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2017年09月12日(火)

教員オススメの一冊 9:いなしの智恵

いなしの智恵 日本社会は「自然と寄り添い」発展する
著者:涌井 雅之
発行年:2014年
発行元:出版社ベストセラーズ
価 格:864円(税込)
おすすめしている教員:川尻 秀樹


この書籍は古来より日本人が「いなしの技」を駆使して、自然の猛威を和らげ、かわし、自然と共生してきたことを、里山や日本庭園、街づくりの視点で、分かりやすく解説されています。

「いなす」は相撲の解説などでよく耳にする言葉で、「往ぬ・去ぬ」+「す」からできた言葉で、力に力で対抗するのではなく、「自分に向けられた攻撃を巧みにかわし利用する」ことです。

具体的には、東京スカイツリーにも応用された地震の揺れを緩和させる法隆寺五重塔の心柱、洪水時の河川の勢いを分散させるために武田信玄がつくらせた「信玄堤」、空間的に「いなしの知恵」を網羅した多様な里山などがその事例です。

日本は豊かで美しい自然に恵まれている反面、自然の厳しさもあります。急峻な山々と急こう配の河川などの地形要素に加え、豪雨や地震、津波などの自然災害に繰り返し襲わる中で、自然に真正面から立ち向かうだけでははなく、信玄堤のように上手く水を逸らす方法が考え出されました。

つまり日本人は、自然の脅威に真っ向から立ち向かうのではなく、それをうまく「いなし」て、自然の力を借りて共に生きる智恵を持っていたと指摘しています。

信玄堤

信玄堤周辺広域空中写真。「霞堤」と呼ばれ、あらかじめ間に切れ目をいれた不連続の堤防が浸水を予想されている遊水地により洪水時の増水による堤への一方的負荷を軽減し、決壊の危険性を少なくさせた(Wikipediaより抜粋)

著者は書籍の中で以下のような解説をされています。
自然の力を「いなす」技は、日本人が気性の荒い日本の国土とつき合っていくために生み出した独自の智恵であり、この気まぐれな自然に対抗するには、ただ包容力があればいいというわけにはいかない。自然の猛威をときには受け入れ、ときにかわし、智恵を絞って自然とつき合ってきた。

日本の美しい風景には、理由がある。それをつくってきたのは、皮肉にも「災害」なのだ。そしてその美しさには、「いなし」の心で自然を受けとめ、ともに生きてきた日本人の心の柔らかさも、また映し出されているのではないか。

日本の庭は「座観」、西洋の庭は「俯瞰」でつくられている。こうした日本と西洋の庭の違いは、それぞれが自然に向ける「まなざし」の違いそのものと言える。
日本の庭は外とゆるやかにつながり、様々な役割を持つ多機能な場所であった。そしてその機能をさらに大きく広げたものが、日本が世界に誇れる優れた環境システム「里山」である。

里山ひとつあれば、外部からエネルギーを運んでこなくても十分自立した暮らしができる。すなわち里山は「究極の自立循環の智恵」であり、金融にたとえるなら「元本に手つけず、利息で暮らす方法」なのだ。

茶畑を中心とした春日の里山景観

茶畑を中心とした春日の里山景観

日本人は自然に対する「いなし」の智恵と技を磨き、「庭のある家が集まる里・野良・里山・奥山」という、里山を中心にした風景の後ろ側に自立循環システムを備えた見事な国土や地域の姿を描き出していった。

自然の力を借りて災害の被害を少なくする「減災」の智恵、そしてなによりも災害を乗り越える「克災」の力が、災害と共生せざるを得なかった日本人本来の智恵であり、武器だったように思う。

「景観」をデザインするときには、その先にある「風景」そして「風土」へのつながりまでを考えなければならない。これが「景観十年、風景百年、風土千年」という言葉の意図するところなのだ。

いまここで『いなしの智恵』を読み、日本人が自然と折り合う中で培った「いなし」の智恵を振り返り、次の世代のために「何をすべきか」を考えて欲しいのです。

川尻 秀樹 副学長

川尻 秀樹
森林管理・山の民俗学・林木育種
研究テーマ 山のこと、森のこと、そしてそれを支えた人のこと、興味をもてばそれが研究のテーマになります。常に考え、常に行動する。そうしたスタンスで自然と関係しながら、自分なりの研究テーマを見つけ出していきたい。

 

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