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2018年01月11日(木)

木造建築病理学 その立ち上げの原点

昨日、今日と2日連続で木造建築病理学講座デーです。

この講座は、第一線で活躍されている方を非常勤にお招きして、アカデミーならではの少人数教育でじっくり学ぶことができる非常に贅沢な授業です。

特に今回は木造建築病理学の立ち上げに大きく貢献された中島さん、三澤さんを講師にお招きして、そもそも木造建築病理学とは何?という原点を学ぶことができました。

昨日来ていただいた関東学院大の中島正夫先生は、イギリスで行われている建築病理学を日本に紹介された方で、建物の劣化対策といれば必ず登場される日本における第一人者です。

今回の授業では、主に木造建築特有の腐朽や蟻害対策、基礎劣化について話されました。
個人的に興味深かったのが基礎に用いられている鉄筋コンクリートの害であまり認知されていないけれども非常に重要な硫酸ナトリウムについての話です。日本のような火山国では、硫化物を含む土壌も多く、湿気によって硫酸ナトリウムを形成し、コンクリートの酸性化を促しコンクリートの脆性化と鉄筋を腐食させるリスクがあるとのこと。表土の硫化物は雨などで深くに浸透していくが、切土をして基礎をつくる場合などは、土壌に硫化物が残っていて注意が必要とのこと。

質問時間も盛り上がり、シロアリ対策は中島先生ご自身の住宅を建てるとすると何を使用しますかとの質問に、なるほどという答えがあったりと、実務にも直結する内容でした。

さらに、京都のトヨダヤスシ建築設計事務所の豊田保之さんには、古民家でもよく用いられている土壁の定量的な話や、岐阜で改修された実物件を詳細に解説していただきました。

 

本日は、建築研究所の三浦尚志さんに、断熱・漏気改修の勘所を丁寧に解説いただきました。
日本の省エネ基準を取りまとめられている中心人物ですが、エネルギーの話はほとんどなく、住まい手の健康や暮らしに直結する温熱環境(表面温度、漏気、断熱性能)をどのように改善するかが話の中心です。

ひたすら白板に板書で進んでいきます。単なる答えを話されるのではなく、何を目的に、なぜそれが重要で、何をどう対策するのかといった考え方をお聞きしました。あとは、住まい手や設計者がどのように判断し、実施するかです。

午後からは、森林文化アカデミー名誉客員教授でMs建築設計事務所の三澤文子さんに木造建築病理学の成り立ちとその後の展開をお話しいただきました。
木造建築病理学はアカデミー校舎や美濃市のうだつの上がる街並みなどの劣化対策の視点を契機に、中島先生が紹介されたイギリスのREADING大学の建築病理学の授業カリキュラムを参考に2006年に森林文化アカデミーで開講され、その内容をブラッシュアップされて今に至ります。住宅医スクールなどを展開され、全国の建築実務者の育成にも力が入っています。

最後は、これまで学んだ木造建築病理学の内容を総まとめとして、改修設計プランニング演習です。

要件を把握して短時間の間で各自プランニングして、お互いに発表しあいます。講師で来ていただいた三澤さん、三浦さんからもしっかりコメントいただきました。

自分だけの計画案だけでは見えてこないいろいろな考え方を学ぶ貴重な時間となりました。

今年度の木造建築病理学は今回で最終回ですが、次年度も内容を一新して企画をしていきますのでお楽しみに。

准教授 辻 充孝