な規則はない。そこで、塩を置いた場合と置かない場合で、食害にどのような違いが生じるのかを学術的に把握することが、この調査の目的である。
調査は、中心点から10m・20m・35m・50mの距離にポイントを設け、各ポイント半径3m内の稚樹を対象に行った。ポイントは合計16点。我々はそのうち4地点の調査を手伝わせていただきました。
頂芽と側芽のどちらが食べられているか、またノロジカ・ノウサギ・ネズミによる食害の違いを識別し、樹種ごとに記録します。

(調査手法を詳しく説明を受ける)
林床の状態(落ち葉・ブラックベリー・針葉)や林冠の込み具合、地形条件も同時に確認した。鹿は落ち葉の林床を歩きやすいことなど、教科書だけでは理解しにくい行動特性を、実際の森の中で体感することができました。
【1日を終えて】
この日は、森林管理と狩猟、獣害対策が切り離されたものではなく、一体として考えられているドイツの森林管理の考え方を、現場で学ぶことができました。
特に、個体数管理を「感覚」ではなく、数値・コスト・安全性・動物福祉といった複数の視点から説明していた点が強く印象に残りました。 日本の森林や獣害問題を考える上でも、多くの示唆を得られた1日となりました。
以上。
森林文化アカデミークリエーター科1年 長航介
初日からボリューム満点な視察研修でした。今回の研修にあたり、ロッテンブルク林業大学のバイムグラーベン教授、現地で通訳を担当してくれているアカデミーを卒業後にHFRに留学中の小原さん御2人の協力で多くの貴重な機会を提供して頂いています。あらためて感謝いたします。
報告:引率教員 新津裕(YUTA)