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2023年10月20日(金)

五感をつかってつくる薬草茶(山村資源利用演習 第2回目)

<2023.9.6> 今年の「山村資源利用演習」、第2回目は揖斐川町の春日(かすが)地区にうかがいました。

講師をお願いしたのは、四井智教(しい・とものり)さん。
揖斐川町で、薬草をつかった飲食店の運営を手がけています。

伊吹山の麓にある春日地区は、織田信長が開いたという薬草の里。この地に縁のある四井さんは学生時代に病を患い、体に取り入れるものに気を使うようになったそうです。その経験から病気にならない「未病」の知恵として、日々の生活に薬草を取り入れてこられました。

薬草栽培と利用について、長い歴史とそこに育まれた智恵が残る春日ですが、人口減少や高齢化がすすみ、薬草文化の継承が懸念されています。

四井さんは、薬草の生産のサポートの他、飲食店を通して地域に人を呼び込むことをてがけています。また、春日の薬草文化を広めるために、春日の薬草をつかったクラフトコーラなど、新しい商品も開発しています。

現地では、実際に薬草を育てているところを見せていただきました。実際に栽培地に入っても、どれが薬草かわかりません。

「植物は1300種類以上、薬草は現在280種類以上あります。同じ植物でも「雑草」という人もいますね」

無数の植物の中から人間に有効なものを見つけ、効果や効能について長い年月をかけて研究してきた人の歴史が忍ばれます。また薬草として使うには、植物を見分けられるだけではなく、採る時期や採り方も大事だとのこと。自然を活かす知恵があれば、ただの雑草と思っている植物の中に、有用な「薬草」にできるものもあることを、ここでは学べます。

美しい薬草の里ですが、近年は獣害が多いそうで、いたるところに柵に囲まれた土地が広がっています。

また、所々で山の崩落もみられます。伊吹山とその麓の春日地区は、石灰岩の地質で大きな木が育ちにくく、その地質ゆえに希少な植生が育ってきたそうです。しかし石灰岩質は崩れやすく、近年土砂崩れなども多くなってきたそうです。

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薬草の生産地を見学した後、四井さんが運営に携わる「薬草カフェまるかる」にてお昼です。

その時いただいたドクダミ茶の美味しさに、皆びっくり!
実はこのお茶、ドクダミの葉を一晩かけて水出ししたものとのこと。エグみが全く無く、とてもすっきりして爽やかな風合いでした。

普段あまりお茶を飲まない学生たちも、薬草(ドクダミも薬草!)の風味に感激したところで、自分たちで様々な薬草をつかってブレンド茶をつくります。

 

「春日では昔から「百草茶」を飲んでいます。五感をつかって、ここにある薬草を飲んでみてください。そして、自分が好きなお茶をつくってみみましょう」

 

ドクダミ、カキドオシ、ヨモギ、スギナ、クロモジなど、約10種類の薬草をお茶にしてテイスティング。色や味、そして香りを感じながら、それぞれの薬草の個性を見極めていきます。

どんなお茶にしたいかイメージが固まったところで、学生一人ひとりが自分好みのお茶をつくっていきます。

五感で薬草を味わった後、四井さんの事業や活動について伺いました。

「揖斐川町が好きなんです。だから、ここにどうやって住み続けられるか、というのが自分のテーマになっています」

さまざまな事業を手がける四井さんは今年、薬草を使ったクラフトコーラの製造で生じるガラ(素材のかす)を活用して、クラフトジンやクラフトビールをつくる循環プロジェクトにもチャレンジされました。循環を意識して名付けられた「環ビール」は、クラウドファンディングで1ヶ月で120万円以上の支援を集めました。

四井さんには、事業を手がけるには心構えが必要だといいます。

「事業はもちろん利益を出さないとだめですが、同時に「なぜそれをやっているのか」と、いうことが大切です。僕は事業を通して、岐阜のこと、揖斐のことをを伝えたいと思ったんです。そして、住み続けられる揖斐川町にしていきたいと思っています。

事業を続けていると”なぜそれをやっているのか”、迷ったり悩んだりしてしまうことがあります。そうしたときに立ち返られるものをつくるーー「自分の軸をもつ」ということが必要です。自分たちでつくったものを、自信を持って人に伝えられることが大切ですね」

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最後は、四井さんも交えて、懐かしの?山手線ゲーム方式でみんなで「山村資源」を出し合いました。いろいろな人の視点でみると、様々なアイデアがでてきます。このときは40以上の山村資源がでましたが、見方を変えればばあれもこれも資源かも・・・というヒントもたくさん。

「日本で山村資源は、世界に比べてたくさんあるのでは。コーラは地域で昔から飲んできた薬草をつかっているので、”新しさもあるが、昔ながらのもの”ということもできます。視点を変えれば、これまでの資源も、新しい価値がみえてきそうですね」

という四井さん。新たに手がけたい次の事業構想についても熱く語っていました。

四井さんが仲間と開発した「岐阜コーラ」

 

アカデミー生からは「薬草の魅力について、とても驚いた」、そして、
「お金が目的ではなく、地域のことが主で考えている四井さんの姿勢がかっこいい!」
というコメントが。

薬草という土地に根ざした貴重な資源の活用で、地域と知恵を未来に継いでいこうとしている、四井さんや地域のみなさん。その取り組みに注目して、山村と資源利用のこれからのあり方について引き続き学んでいきます。四井さん、ありがとうございました!

森林環境教育専攻 准教授 小林謙一(こばけん)