”あたり前”の素晴らしさに気づく(山村資源利用演習・第2回目)
<2025.09.25> エンジニア科2年・林産業コースの「山村資源利用演習」、第2回目を行いました。
この授業は、学生が現地に足を運び、地域の自然や文化を感じながら、山村の様々な資源の活用することを体験しながら学ぶことを目的とした実習です。
今年の参加学生は3名。森林文化アカデミーが大切にしている「森林文化」という視点のもと、同じフィールドに立ち、同じ空活動を通して学ぶ一日となりました。
今回の講師は、合同会社いびはる商社 代表の 四井智教(しい・とものり)さんです。揖斐川町春日地区を拠点に、薬草文化を軸とした事業と担い手育成に取り組んでいます。

合同会社 いびはる商舎 四井智教さん
まずは「はるひの案内所」に伺いました。かつては農産物直売所や観光案内を行っていた建物で、四井さんが会社を立ち上げ、町より委託を受け運営をしています。現在は人と文化が行き交う“地域残し拠点”として活用がスタートしています。

この日はあいにくの雨だったため、山には入らず、作業場でヨモギの乾燥作業を体験しました。ヨモギも薬草のひとつとして、山間で大切に育てられています。薬草生産者である藤田絹美さん(通称:まるちゃん)に、指導をいただきました。

薬草生産者の藤田絹美さん(右)
摘みたてのヨモギを一本ずつ手に取り、「蒸れていないか」「色が変わっていないか」を確かめながら選別します。
そして、偶数本で束ね、風が通るように棒に通して干していきます。
手間のかかる作業ですが、誰一人、急ごうとはしません。
「少量で束ねた方が、きれいに乾くんです」
そんな藤田さんの言葉を聞きながら、学生たちは黙々と手を動かしていました。
「この作業、好きかも」
そんな声も、学生からあがっていました。みんなで集まり、手元に集中しながら続く一連の作業の中から生まれる”自分の時間”が、若い学生には新たな気づきだったのかもしれません。
ヨモギの乾燥作業を体験した後、「はるひの案内所」に戻り、四井さんから地域資源とそれを活かす事業についてお話を伺いました。
春日地区は山間地域で、揖斐川町でも一番奥に位置する場所になります。人口が急速に減っていく中、織田信長が奨励したといわれる薬草と、それを使う生活文化が無くなってしまう危機が目前に迫っています。
この地域を残す、文化を守る ―― 地域を活性化するため「地域おこし」というキーワードがよく持ち出されます。
春日地域の未来に向けて活動を始めた四井さん。地域の中で様々な想いが交錯する中、四井さんはこう強調します。
「地域を起こすためじゃなくて、”地域が残っていくため”にやっています」
四井さんは、先人たちが残した旧春日村の総合計画や、地域に根づく暮らしの知恵を「教科書」として読み解き、今の時代に合う形に少しずつ組み替えていきたいといいます。
「事業のコンセプトは、”旧春日村文化を食す”です。単に“食文化を残す”のではなく、春日村の様々な文化、それを”食す”という、総合的なものにしていきたいんです。薬草がなにに効くかということではなく、”薬草の文化を暮らしに取り入れる”を広めていきたい。春日の人々の薬草の使い方、その文化を残していきたいんです」
四井さんたちが商品開発したクラフトコーラ「ぎふコーラ」も、その延長線上にあります。

クラウドファンディングからスタートした「ぎふコーラ」とオリジナルグラス
また新たに、「伊吹百草カレー」も開発しました。事業を継続化させるために”稼ぐ”を目的に展開していきます。

四井さん(左)と合同会社パートナーの小寺さん
さらに、薬草文化の担い手をつくるべく「いび薬草の里クエスト」という講座もスタートしました。あえて高めの参加費を設定しましたが、これまでクラウドファンディングで応援してくれた人などの参加がありました。地元の方が講師となり、交流が生まれ、地域の人へのよい効果も生まれたそうです。
多くの課題の中、様々な取り組みをしてきた四井さん。活動は「地域のために…」から始めるのではないのではないか、と考えるようになります。紆余曲折を経て、パートナーの小寺多誉子(こでら・たよこ)さんと会社を立ち上げるときに、腑に落ちた言葉と出会いました。
「百花春至為誰開(ひゃっか はるいたって たがためにか ひらく)」
「花は、誰のためではなく、自分のために生きている。自分のために生きているが、誰かの為にもなっている。それが、自然の摂理である」 ―― 禅の言葉から、そう意味を受け取った四井さんは、この言葉を会社の方針としました。
「”地域のために”ではなく、”自分の為に”を明確にしたい。それを、地域の人に理解してもらう ―― その結果、地域の人に喜んでもらえれば、良いことになるのではないか。そう考えています」
特別な地質に育つ多様な野草、薬草。それを利用し、様々な知恵を育んできた春日の文化。山村資源は自然の恵みだけではなく、それを利用する人の知恵も大切な資源です。そして、それはまさしく「森林文化」です。
春日でご両親が育ち、小さい頃から様々な話を聞いてきた小寺さんの言葉が、私たちの心に残りました。
「薬草がある、今の環境が”あたり前”と思わない感覚を大切にしていきたい。これは素晴らしい財産なんだ、と感じています。色々な人に伝える活動していきたいです」
1日の体験を経て、参加した学生は次のような感想を述べていました。
「そこら辺に生えている草が、薬草になるって知らなかった。身近なものの見え方が変わった」
「伊吹山の麓という地形と、薬草を使う生活が、ちゃんとつながっていると実感できた」
「“地域をおこす”より“地域を残す”という言葉が心に残った。地域に関わるとき、自分のペースで関わっていいんだと思えた」
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他にない資源に恵まれながら、収縮していく山村。その資源を活かし、未来につなげていくために今必要なのは、「地域おこし」という“起爆剤”ではなく、一緒に考え、一緒に手を動かす、関係性づくりなのかもしれません。アカデミー生など若い世代の新しい発想と関わり方でかたちづくられる、そんな山村の新しい未来に期待が膨らみます。
素晴らしい学びの時間をつくってくださった四井さん、本当にありがとうございました。そして貴重な体験をさせていただいた、藤田さん、小寺さん、春日の皆さまに心より感謝いたします。
<森林環境教育専攻 教員 小林(こばけん)>







