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2026年03月30日(月)

最先進地、海士町で学ぶ「教育のまちづくり」(隠岐島前スタディツアーレポート第1回目)

<2025.6.14〜6.17> クリエーター科・森林環境教育専攻2年の授業「教育のまちづくり」の授業で、島根県隠岐諸島の島前地域を訪れました。

今回訪れたのは、地方創生の”一丁目一番地”として全国に知られる海士町。地域産業づくり、そして教育を軸にしたまちづくりの最前線では、何が起きているのか?その熱量に触れる4日間が幕を開けました。

スタディツアーには、岐阜県で教育事業をてがける(一社)ココラボ代表の伊藤大貴(いとう・まさき)氏が外部講師として同行。

さらに今回は、「コミュニティ・コミュニケーション」の授業と合同開催。同じく外部講師をお願いしている岐阜大学の板倉憲政(いたくら・のりまさ)准教授も同行してくださいました。

豪華講師陣に加え、ココラボの理事の河田さん、板倉先生のゼミ生である岐阜大の森本さん、さらにはアカデミーエンジニア科卒業生で現在は美濃市地域おこし協力隊の久野さんなど、多彩なメンバーでのスタディツアーとなりました。多様な人々といっしょに訪れることで多角的な視点が生まれ、学びが深まります。

岐阜から海士町まで、ほぼ丸1日。4日間のスタディツアーのうち2日間はほぼ移動となりますが、その時間は参加者同士で見聞きしたことを共有し、深め合う、大切な「学び合いの時間」になりました。

私たちは何を体験し、何を学んだのか・・・内容がとても濃く、全てを伝えるのは不可能ですが、海士町で見た「未来をつくるヒント」・・・そのほんの一部を3回に分けてお届けします。

 


 

<海士町・1日目(6/15)>

島前(どうぜん)は、海士町がある中ノ島、西ノ島、知夫里島の3つの島からなります。岐阜を出発して2日目の朝、島と島を結ぶ船に乗り込み、宿泊した西ノ島から海士町へと向かいます。

船は、島の人たちにとっては日常の交通手段です。しかし私たちにとっては”船で島に通う”というのは、特別な感覚でした。
島々に囲まれた穏やかな内海を渡りながら、少しずつ近づいてくる海士町の港。地方創生の先進地として全国的に知られるこの町に、いよいよ足を踏み入れます。

 

人とまちが交わる学びの拠点

最初に訪れたのは、「隠岐國学習センター」。ここを運営する(一財)島前ふるさと魅力化財団、その教育魅力化事業部リーダーである原 周右(はら・しゅうすけ)さんに案内していただきました。

民家を改修した隠岐国学習センターを紹介する原周右さん(写真中央)

ここは県立の隠岐島前高校の生徒を中心に、地域の子どもたちが集う場所です。「公営塾」という機能で知られますが、実際はさまざまな用途で使われる社会教育施設です。

建物の入り口につながる「通り土間」は”外”の扱いで、24時間開放!施設が機能を通して地域に溶け込む動線がデザインされていました。小学生もよくたむろするそう。

建物に続く道が「通り土間」に

通り土間にある机で試験勉強をする高校生たち

民家をリノベーションした建物は、木の温もりを感じる落ち着いた空間です。初代センター長の未来を創る若者が学ぶ空間は、歴史を感じられる空間であるべき」というコンセプトに基づき、長年大切に使われてきた木造住宅の落ち着く雰囲気を残しています。

その一方、奥に進むと、情報が張り出されたボードや、遠隔授業ができるシステムなど、利用者を刺激するものがたくさんあります。

多目的な利用ができる「教室」

なんと、夜は22時まで利用できるとのこと。軽食がつくれるキッチンスペースもあり、自律的に学ぶこどもや若者の「居場所」となっていました。夜遅くまで勉強する高校生のために、内航船が増発されたというお話も聞きました。まさに島ぐるみ、地域ぐるみで「教育魅力化」を推進しています。

電子レンジや給湯器、コーヒーサーバーも使える


教育コーディネーターは謝るのが仕事?

魅力が詰まった「隠岐國学習センター」で、原さんから島前地域の取り組みについてお話を伺います。

原さんは大阪府出身。滋賀で地域おこし協力隊として活動しているときに、初めて島に訪れました。その後も島にゆるゆると関わる中で、現在のプロジェクトリーダーに口説かれ、2022年に移住されたそうです。

この経緯を、原さんは「僕は”セルフ島流し”になった」と表現します。
海士町のある中ノ島は、後鳥羽上皇や後醍醐天皇が「島流し」になった地として知られます。
現代の海士町は、欲しい人材を島に呼んでは口説いて移り住まわせる”人さらいの島”だと、原さんは紹介しました。

続いて、財団の様々な取り組みを伺います。その中には・・・

・増えた高校生の住居(寮)を増やすために、町が交流施設として建設し、高校に貸し出す運営スタイル。
NTTと共同開発した遠隔授業システムの実証
小・中・高の教職員が連携する会議の設置や。高校生が小中学校へ出向くなど「島まるごと学校」の取り組み

などなど、びっくりキーワードが連発していました。


そしていよいよ、「教育魅力化」についてです。

原さんは現在、主に高校に関わる教育コーディネーターをされています。島前では、隠岐島前高校の魅力化をきっかけに、全国から高校生が学びに来る「地域みらい留学」が始まりました。廃校寸前だった高校の入学者数はV字回復し、現在は毎年50人の新入生を確保。その7割は島外からの入学者です。

島に来た高校生は授業で、そして学校のプロジェクトで、さらには自身の暮らしの中で、地域の人と深く関わることになります。年代も文化も違う高校生が地域に混ざるとき、様々なハレーション(摩擦)が生まれますが、それが必要だと原さんは言います。

「高校生という”無礼で無謀で無作法な存在”が地域に飛び込み、揺らぎを起こす。停滞した地域をアップデートし、イノベーションを起こすためには、その揺らぎが必要です」

そしてハレーションが起きるとき、地域の人々は、ちゃんと高校生を叱ってくれると言います。
「コーディネーターがお膳立てしすぎず、地域に出す。地域の人も真剣だから、プロジェクトがまだ生煮えの状態で向かった高校生は、当然怒られる。でも地域での実践は彼等が社会に出るための”練習試合”と位置づけて、積極的に送り出しています」

だから・・・と原さんは続けます。
「コーディネーターの仕事は、謝ることがほとんど。先週も3回くらい謝りに行きましたよ。仕事でのコミュニケーション量は、高校生とより大人(教員・住民・行政など)とがほとんど。8割以上は大人とですね」

「コーディネーターの仕事は謝ること」と、平然と語る原さんの言葉から、海士町で起きている”ホンキとホンモノ”を、早くも感じ始めていました。


ワクワクが伝わるまち

午後は、原さんの案内で、海士町を巡ります。

隠岐島前高校の寮のすぐ側では、、道路脇の放牧地で牛がのんびりと草を食んでいます。
よく脱走して、町内放送が流れることもあるそうです。

そして、隠岐島前高校の寮を外から見学。木造の外観がおしゃれです。
休日でしたが、寮の周りにいた高校生たちが、気さくに声をかけてくれました。

海士町の史跡、隠岐神社へ。後鳥羽天皇が祀られています。
神社の側には、立派な野外ステージが。そこは海士町の大イベント「綱引き大会」の会場になっているそうです。
綱引きは島の人々が”ガチ”で取り組み、女性も積極的に参加するそうです。そういえば、港の「きんにゃもんにゃセンター」にもポスターがあり、大勢が参加する島の重要な”お祭り”になっていることが伝わってきました。

後鳥羽天皇崩御後、700年を経て建立された「隠岐神社」

隠岐神社の横にある謎の立派なステージ

そして憧れの海に。海無し県の岐阜人には、海は格別です。
明屋海岸にはバーベキュー施設もあり、島に着任した先生たちの交流会もされるそうです。
透明な海と岩場の景色に、アカデミー生のテンションが爆上がりしていました。

次に訪れたのは、あそび場「あまマーレ」。もともと保育園だった施設で、現在は保育所が併設される複合施設となっています。
外ではこども達が走り回り、中には古着屋さんもあります。
偶然、大人の島留学で訪れている方々とも出会いました。様々な人が集う、町の交流拠点になっているようでした。
柔軟な運営がされる施設ですが、この施設の管理者は教育委員会。担当課の名称が「共創課」というのが素敵です。

そして海士町役場へ。1年前、2024年11月に開所したばかりの、真新しい建物です。


訪れたのは日曜日でしたが、普通に入れます。入口を入ると1階は、「しゃばりば」と呼ばれる共創スペースでした。
高校生や町民が自由に使える空間で、役場というより地域の交流拠点のような雰囲気です。
そして、この「しゃばりば」に隣接して町長室があるのが驚きです。

町役場1階を占める共創スペース「しゃばりば」

町長室は1階にあり「しゃばりば」からつながっている

さらに、役場に隣接する図書館へ。外の景色がみえる開放的なつくりで、海も見えます。
公設の図書館なのに、ドリンクOK。コーヒーやお茶を自分でいれられるカフェコーナーもあります。
パソコン席もあり、コンセントも完備。まるで都会のカフェのようです。

図書館のパソコン席からは海士町の風景が広がる

図書館に設けられたカフェコーナー

入口すぐには「種の貸し出し」もある選書コーナーが。気になって司書の方に話を伺っている後ろで、子どもたちが元気に走って駆け抜けていきました。

「厳しくルールを決めすぎない方が、町の中に面白いことが生まれるんです」


次のステージをつくる人

日が暮れる間近、交交(こもごも)株式会社の共同代表 大野佳祐(おおの・けいすけ)さんを訪ねました。

大野さんは、2014年に移住。高校の魅力化プロジェクトや学校経営に携わっています。
財団の理事を務めながら、2022年に交交を起業しました。

交交株式会社の大野佳祐さん

訪れたのは、シェアハウスの新築現場。モジュール化された構造を使い、専門技術を持っていない人でも建てられる仕組みを取り入れています。
実際に、建築現場では大野さんの会社の社員など、たくさんの人が動いていました。
自分たちで建てる家造りはとても楽しそうで、みなさん笑顔です。

「大勢の人が島に来るので、住宅不足が課題。その課題解決と、さらに来た人たちの交流を生み出すことをねらって、シェアハウスを新築することにしました」

大野さんは住宅以外にも、エネルギー自給や、島の木材利用の仕組みづくりにも着手しています。

誰でも参加できるセルフビルド型での家づくり

元々、起業家マインドを持って島を訪れた大野さん。当初は高校の教育コーディネーターをする中で、
「卒業生が10年後に帰ってきたときに、魅力的な仕事がない」という未来に危機感を感じたそうです。

「起業家精神を説く立場で、自分でリスクを負って起業していないのはダサい」

自身で実践するべく起業した大野さんの信条は「早さこそ正義」。地域の停滞を打ち破り、イノベーションを引き起こすためにはスピード感が重要だということです。一方、そのスピード感に戸惑い、異論を唱える人もしばしばだそうです。

「批判する人の話を聞いたら、『謝り行く人から、その人を教えてください』と言います。そして、直接会いに行って『一緒にやりましょう』という」

さらに、新しいプロジェクトを進めるスピード感を、こう表現します。

「前から打たれてる時は結構痛いんですけど、わーっていくと、最後は後ろから叩かれる。そうすると、これは割といいぞっていうふうになる。新しいことをするときは、そのくらいのスピードで突っ切らないとダメだと思います」

約20年に渡る教育魅力化の取り組みで、挑戦する高校生や若者を大勢呼び込むことに成功した島前地域。その流れを着実に次の世代につなげるという気迫を、大野さんのお話から感じました。

 


こうして海士町での1日目が終了しました。

海士町と西ノ島に別れて宿泊している参加者でしたが、この日は港の「きんにゃもんにゃせんたー」にあるレストラン「船渡来流亭(せんとらるてい)」で、全員で夕食を取ることができました。

この日得た濃密な体験とインプットの整理をしたいアカデミー生、そして参加者の会話は、西ノ島に帰る船の出港時間まで尽きませんでした。

海士町滞在組に見送られる西ノ島宿泊チーム

活動報告は、海士町2日目に続きます。

<森林環境教育専攻 こばけん>