「教育とまちづくり」のための3つのヒント(隠岐島前スタディツアーレポート第3回目)
<2025.6.14〜6.17>クリエーター科・森林環境教育専攻2年の授業「教育のまちづくり」のスタディツアーとして、島根県隠岐諸島の島前地域を訪れました。
スタディツアーの報告も、今回が最終回です。今回は4日間の学びを総括します。

隠岐島前・西ノ島の風景
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岐阜から島前までは、陸路と船でほぼ丸一日かかります。全行程4日間のうち、2日間が移動でした。
長い移動時間を利用して、外部講師として同行してくださった(一社)ココラボ代表の伊藤大貴さんから「教育のまちづくり」の講義をしていただきました。
また、船の上では岐阜大学の板倉先生による「コミュニティ・コミュケーション」の特別講義も行われました。

本土に向かう船上で行われた岐阜大学 板倉先生(中央)の特別講義
ツアーを通してとても重要だったのが「対話」です。参加者同士、そして講師との対話が、移動の間ずっと続きます。
対話の中で参加者の中に深い気づきが生まれ、自分たちが見聞きしたものへの理解と解像度が上がっていきました。
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海士町で学んだこと
現地を案内いただいた原周右さんからは、「海士町を知るには、最低1週間は必要」と最初に言われました。
その言葉の通り、今回私たちが見聞きしたことは、この町で起きていることのほんの一部にすぎません。
それでも2日間の現地視察を通して、多くの示唆を得ることができました。
心理学の専門家である板倉先生は、海士町にこんな印象を抱きました。
「海士町には挑戦や競争を促す「父性」だけでなく、失敗した若者を包み込み、孤立させない「島の母性(ゆりかご)」がある」
「地域の人と直接話す機会がなかったので、想像ですが……」と前置きしつつ、板倉先生は、海士町の特徴について次のように指摘しました。
「コーディネーターが過剰に介入せず、仲間同士で助け合う”自律的なピア(仲間)サポート”が機能しています。ハレーション(摩擦)が起きてもコーディネーターが解決するのではなく、地域住民が自ら若者を叱り、教えることは、結果的に「間接的支援」となっているのではないでしょうか。そうしたピアな関係が、コミュニティの結束を高めていくのではないかと思います」

本土に向かう船に力いっぱい手を振って見送る海士町のみなさん
岐阜県で学校と地域の教育事業をサポートする伊藤さんは、「島前で起きていることは凄いことだが、他地域がそれを目指す必要はない」という前提で、次のことを指摘しました。
「重要なのは、現地の人たちが対話を重ね、自分たちがどのような未来を作りたいのかに向き合うプロセスだと感じました。全国的にはコーディネーターの任期が終わると取り組みが途絶えるケースが多いのですが、島前ではコーディネーターがチームとして継続しています。継続することで、コーディネーターの素養や資質が循環し始めている。そのことに、強く感銘を受けました 」
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ツアー後のふりかえり会
アカデミー生も、様々なことを現地で真剣に学び取っていました。
ツアー終了後も高いモチベーションが続きます。
アカデミーに戻り、熱量が高い学生の皆さんと2回にわたり「ふりかえり会」を行いました。
海士町を訪れて受けた刺激から、様々な気付きと問いが生まれます。
・地域に関わるとはどういうことか?
・教育と地域づくりの関係はなにか?
・環境教育に関わる自分たちは、何をしていくのか?
様々な問いが出る中、アカデミー生に共通していた想い、それは…
「何を見たか」ではなく、「自分たちはどうするか」

西ノ島で出会った馬に癒やされるごろー先生
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島の暮らしを感じた出来事
現地を訪れることで、その地の風景や暮らしをリアルに体感することができます。
今回のスタディツアーでは、参加者は2つの島に分かれて宿泊。海士町と西ノ島、それぞれの島で人々の暮らしを垣間見ることができました。
また、2泊3日の島の暮らしを通して、様々なハプニングがありました。
その中のひとつが、食事です。
海士町滞在チームは一棟貸しログハウスに滞在。朝夕の食事は、基本的に自炊です。
島に来たからには、美味しい魚が食べたい!と、島の商店に買い出しに。そこではなんと、島の魚が売っていない!
島では、魚は猟るもの、もしくは”もらうもの”だったのでした・・・。
その夜は、本土から買っていった食材をやりくりしてしのいだそうですが、島の暮らしを強く実感する機会になりました。
同時に、自分たちの「普通」とは違う異文化に触れたことで、外から来た人も含めて島に滞在する全ての人々に生まれる「共同体意識」を感じるきっかけになりました。

海士町に滞在したメンバー。「ハプニングが絆をつくる」と語る河田さん(写真左奥)
同行したココラボ理事の河田さんは、仲間と困難を乗り越える経験を通して、こう語っていました。
「初めて会う人同士で、最初は緊張していましたが、食事をつくるなど、共同生活を通して本音を言い合える仲間になった。短期間でそうした関係を作れるということは、素晴らしい学びでした」
ただ見聞に訪れるだけではなく、長い時間を共に過ごし、共に暮らす、そこから生まれる、互いに学び合う関係
―― 「ピア・ラーニング(Peer Learning)」の姿が、今回のスタディツアーにはありました。

西ノ島で出会った隠岐固有亜種の「オキノウサギ」。
また、ココラボの伊藤さんは、スタディツアーの効果について、
「共通体験をすることで、共通言語が生まれる」と指摘していました。
学び合う仲間が集い、現地での体感し、対話を通して互いの気づきを深め、学びを実体化させる、そのプロセスそのものが本質的な学びとなります。
教育やまちづくりに関わる人たちが出会い、学び合えるスタディツアーを岐阜県全体で実現したい…そんな想いも巡りました。
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「教育のまちづくり」のための3つのヒント
こうして、濃密なスタディーツアーは終了しました。膨大なインプットと体験を、私自身がまだ消化しきれていません。
3回の活動報告では全てのことは伝えきれませんが、最後に、海士町で私自身が感じた3つの気付きを挙げたいと思います。
1つ目は、教育コーディネーターの存在、そしてチームで取り組む体制です。
海士町では、教育コーディネーターを個人ではなく、チームとして配置しています。
多様な役割を持つ人がチームを構成して取り組むことで、多様性、持続性、そして人の循環が担保されていると感じました。
2つ目は、地域の文脈を再定義し、発信する、デザインです。
原さんの「セルフ島流し」という言葉は、一見ネガティブにも見える歴史的な文脈を、現代人に訴えかける意味に再定義していました。
新しい定義をポジティブに発信することで、都会から”前向きな挑戦者”を引き寄せています。それが人の「還流」を生み出していました。
そして3つ目は、島の包摂的な空気感でした。
海士町では、起業や産業づくりといった挑戦を後押しする「父性的な」空気がある一方で、人を孤立させず、支え合う関係がありました。
「ゆうくんを独りにしてはいけない」という発言にも表れているとおり、プロジェクトを強力に推進してきた有名な山内前町長も“母性的な人”だったと聞き、とても驚きました。

町の玄関口「きんにゃもんにゃセンター」に掲げられた看板。一見父性的にみえる海士町だが、実は母性的な島だった
地域が持続していくためには、「経済」と「環境」の両輪が持続可能である必要があります。
経済優先のこれまでの教育やまちづくりには、リーダーシップを期待して父性的な人材を求めてきたように思えます。
しかしこれからは、地域の中にある「母性的な力」が重要な意味をもつのではないか … 海士町での学びを通して、そう強く感じました。
海士町で見たものは、岐阜県の山村地域にとっても、多くの示唆を与えてくれるものでした。私たちが得た学びを、アカデミー生に、そして岐阜の人々に伝えていきたいと思います。
海士町の原さん、大野さん、浅井さん、米倉さん、近藤さん、そして海士町、西ノ島の皆様、本当にありがとうございました。
日本の希望として、これからも進化し続ける島前の進化に注目しています。みなさんから、これからも学んでいきたいです。

<森林環境教育専攻 こばけん>