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2022年11月09日(水)

林業事例調査プロジェクト2日目

10月6・7日に学生4名で実施した視察の報告記事です。

2日目に訪れたのは、新潟県のスノービーチプロジェクトです。ここはブナ林を活用して地域の活性化に取り組んでいます。

「ブナ」と聞くと私は良いイメージしかないのですが、みなさんはいかがでしょうか。明るくて水がいっぱいの森林で、その樹皮には苔や地衣類がたくさん付いている、あぁ素敵…(あくまでイメージです)。しかし日本で使われているブナ材のほとんどはヨーロッパ産だそうです。使われないブナ林は手入れされずに放置されています。なんで?あんなに美しいのに!

…というわけでスノービーチ【雪国のブナ】世話人の紙谷智彦さんにお話を聞いてきました。川上・川中・川下が密接に連携することで、現在では利益にもつながっている素敵な取り組みでした。

 

施業の概要

最初に見学したのは、林床にブナの稚樹が生い茂る間伐後の林です。どこを見てもブナが生えているという珍しい空間でした。ブナの藪!

 

スノービーチ林がある大白川の集落では、森林管理は生産森林組合が担っています。いわゆる森林組合とは異なり、森林を個々人ではなく集落が所有し管理するという仕組みです。伐採などの作業は、ここから森林組合に委託しています。森林を集落のために役立てていくためには、このようなやり方が良いのではないかと紙谷さんは話してくれました。実際に現在の組合長さんは、「100年後も集落の役に立つ森林」を目指して管理を行なっているそうです。

 

施業の概要は、以下の通りです。

・1976 ブナ二次林の初回間伐 

 萌芽している株を1株1本に

・1996 2回目間伐 

 林冠閉鎖時

・2015 3回目間伐・プロジェクト始動

 成長のいい木を残し、直径70-80cmの通直な材を目指す(将来木施業)

・以降、林床に稚樹が育てば(1mを超えたら)ギャップ間伐

 適切に手を入れた結果、年輪幅が1cmを超える、つまり1年間で2cm太くなるほどの成長をしたブナもあったそうです。

 

川上から川下までの連携

このブナ林を集落のために役立てていくためには、林業現場の取り組みだけでは不十分です。プロジェクトでは川中や川下とも連携することを通じて、材の利用にも力を入れています。まずは、もともと欧州のブナ材を利用していた家具業者や木工房に、スノービーチ材を使ってもらいました。最初は伐採も製材もほぼ無償で行なったそうです。製材を担う志田材木店さんは針葉樹のみを扱う製材所でしたが、紙谷さんの話に共感して協力してくれたそうです。その結果、新潟県産のブナも使えるじゃないかという声が広がっていきました。

 

しかし問題があったのは、ダメージ材です。

ブナにはクワカミキリが入った穴から腐朽菌が入ることがあるそうです。そうすると心材の辺りにシミができます。強度上は問題ありませんが、材の価値は下がってしまいます。そうしたダメージ材は、全体の75%を占めるそうです。つまりヨーロッパから入ってくるような真っ白なブナは1/4しかありません。そこでプロジェクトではダメージ材を、生き物が作ってくれたデザインという意味を込めて『生態デザイン』と呼んで活用することにしました。その想いは川下にも伝わり、この名前を使って様々に商品化がされているそうです。生態デザインの製品も見ましたが、通常の真っ白な材よりもカッコよく見えました。ブナは悪く言えば、あまり特徴のない材です。むしろ最近のデザイナーさんには、ダメージ材の方が好まれることもあるそうです。

 

元々はほぼボランティアのようにして始まったプロジェクトでしたが、現在では毎年少しずつ材価を上げて、作業員の給料も上げています。適切なお金を回していくためにはコミュニケーションが大事だそうです。川下にきちんと話をすることで、森林の現状を理解してもらいます。実際に森林にも来てもらうそうです。例えば春の雪上間伐と秋の間伐は必ずスノービーチ関係者に声をかけています。今年の春の雪上間伐には二日間で80人が訪れたそうです。

 

多様性の維持〜ギャップ伐採〜

次に見学したのは、ギャップ伐採地です。スノービーチ林では植生の多様性を維持するために、天然林にあるような20%ほどのギャップを作っています。そこはブナ以外の樹種もたくさん芽生えてきます。ブナは耐陰性が高いため、そのような環境でも稚樹は生きていくことができます。

ギャップ伐採地には、元々周りには生えていないキリも生えていました。台風か何かで遠くから種が飛んできたのでしょう。

用材にならなかった端材や残った切り株も無駄にはなりません。地元の方がナメコを育てるのに利用しています。林業関係者以外も森林と関われる素敵な取り組みだと思いました。

 

なぜブナなのか

そもそも収益を産む林というとスギ・ヒノキの人工林を連想しますが、なぜここでは拡大造林が行われなかったのでしょうか。大白川は5m~7mほどの積雪がある地域です。このような豪雪地では、スギ・ヒノキを植えてもうまく育たないそうです。育たない樹種を植えて無駄にしてしまうよりも、その地に適した樹木を生かしていくことをこの集落は選びました。同様の豪雪地でも、拡大造林を進めた地域もありました。当時は補助金があったため、育たないと分かっていてもスギ・ヒノキを植える方が収益につながったのだそうです。

 

今後の展開

今後は雪の影響による引っ張りアテの根曲がり材の活用を考えているそうです。そもそも根本は立木の最も太い部分です。そこが今はチップになるしかないというのは何とも勿体無い話です。製材時にそこを切断すると狂いが生じるため、繊維を切らずにそのままの形で使えないか模索しています。ベンチの試作などが進んでいるそうです。また林業技術者の育成も必要です。大径ブナの間伐は誰にでもできるわけではありません。さらに、流通経路の確保も課題です。ここのやり方では大量の木材を継続的に出し続けることができないため大手メーカーとの取引は向きません。需要を安定化させるためには小口のお客さんを複数持つことが必要になりますが、そうすると製材屋さんに顧客管理の大きな負担をかけてしまうことになります。

 

おわりに

アカデミーで勉強していると「川上から川下までの連携」という話をよく聞きます。また生物多様性と人間の経済活動を両立していくべきだという話もあります。その重要性をみな理解しているものの、なかなか実践には至っていないのだと私は思っていました。しかしここには、その実践がありました。丁寧にコミュニケーションをとっていけば、みんなが潤う仕組みが可能なのだという希望をいただきました。

 

おまけ

この日は雨でしたが、雨が幹を流れていく美しい風景を見ることができました。

                         林業専攻クリエーター科1年 森  日香留