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2024年03月26日(火)

人のつながりが地域に事業を生み出す(ローカルビジネス3<現場から学ぶ>)

<2024.2.15 〜 2.16> 森林環境教育専攻の「ローカルビジネス3<現場から学ぶ>」実施しました。

第3回目の現場は白川町。2日連続で白川町で学びます。

白川町では、外から多くの人が移り住み、新しい事業が次々と立ち上がっています。
いったい何が起きているのか・・・以前から気になっていました。

今回は、白川町で起きているローカルビジネスとその背景についてじっくり学ぼうと、(一社)白川町移住・交流サポートセンターの塩月祥子(しおつき・しょうこ)さんに講師兼コーディネートをお願いしたところ、超充実、そして超濃厚な2日間をご用意くださいました。

お会いした方お一人お一人、それぞれのお話で授業ができるほど内容が濃く、とてもお伝えしきれません。お会いした方々をご紹介させていただきます。

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◯1日目

<1> 一般社団法人 白川町移住交流サポートセンター
代表理事兼センター長 鈴木寿一さん

鈴木さんからは、白川町の概要と、センターの設立経緯と取り組み、現場と課題などなど。
詳細なデータや事例を交えて、丁寧に説明いただき、白川町の全体像が分かってきました。

そして塩月さんからは、白川町の魅力についてのお話を。

驚いたのは、こちらのセンターではものすごい数の量の事業を手がけていらっしゃること。
その上で、元役場職員だった鈴木さんの
「「継続的な運営のためには、自己財源を確保する。自立できる団体になる」
という言葉が印象的です。

鈴木センター長(右)と塩月祥子さん

 

<2> 里山ゲストハウス 晴耕雨読とみだ

塩月さんから、白川町移住交流サポートセンターさんが運営する「晴耕雨読とみだ」について、現地にて説明をいただきます。

「晴耕雨読とみだ」の立ち上げの経緯や運営、地域とのつながり、そしてグリーンツーリズムの拠点としての整備などについて伺いました。

里山ゲストハウス 晴耕雨読とみだ

 

続いて、塩月さんご自身についてお話を伺いました。

白川町に移り住むきっかけや、これまでの取り組みや活動など、アクティブな内容が満載です。
中でも、ご自宅である「ストローベイルハウスの家づくり」についてのお話では、家を建てるためにまず、素材の藁を地域でつくる「はさ掛けトラスト」を立ち上げるなど、とても刺激になりました。

概要の説明をいただいた後、塩月邸へ移動して実際のお宅を見学させていただきます。

「ストローベイルハウスの家づくり」を紹介する塩月さん

<3> クウスムデザインの取組 塩月洋生さん

塩月さんのご自宅を見学。
ご主人で建築士の塩月洋生さんから、ストローベイルでの家づくりについて説明をいただきました。

断熱性能も良く、大人からこどもまで、家づくりに参加できるのがストローベイルでの家づくり魅力とのことです。そして家づくりを通して、仲間も生まれます。

次に訪れた「暮らすファームsunpo」の児嶋さんも、ストローベイルの建物をつくっています。

塩月洋生さんが自身で設計、DIYで建築したご自宅を見学

 

<4> 暮らすファームSunpo 児嶋 健さん

農園や自然体験などを手がける児嶋さんは、2023年の秋に、新たにクラフトビールを立ち上げました。様々な人との共同による、新規事業づくりや販路開拓など、勉強になること多々です。
すでに新たな事業アイデアも構想中で、バイタリティに溢れています。

暮らすファームsunpo 児嶋 健さん

クラフトビールの醸造所

 

<5> 五段農園 高谷裕一郎さん

有機農家が続々と集まる白川町。

有機農業には質のいい肥料が必要ということで、高谷さんは土づくりを研究されています。
地域での有機物の循環から生まれる「完熟堆肥」は、良質な培養土として商品化。
高谷さんの活動は注目され、主催する「堆肥の学校」には東京、東北、九州など、全国から人が来るそうです。

これまで基本的に一人で事業をしてきた高谷さんでしたが、現在は白川町で新たに立ち上がった「白川ワークドット協同組合」から「派遣職員」に来てもらっています。

五段農園 高谷裕一郎さん

 

<6> 白川ワークドット協同組合 新井みなみ さん

新井さんは、NPO法人G-netで、自治体や企業などと、連携するプロジェクトの開拓を手がけています

そうした中、2022年に「白川ワークドット協同組合」を設立しました。
これは、総務省が推進する「特定地域づくり事業協同組合制度」に基づいたもので、他業をこなす「マルチワーカー」を協同組合を構成する事業者に派遣する事業です。「白川ワークドット協同組合」は、東海エリアで初の試みとなりました。

職員は皆、「マルチワーカー」として、会員の事業所に出向き、様々な仕事に従事できます。
「白川ワークドット協同組合」では現在、現在町内の12社が会員になり、5名の派遣職員を雇用しているとのことです。その中には、昨年春に大学を卒業して入社した「新卒」の方も。

その他、「ふるさとワーキングホリデー」や高校生インターンシップ、企業どうしをつないだ勉強会や交流会の開催など、多くの事業を手がけています。新井さん曰く、目指すのは「地域の人事部」。

白川ワークドット協同組合 新井みなみ さん

 

<7> 交流会

1日目が終わり、「里山ゲストハウス 晴耕雨読とみだ」で、2日目にお世話になる和ごころ農園の伊藤さんと塩月洋生さんが開発した、東濃ヒノキでつくったバレルサウナも体験。

サウナには人が集まる、と言われるとおり、本日お会いした塩月さん、児嶋さん、高谷さん、伊藤さんをはじめ、地元の方々が総勢8名もお越し下さいました。

地元の方から直接、ざっくばらんに暮らしや魅力、これからの課題や可能性など、様々なお話を聞けるとても贅沢な時間となりました。

お話を伺いながらいただいた、児嶋さんのクラフトビール、特に個人的には白川茶を使ったIPAが絶品でした!

◯2日目

<8> 和ごころ農園 伊藤 和徳さん

2010年から有機農業をはじめた伊藤さんは、野菜の販売や名古屋市の「オーガニックファーマーズ朝市村」への出店の他、農業体験の事業もてがけています。

前日体験したバレルサウナの事業も立ち上げましたが、さらに新たな事業として「三年晩茶」の生産に取り組まれています。

お茶どころとして有名な白川町ですが、お茶農家の減少で放棄された茶畑が増えているとのこと。
伊藤さんは、里山の再生と有機農家の新たな事業づくりを目指し、2023年夏にクラウドファンディングで資金を集めて、お茶の焙煎所を新設しました。

ようやく施設が整い、これから商品製造と、それに合わせた体験プログラムの提供をしていくとのことで、プログラムを先行体験させていただきました。

体験は、まず放棄された茶畑からお茶を刈り取ります。葉だけではなく、茎ごと伐ってきます。

葉を取り、茎は細かく粉砕して、薪火をつかって釜で炒ります。じっくりゆっくり、会話を楽しみながら、そしてお茶の香りに包まれながらの作業に、学生のみなさんも日頃の忙しさを忘れて夢中になっていました。
最後に自分たちでつくったお茶をいただき、そのすっきりした味わいに感動しました。

森林文化アカデミー的には、樹木として背が高くなったチャノキを使うこと、そして背が伸びたチャノキはシカの食害にあまりあわない、というところにも興味を惹かれました。

 

和ごころ農園 伊藤和徳 さん

収穫した茶の木の葉を薪火で時間をかけて焙煎する

 

お昼は、和ごころ農園さんの特製ランチボックスをいただきました。
和ごころ農園さんで育てた、自然栽培のお野菜やお米、地元の「あんしん豚」など、自家製と地域の食材で彩られたお弁当です。

いっしょにランチボックスを食べながら、NPO法人ゆうきハートネットのお話をうかがいました。

和ごころ農園で栽培した野菜とお米、地元と食材をつかったランチボックス

 

<9> NPO法人ゆうきハートネット 代表理事 佐伯薫さん

黒川つばくろ農園 渡邊雅信さん

1日目からここまでお会いしてきた方々は、白川町移住交流サポートセンターの鈴木さん以外、みなさん外から来た移住者です。

移住者が白川町に住むきっかけづくりには、ゆうきハートネットの方々が中心的な役割をされてきました。以前は東京で働いていた渡邊さんも、ゆうきハートネットの方とのつながりで、3年前に白川町で農園を開業された方です。

白川町出身でゆうきハートネットの代表理事である佐伯さんから、法人の立ち上げ経緯と取り組みなどを伺いました。

お話を聞いていて私が感じたのは、”多様なものを受け入れる柔軟さ”でした。柔軟さの中には、「こだわりすぎない」「異質なものを否定しない」「新しいものを面白がる」なども含まれます。

ゆうきハートネットができ、そこに有機農家を目指す人が集まり、有機農家になった人がまた新たに有機農家を目指す人を呼び込む・・・こうして白川町は、有機農家が集まる町になりました。

有機農家になった人々は仲間とつながり、農業だけではなく様々な事業を生み出しています。

佐伯さんは、ゆうきハートネットの目指す先として、有機農家を増やすことだけではない、と言います。

「町に人がいることが大事」

この思いを次世代につなぐため、法人の運営は佐伯さんが「第2世代」と呼ぶ移住者を中心とした人々に移ろうとしています。

ゆうきハートネット 佐伯さん(右)と黒川つばくろ農園 渡邊さん

 

ちなみに、ゆうきハートネットのお話を伺った会場は、「黒川農業研修交流施設 黒川マルケ」。
ゆうきハートネットが管理・運営をしています。研修生の寄宿舎としてだけではなく、地域の交流スペースとしても活用されていました。

塩月洋生さんが設計した「黒川マルケ」

 

こうしてあっという間の2日間が終了しました。

白川町にはなぜ人が集まり、新しく事業が生まれるのか・・・。
その一つは、人と人とのつながりがあることです。それも移住者同士だけではなく、移住者と地域の人がつながっています。外の人と中の人がつながっているというのは、山村の地域づくりにおいて、とても大事なことです。

こうしたつながりを生み出したのは、外から人を受け入れる人が地域にいたこと、そして来た人の面倒をみてくれる人がいたことではないでしょうか。そうした人々は、さらに、新しいことに前向きで、好奇心がある人が多かったのではないかと感じました。

***

外から来る人を魅了する白川町ですが、今回一番注目したのが、白川ワークドット協同組合(ワークドット)の取り組みです。

地方に住みたい、地方で自分らしい暮らしや仕事をしたい人が増えていく・・・山村地域ではそんな未来が望まれています。しかし・・・

・従来の仕事や働き方ではない「はたらき方」を見つけたい
・自分に合った仕事がわからない
・いろいろなスキルを身につけたい
・組織に縛られず、複数の仕事をてがけたいが「フリーター」と呼ばれ、大卒のファーストキャリアとして躊躇する

・・・など、様々な課題があります。

これからの時代の変化、そして地域のニーズと個人の生き方をうまくマッチさせる仕組みとして「マルチワーカー」を「社員」として「地域の様々な事業所がつながる」という、ワークドットの取り組みに大きな可能性を感じたのです。

有機農業で多様な人が集まり、人が人を呼んできた白川町は、これからの新しい働き方と暮らし方を提案できるワークドットのような取り組みによって、さらに多様な人を呼び込みことができるのではないでしょうか。特に、マルチワーカーのような他業を手掛けられる人は、自身で新たな事業を立ち上げる意識が高い人も多いと期待されます。

ワークドットの新井さんは、ワークドットの将来を次のように語っていました。

「起業家を育てたい。”起業+マルチワーク”で、組合員にもなってほしい」

そんなワークドットも、白川町に生まれた新規事業です。地域の新たな事業が、さらに地域の事業を生み出す・・・こうした好循環が続いていくことが、地域で挑戦する人が続いていく、こどもたちにも自分らしい生き方に挑戦できる土壌をこれからもつくっていくのではないでしょうか。

鳥取県智頭町では「林業マルチワーカー」を主軸とした取り組みもあるそうです。「マルチワーク」そしてローカル起業は、森林文化アカデミーとしては、林業従事者もこれからの可能性が広がる、大きなヒントが含まれていそうです。

三年晩茶をつくり終えて記念撮影

 

まだまだお伝えしたいことがあるのですが、今回はここまで。
これからも白川町のみなさんから、学ばせていただきたいです。

塩月さん、そして白川町のみなさま、本当にありがとうございました。

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ところで、今回体験させていただいた白川町の内容ですが、その内容と充実ぶりは、視察プログラムとして間違いなく全国トップレベルです。しかも白川町には、今回は触れられなかった魅力がまだまだあります。

塩月さんからは「白川町に来るなら、1泊2日では全然足りません!」と言われました。確かに!!

(森林環境教育専攻 小林(こばけん))