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2022年06月25日(土)

暮らしに根付いたしごとをつくる(ローカルビジネスの担い手に学ぶ 第2回目)

<2022.6.25> 第1回目の郡上市・石徹白に引き続き、二人目の「ローカルビジネスの担い手」は、郡上市の興膳健太(こうぜん・けんた)さんです。


福岡県出身の興膳さんは、大学の時に岐阜県へ。その時に出会った郡上の人の魅力に惹かれ、郡上でこどもたちに自然体験を提供するNPO法人「メタセコイアの森の仲間たち(メタ森)」に就職。同法人の代表になった後、若者狩猟集団「猪鹿庁」の立ち上げのほか、「どろんこバレー」や「全国猪祭り」など、実にさまざまな事業を手がけます。
軌道に乗りはじめた「メタ森」と「猪鹿庁」を後進にゆずり、自身は新たに「郡上里山株式会社」を2016年に立ち上げ、獣害対策や植林の事業化に取り組んでいます。

地域で事業を始める人は多いのですが、誰も手がけていないことを始める”ゼロからイチをつくる”事業家はとても稀です。興膳さんは”ゼロイチ”をつくる超レアな「ローカルビジネスの担い手」として、ぜひ学生が刺激を受けてほしいと、今回講師をお願いしました。


 

早朝、興膳さんの指定場所である、郡上市美並町に全員集合。
あいさつもそこそこに、まずは長良川とその支流である粥川(かゆかわ)との合流点を見に行きます。

前日までの大雨で水量が増した川を見ながら、「何か気づくことある?」と興膳さん。
2つの川の合流点を覗き込む学生からは、「粥川と長良川で、水の色が違う」という声が。

写真手前から奥に流れるのが粥川。奥の左から右に流れるのが長良川の本流

「そう。それはなぜだろう? ”いい山”から流れる川は、大雨でも濁らない。今からその山を見に行きます」
一行は粥川を遡上して、星宮神社へ向かいます。

神社から神事も行われる美しい淵を巡りながら、粥川の森を散策。
「”いい山”がどんな山か、言葉だけで伝えるのは難しい。でもこの森に来ると、気持ちいい。特に、光の変化を感じられる。太陽の角度で、森がイルミネーションになる」と興膳さん。

粥川の森で”いい山”を感じる

興膳さんが仕事を通して出会った粥川の森。自然体験プログラムを通して、こどもたちの素直なリアクションから、いい山、いい森を感覚的にとらえたそう。
そこから15年、山と地域に関わる様々な事業を手がけることになる興膳さん。そのスタート地点になった場所がここでした。

日々山のことや森林のことを学ぶアカデミー生は、「いい山」のあり方について常に学んでいます。科学的、産業的に「いい山」を定義できることと同時に、感覚、感性から「いい山」をそれぞれがとらえ、こどもも含め、多くの人に伝えられることも森林環境教育としては大切だ、とあらためて思いました。

 


 

Uターンの方が開いたカフェでランチをいただいた後は、興膳さんが獣害対策を指導した地域へ。
小那比(おなび)地区では、興膳さんの呼びかけで、70代以上の地域のみなさんが新たに、狩猟免許を取得しました。

その中のお一人は、興膳さんと出会い、免許を取得したことをきっかけに、自分の山に通うようになったそう。それまでは自分の持つ山に行くことはほとんどなかったが、罠をしかけることで自分の山との新たな関わりが生まれ、今では毎日見回りに山に通っているとのことでした。

小那比地区(郡上市八幡町)の猟師さん宅でお話を伺う

 

小那比の後は、大和町へ。延々と山間の道を走り続け、山間地域である郡上市の広さを感じます。

到着した「郡上里山株式会社」があるのは小学校の元分校。NHK朝ドラの撮影も行われた、趣のある建物です。
こちらで一日のふりかえりをしました。


学生のふりかえりは・・・

・外から来た人が、好きでこの地域に住んでいる。郡上には若い人が悩みを語り、刺激しながら成長し合うしくみがある。
・面白いことが起きている地域には、住んでいる人の地元愛が大事なのかと感じた。
・自分はこれまで「好き」や「これがいい」という観点では生きてこなかった。興膳さんなどローカルビジネスを手がける人は、ものの考え方が自分と根本的に違うのではないかと思った。
・興膳さんの「全員を味方にする」という心がけが印象的だった。自分もがんばりたい。
・自分が活動するエリアの人とだけ仲良くすればいいと思っていたが、他のエリアの人ともつながれば、できることが広がると思った。
・興膳さんのしかけるビジネスは、キャッシュポイントの作り方が、多様でかつ長期的。こういうやり方があるのだと刺激を受けた。

などなど。

アカデミー生と興膳さんの熱を帯びたふりかえりは、時間を大幅に超過して続いた

 

それぞれのふりかえりに、一人一人丁寧にフィードバックしていた興膳さんから最後にコメント。

「さまざまな課題を、人のせい、社会のせいにしたくない。自分が住むのは川の最上流部と決めていた。そこに住んで、きれいな水を川下に流す」。そして、「郡上が面白くなれば、自分も面白くなるはず、と思って取り組んでいる。今のモチベーションは雇用を増やすこと」

新たに植林事業を始めた郡上里山株式会社は今、地域の外から人を呼び込み、10人を超える雇用を生み出しています。

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「しごとをつくる上で大事なのは、何かいいな、という感受性。感じることが大事だ。
そして、暮らしとしごとは、本来は暮らしの方が優先されるべきではないか?
都会の人は事業づくりを机の上で考えているかもしれないが、田舎でしごとをつくる時、そこと勝負することはない。
田舎の暮らしの中に、いい、面白い、もったいない、と気づくことがある。そこがヒント。暮らしに根付いたしごとをつくりたい」

・・・ 興膳さんのお話の中で今回、私が印象に残った言葉です。「ローカルビジネス」は、人々の暮らしとその人々がつくる地域社会、そしてこの地域をもっと楽しくしたいというそこに住む人々の愛着が、大切な構成要素になっているようです。
また、そこに飛び込みたいという若者の挑戦を応援できる土壌がある地域こそが、新たな「ローカルビジネス」を生み出す可能性そのものなのかもしれません。

興膳さんから大きな刺激を受けたアカデミー生の面々。これからどんな「ローカルビジネス」と、それらを生み出すローカルに着目するのか、楽しみです。興膳さん、丸々一日講師を務めていただき、本当にありがとうございました!

興膳さんの話を聞いて「郡上の人々に興味を持った。もっと知りたい!」という学生が現れていました。興膳さんが昔仕掛けた「郡上ファン倍増計画」、今も効果が続いていますね?

 

准教授 小林謙一(こばけん)