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2019年02月15日(金)

伝えるための美しい線を「建築設計製図」

建築家たるもの1ミリの中に何本の線を引けるかが勝負で……。
というのは昔の話で、今はCAD(Computer Aided Design)を基本する、3D、VR(virtual reality)、BIM(Building Information Modeling)の時代に突入しています。クライアントとの打ち合わせは、全部3D!という会社も増えています。文明の進歩です。
けれども、アカデミーの「建築設計製図」の授業は手描き!なぜでしょう。手描きなんて、いかにも時間がかかりそうだし、消す度に紙が汚れるし、何もいいことなさそうなのに。もしかしてアナログ原理主義!?違います。これには訳があるのです。順を追って説明させてください。

初めての作図は手描きで。

この授業では、ある「軸組模型」を、手描き図面に「戻して」いきます。普通は設計図があって模型ができるのですが、ここでは逆です。実際にそこにある立体を、図面(平面)にする作業を行います。

三次元の軸組模型を、二次元の図面にしていく作業のなかで、図面で伝える力を学ぶことができます。

エンジニア科林産業コース向けの講義ということもあり、全員が初めての作図ですが、平面図、立面図、断面図、伏図を描き起こしていきます。
まずは、線を引く練習。まっすぐ、一定の太さで、等間隔に。紙が真っ黒になるまで練習します。長く均一な濃さで何本も線を引くって、とても難しいんですよ。この作業は、相撲部屋に入門すると初日に「股割り」をするのと同じで、製図をするときに重要なウォーミングアップのようなものなのです。

それが終わるといよいよ作図ですが、その前、知っておくと良いことがあります。
それは「図面は何のためにあるの?」ということです。ここで書くと長くなるので省きますが……教員による講義が終わってから、作図を開始します。

なぜ図面が必要か?みんなで議論しました。

A3の紙に書いていきます。
初めは、線がまっすぐに引けなかったり、柱がやけに細くなったり、苦労するのです。「肩がこる……」「目が疲れる……」という声も聞こえて来ますが、休憩を挟みながら、淡々と描いていきます。
四苦八苦しながらもだんだん慣れて来て、1階平面図を描き終える頃には、2階平面図は半分の時間でかけるようになります。自分の描く速度が上がっていることを実感できるので、大変だけどみんな楽しく作図してくれました。断面図、伏図と進んでいき、図面が揃ってくる喜びもあります。

人に渡すサイズと同じサイズで、確認しながら描けることが、手描きの良さです。

図面は常に「過不足なく、精度が高く、現場で大切にされること」を目指します。

情報が入りすぎても足りなくてもいけないし、不整合があってもいけません。何より綺麗でわかりやすい図面は、建築現場で大事にされます。現場に行った時に、自分の描いた図面に足跡がついていたら、嫌でしょ?

どうしたら、綺麗で伝わりやすい図面になるのでしょうか。それを考えながら、教員からアドバイスをもらいつつ、40時間ほどかけて、手で図面を一式仕上げていきます。
ずっと自分の図面を見て、本当に伝わりやすいか検証しながら、線の濃さを調整したり、汚れていたら字消し板で消しゴムをかけたり、文字の大きさを大きめに書き直して見たり、寸法線を長めに引き出して見たり……葛藤が重なっていきます。

作図開始〜!

そう。これが、手描きで図面を引く一番のメリットなのです。
手書きの図面は、CADと違って、拡大縮小できない「原寸」です。描いていある建物は100分の1サイズになっていても、目の前の紙は「原寸」ですね。どう見てもA3に書いているわけです。これはCAD経験者にしかわからないかもしれませんが、CADだと自分の描いている図の「スケール感」がわかりません。ものすごく拡大縮小できてしまうので。印刷することではじめて、実際に現場で使われる状態(サイズ)になるのです。
これが手描きだと、ずっと目の前に「渡すままのサイズの図面」があるので、「他人がこの図面をみて、どう感じるか」を直に検証できるのです。

図面は「伝達」がもっとも重要な役割です。
どう伝わるか、何を伝えたいのか、もっとわかりやすく伝えるには、どう描けばいいのか?それを検証するには、自分が最初の他人にならなくてはいけません。手描きはその検証工程が早いのです。

かなり綺麗に描けるようになりました。はじめてとは思えない!

みんな集中して描いた甲斐があって、端正な図面が出来上がりました。コピーして見て、ちゃんと線が出ているか確認。現場にはコピーされたものが行きますからね。

CADは必要ですが、手描きが出来る方が、設計が上手になると思います。変な形になってるぞ?とか大きさがおかしいな?とか、そういった間違いも、CADよりも発見しやすいですね。建築士試験も手描きなのは、こういった手描きの重要性が建築業界にまだわずかに残っているからではないでしょうか。手描き時代の建築家は、みんな絵が上手です。

ともあれ、みなさんお疲れ様でした。手描き、続けましょうね。

 

木造建築教員:松井匠