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2022年09月12日(月)

薬草の文化に触れる(山村資源利用演習 第2回目)

<2022.8.24>エンジニア科2年・林産業コースの選択科目「山村資源利用演習」第2回目を行いました。

前回の郡上市明宝に引き続き、今回は揖斐郡揖斐川町にお邪魔しました。
今回の講師は、地域に伝わる薬草で事業を展開するkitchen marcoの四井智教(しい・とものり)さんです。

岐阜県の西の端、伊吹山にはその昔、織田信長が薬草園を開いたと伝えられています。その山裾にある春日地域は、いまでも薬草をつかう文化が息づきます。

「山村資源利用演習」は若いエンジニアの学生が、林業だけではない様々な森の恵みを活かす人々と出会い、体験を通して森の可能性を考える科目。まずは、地域の方といっしょに薬草収穫を体験します。・・・といっても、一見ただの草むら?。kitchen marcoのオーナーで薬草生産者の藤田さんと、おなじく薬草生産者の小寺さんは、そこを鎌でかき分けながらどんどん進んでいきます。そして、”草をかき分けている”と思ったのは、実は薬草の収穫でした。

「これはイノコヅチ。これはヤクモソウ。ゲンノショウコウは”医者泣かせ”とも言われています」

藤田さんたちは、瞬間的に薬草を見分け、刈っては束ねていきます。ここに生えているものがすべて薬草と思うと、草むらが宝の山に見えてきます。

お二人に指導を仰ぎながら、徐々に薬草が見分けられるようになってきたアカデミー生。薬草が見えてくれると、どんどん草刈り・・・ではなく、”山の宝”の”収穫”をしていきます。

1時間ほどの作業で、草の束は山盛りに。でも乾燥し、葉を積むと、実際に使うとほんの僅な量でしかありません。

春日地区で使われる薬草の種類は70種類以上とも。そして場所や時期で、採れる薬草も違います。
お二人は春から秋まで、薬草を採る場所をいくつか回り、急峻な斜面を登って薬草を採集をされるそうです。畑に栽培できる野菜と違い、自然の中から野生の恵みをいただくのには、たくさんの人の力が必要だということを実感しました。

薬草採りを教えていただいた藤田さん(右)と小寺さん

お昼は「さざれ石公園」へ。
さざれ石とは、日本の国歌で「さざれ石の いわおとなりて〜」と歌われる、あの「さざれ石」です。小さな石どうしが炭酸カルシウムや水酸化鉄でつながりあってつくられた岩石で、岐阜県の天然記念物に指定されています。
伊吹山には石灰岩が広く分布していて、「さざれ石」の形成もその地質ゆえのようです。またその地質は、伊吹山山麓の豊かな薬草文化を育んできました。

講師の四井さんとさざれ石公園へ

午後は、2021年にオープンした「薬草カフェ まるかる」へ。こちらでアカデミー生は「百草茶づくり」を体験しました。

春日地区では昔から家々で薬草を保管し、人々の体調や気分に合わせてブレンドして飲んでいました。数種類の薬草でつくるお茶を「百草茶」というそうです。「薬草カフェ まるかる」では、数種類の薬草からお客さんが自分で組み合わせて、好みの「百草茶」をつくることができる体験プログラムを提供しています。

普段あまりお茶を飲まず、薬草茶はまだ飲んだことがない学生も多々。薬草の効果が書かれた解説をみながら味を想像し、そして個々の香りを感じながら、自分だけのお茶をつくる静かな時間が流れていきます。

全員自分の「百草茶」ができたところでティータイム。「ぎふコーラ」と、コーラのシロップでつくったシフォンケーキ、そしてジャコウソウが入ったミルクプリンを四井さんが用意してくださいました。

美味しいおやつをいただきながら、四井さんのお話を伺います。Uターンのお話、外に出て気づいた地域の魅力、それを活かそうと当時20代だった同世代の仲間で立ち上げた「ぎふコーラ」のプロジェクトのお話など、地域と一緒に薬草で事業を手がける四井さんの想いに耳を傾けます。

「ぎふコーラ」は2020年、クラウドファンディングを立ち上げ、目標100万円に対して276%という大きな支援を集め、注目を集めました。

健康志向などで、薬草の需要は広がっているとのことですが、課題は担い手。現在の薬草生産者はリタイア後の人がほとんどで、若手で関わるのは四井さんだけとのことです。なぜ四井さんは、薬草に関わろうと思ったのでしょうか??

「昔の人から話を聞くのが好きなんです。一方で、地元の小学生が「ぎふコーラ」のファンとなってくれている。この地域の将来を考えていく時、多世代でとりくめることが大事だと思うんです」と四井さん。

「経済活動を考えると、現代はスピード感が求められます。一方で、ここでは周りの方からは、”コツコツとやることが大事だ”と言われます。自分の取り組みは、地域の人の応援があるからこそできるんです。時代のニーズと地域の事情の間で、今何をすべきか悩みながら、自分の中にしっかり芯を持ってやっていきたいです。」

あらためて四井さんに、春日の魅力について伺いました。
「春日は魅力的なコンテンツが盛りだくさんなんです。薬草やさざれ石。霊峰である伊吹山。”ここに来ると元気になる”、自然のエネルギーに触れられる場所。地域の歴史や、この地に刻まれた時間が生み出すものは、他に変え難いものです」

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最後は学生のふりかえり。今回は学生同士で1日をふりかえってもらい、そのあと全体でシェアしました。

・薬草は聞いたことがあるが、身近ではなかった。薬草をどこでつくっているのか、どうやってつくっているのかを知ることができて勉強になった。
・薬草はイメージが湧かなかったが、やってみたら面白かった。
・薬草を「病気になる前(未病のとき)」に飲むことは知らなかった。
・薬草採りを毎日やっていると聞いて、すごいな、と思った。
・薬草を採る作業をやってみて、おばあちゃんになったときにやりたいと思った。
・地域に根付いてきた薬草文化を、体験で他の人に知ってもらうことはいいと思った。

なかには「薬草が美味しい、と思える大人になりたい」という、はじめて薬草を口にした若者らしい意見も(笑)

貴重な学びをさせていただいた四井さん、春日地域のみなさま、本当にありがとうございました。

准教授 小林謙一(こばけん)