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2023年11月01日(水)

里山の姿を道具から思い描く

ソーシャルデザイン1<基礎:中山間地域を知る>を実施しました。

私(こばけん)が担当している科目体系を整理し、今年からはじまった科目のひとつです。
15コマ・30時間を4日間で一気におこなう、集中実習です。アカデミーでの講義と、現地でのフィールドワークから、山村の成り立ちと現状をアカデミー的視点で捉える、その基礎を実践を通して学ぶのがねらいです。森林環境教育専攻と林業専攻の1年生4名、2年生1名が参加しました。

 


 

1日目(10/3): 神の領域から人の住む里へ

最初は、アカデミーにて、川尻秀樹さん(morinos)による「日本人の森の思想」の講義。

川尻さん(ジリさん)はアカデミーの元副学長。私がアカデミーで受けた講義の中で、最も影響を受けた講義のひとつがジリさんの<神話から森話>にまつわる内容でした。
森林文化を考える上で根幹となるこの授業。今はこの講義がアカデミーで行われていないので、せめて森林環境教育の学生だけにでもと思い、ジリさんにお願いして特別講義をしていただきました。

江戸時代の日本の森の姿、そして世界へ。人類最古の物語で語られる人と森との関係など、空間と時間が広大に混じり合う森林文化が伝えられます。

ジリさんによる講義「日本人の森の思想」

 

話題が膨大かつ濃厚なので、前半はここまで。後日、後半を講義いただきます。

ジリさんの講義の後は、郡上市・石徹白(いとしろ)へ。
巨木の神殿にも映る白山中居神社を訪れ、石徹白洋品店を見学させていただき、店主の平野馨生里(ひらの・かおり)さん、そして平野彰秀さんにお会いしました。ローカルビジネスや地域活性、小水力発電など、最前線を歩む超多忙な平野夫妻ですが、石徹白らしさが残る古民家をゲストハウスにする新たな事業の構想についても伺い、そのエネルギーは本当にすごく、圧倒されます。

平野馨生里さん(石徹白洋品店にて)

 

4日連続なので、宿泊組も。 夜は、郡上市明宝で、二間手地区の祭礼の片付けに参加。片付け後の「直会(なおらい)」で、地域のお母さんたちと談笑する姿がみられました。

地域の行事を体験

 


 

2日目(10/4): まちから里山の過去へ

午前中は郡上市の中心地、郡上八幡を散策。城下町における治水や産業からみた町の形成についてみます。前日からの郡上市内の地理関係を思い描きながら、周辺地域との物流、産業、文化、行政機能のつながりや変遷についても意識を持ちます。

水のまち」と呼ばれる郡上八幡

 

午後は、明宝に移動。地域の人口は約1,600人。95%が森林の明宝にある「明宝歴史民俗資料館」を訪れ、収蔵された膨大な民具に飲み込まれます。

学生の課題は、道具を通して、かつての明宝地域の暮らしや自然環境がどんなものだったか、思いを巡らせそれを図式化することです。

4万7千点以上の膨大な民具を収蔵する明宝歴史民俗資料館

 

学生がそれぞれ気になる民具を見つけた後、館の運営を委託されている、NPO法人ふるさと明宝の原義典(はら・よしのり)さん、末武東(すえたけ・あずま)さんに、その道具について様々なお話を伺います。

この日は木造建築専攻の上田先生も参加。木材を研究している上田先生に、民具にどんな木材が使わてているか見てもらいました。民具の木材を使った部分は、そのほとんどがその持ち主がつくったもの。つまり、民具に使われた木材の種類が分かれば、当時地域にあった樹木がわかり、山の姿も思い浮かべることができます。

原義典さん(中央)と上田先生(写真右)

 

夜は、明宝小川地区へ。自身で材を山から出して家を建てた、東さんのお宅へお邪魔しました。
こどもの頃の山の遊び、そこから見える当時の山の風景に思いを馳せます。

林業の膨大な経験を持つ末武東さんの自宅にて

 


 

3日目(10/5): 里山の過去から未来へ

午前中は小川地区で、地域住民による小水力発電事業への取り組みについて。
約60世帯の小川地区では現在、地域住民が立ち上げた「合同会社 小川エコビレッジ」が、650世帯以上が賄える発電事業の立ち上げに着手しています。小川に移住した大橋俊介(おおはし・しゅんすけ)さんから、発電所の設置予定地や現在の取り組み、現在の課題や今後についてお話を伺いました。この事業には、1日目にお会いした平野彰秀さんも携わっています。

小水力発電の仕組みを説明する大橋俊介さん(写真右)

 

また、立ち上げのきっかとなった「持続可能な秘境をつくる」プロジェクトを始めた西脇洋恵(にしわき・ひろえ)さんから、地域づくりの経緯とその想いを伺いました。

過去と現在、そして未来を感じた後、午後からはいよいよ「道具からみる里の過去と未来」の図式化です。学生ひとりひとりが興味をもった道具を発表。そこを起点に、たくさんのインプットを再構築しながら、里の過去と未来をそれぞれに思い描くことにチャレンジします。

道具からの関連を想像しながら、もう一度資料館に行って再確認や新たなヒントを得てきます。

この日の夜も、宿泊組の学生達は地元の方々と交流し、CO2削減のためのクレジット取引など、地域の未来につながる森林資源の新しい活用などについて熱心に意見交換をしていました。

 


 

4日目(10/6): 道具から里の姿を描く

午前中は、午後の発表に向けて各々でパネル作成作業。追加取材で資料館に再び向かう学生もいました。

そしていよいよ午後からは、各自の発表です。完成までもう一歩のところで時間切れ・・・というものもありましたが、とりあえずは全員発表。3日間の様々な情報や経験から、学生それぞれの視点と感性で、里山や山村の<過去・現在・未来>をつなぎ、多様な姿を描き出していました。

学生一人ひとりがそれぞれの視点で里山や山村を捉えたところで、「里山」や「山村」などの言葉の定義について考えました。同じ言葉でも、行政的な定義とその土地に住む人々では、言葉の捉え方に微妙なギャップがあります。地域に関わるときには、そうした差異が内在することを意識しながら関わる姿勢が必要になることを伝えました。


 

こうして終了した4日間。濃厚すぎてなかなか咀嚼できないと思いますが、1年生はこれからのアカデミー生活での1年半、実際に地域に関わることやプロジェクトを通して「森林文化」、それを形成する人と自然、それらが織りなす「社会」を捉える力を身につけてほしいと願っています。

地域は、そこに住む人を通してしか知ることができない風土があります。今回ご協力いただいた、平野さんご夫妻、原さん、末武さん、大橋さん、西脇さん、そして明宝の皆様、本当にありがとうございました。

今回学生のみなさんが制作した「道具からみる里の過去と未来」のパネルは、11/4(土)にJR岐阜駅前広場で開催される「ぎふ信長まつり」のアカデミーブースで展示します。

明宝歴史民俗資料館から民具をお借りし、学生がテーマにした民具もいっしょに展示する「分散展示」として行います。ぜひ見に来てください。

森林環境教育専攻 准教授 小林(こばけん)