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2018年06月11日(月)

審美眼を鍛える11時間のデッサン「デザインするための美術の基礎」

今年度から新しく「デザインするための美術の基礎」という実習がはじまりました。何をするかというと「静物デッサン」です。鉛筆と紙を使って、対象を見たままに描き、11時間で一枚の作品に仕上げます。11時間、長いでしょうか?

開始直後からすごい集中力……

建築と木工に、美術の素養が必要なことはなんとなく想像がつくかと思いますが、「静物デッサン」で具体的にどんな能力が身につくのでしょうか?

この授業は以下の3つを身に付けることを目標にしています。
1、客観的に視る力
……自分のつくったものを客観的に視て、判断する力をつけます。冷静さです。
2、完成度を計る力
……自分のつくっているものが、自分のイメージに近づいているのか、ゴール見据えて、総合的に判断する力をつけます。
3、良いもの・面白いものを見つける力
……良い形、面白いものに気がつくようになり、それをヒントにして、自分の表現の幅を広げていく力をつけます。

「デッサン」はそのための近道です。

描きたいものをどこに描いて、どういう順番で見せるか。慎重に構図を決めて描き始めます。

「エスキース教室」と何が違うの?と思った方もいるかもしれませんが、自室で毎日腕立て伏せを続けるのと、公式戦にフル出場するくらい別の意味があるのです。エスキースは10分でこちらは11時間。モチーフも難しいので、10分では出現しなかった葛藤が必ず生まれます。その葛藤と、一人一人が長時間向き合うことが大切です。

実習が始まる前に、ちょっとしつこいほど「構図」の話をしました。不思議なことですが、”自分の描きたいものを紙のどこに配置するか”で、できたものが「絵」になるか「絵っぽい何か」になるのか、ほとんど決まってしまうのです。一番見せたいものはどれ?次に見せたいものは?その配置を常に全体の印象で決めていきます。これはテクニックというよりは、視覚による感覚を意識的に鋭敏にする訓練です。

中間講評の時点で、自分の絵から出ている「空気」のようなものを認識してもらいます。

個性的な構図がたくさんでました。

一枚一枚、違った葛藤が垣間見えますね。

初日は5時間で終了。中間講評を行い、みんなでお互いの絵をじっと見ます。これが大事。自分が悩んだ箇所を、他の人はどう解決してる?

よくかけている絵に集まります。自分も描いているので人の絵の良い点がわかります。

自分一人でつくった渾身の完成品が並んで置かれて講評される機会は、卒業するとほとんどありません。

そして2日目に完成。完成作品がずらっと並びました。はじめて11時間も描いたという人が大半の中で、みなさん力を出し切ったのがよくわかりました。
「しんどかった……」と言う人もちらほら。それはちゃんと自分の作品と向き合った証拠です。その分よくなっているのです。完成おめでとう。何かをつくり出すという行為の実践経験になりましたね。
見てくださいこの力作!ここに紹介している写真はわずかですが、全員素晴らしい出来でした!正直言って、できた絵の密度に驚きました。

壮観でした!

この授業は秋にもう一度あります。別のモチーフで、次はどんな絵が並ぶか、楽しみです。

 

松井匠(木造建築教員)