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2018年09月10日(月)

第3期ぎふ木育指導員養成講座④が実施されました!

第三回の講座が台風で延期になったため、今回の講座が先に実施されました。

今回は「岐阜の伝統工芸と郷土玩具」と題し、企画者として、ぎふ木育指導員の小野敦氏と、鬼頭伸一氏を迎え行われました。

まず、松井勅尚教授からガイダンスが行われました。

「台風の影響で久しぶりの講座となりました。どうか、思い出しながら受けてほしい。」

「木育と言ったときに、多様な視点を持つことを心がけてほしい。本日は皆さん自身の身近な地域や暮らしにアンテナを張りながら講義を受けてほしい。」

とガイダンスが行われた後、講師の小野氏より講義が始まりました。

 

まず、小野氏からの質問。

「伝統工芸と聞いて皆さん何を思い浮かべますか?」

伝統工芸という言葉がとても広い捉え方を含む言葉であることを確認したところで、「伝統的工芸品」について定義を確認しました。

「昔から作られていたものが、必ずしもそのまま作られているわけではない。環境によって今に合わせたものづくりがされている。材料が無くなってしまったり、他の産地から持ってきたり、機械が導入されてしまっていることなどがある。」

「岐阜県は5品目が伝統的工芸品に指定されている。」

「それとは別に、岐阜県が独自に定めている、岐阜県郷土工芸品というものがある。「さるぼぼ」なども入る。郷土工芸品も伝統的工芸品と同じように指定条件がある。一つ一つを指定していくのは大変であることが伺える。」

「郷土工芸品の指定条件として、郷土の風土暮らしを題材としてというのがある。岐阜らしさとは何かを考えると、岐阜は木の国山の国と言われている。天然素材として良質で豊富な木材関連の資源が取れたことがある。そして、水運により尾張(名古屋)、そして江戸に運ばれた。」

「ただ、暮らしが変わって中国から安い製品などが入ってきて、だんだん使われなくなってきている。そこをどうつなげていくのかが課題である。」

そして、小野氏の普段の活動であるグリーンウッドワーク協会についての紹介がありました。

「グリーンウッドワークは人力の木工で、地域の山から材料を持ってきて、伝統的な道具を使って、本格的な木工を行う。実は昔は生業として普通に行われていた木工であり、伝統的産業ともいえる。それが今見直され、新しい木工として楽しまれている。」

 

続いて、同じくグリーンウッドワーク協会竹部会の鬼頭伸一氏から講義がありました。まず簡単に鬼頭氏の自己紹介があった後、鵜かごの現状と鬼頭氏の取り組みをまとめた映像を拝見しました。

1300年の歴史がある鵜飼いにおいて、鵜かごは鵜匠たちにとって無くてはならないものです。鬼頭氏が竹細工を引き継いだ当時、県内には鬼頭氏しか竹細工職人がいらっしゃいませんでした。危機を感じた鬼頭氏は、これまで無かった鵜かごの作り方や設計図を詳細に記録されたそうです。そうすることで、鬼頭氏の後を継ぐ人たちがいなくなっても、作り方がわかるように記録に残したのです。今は、後継者が一人来てくれて一緒に作業をしているそうです。

映像を拝見した後、鬼頭氏のお話が始まりました。まずは鬼頭氏が鵜かごを取り組む事になった経緯から。ものづくり、特に竹に関することがしたいと想い、森林文化アカデミーに入学された鬼頭氏は、アカデミー教員の協力もあり、鵜かご職人から技術を学びました。はじめは鵜匠にかごを納めることも、自信が無くてできていなかったそうですが、今では岐阜県内の多くの鵜匠が鬼頭氏に鵜かごを発注しているそうです。

現在、美濃市の番屋2号館で活動している鬼頭氏。竹林も入手し、ご自身で竹を伐って材料を調達しているそうです。

「鵜かごは淡竹(はちく)を使用しているが、淡竹の純林で材料を取っている。」

「竹は三置き八捨てで、3年目までは柔らかいので使わない、8年目以降は古いので使わないという習慣がある。今竹林にはいのししが入るようになり、筍を食べてしまう。そうすると、その年に新しい竹が生えてこなくなり、後々の材料調達が難しくなる。現在は竹林中を回って使える竹を探している。」

「自分が作れるようになったからといって技術の継承ができるわけではない。」

材料の入手の大変さが伺えました。また竹の処理の違いについても話して頂きました。

「作家や芸術家が使う竹は油抜きをして、腐ったり虫が入ったりしないようにして手間をかけている。しかし、鵜かごの師匠が使っていた竹はそういう処理をしていない。」

「それは鵜かごが生活の中で使うもので、消耗品でもあり、ほころんだら新しく作ればよいものである。そこが違う。」

そして、今後の課題についてもお話をいただきました。

「課題としては、後ろ向きな話しはしたくないが、人材と材料。」

「活動している中で、(ワークショップなどに)参加してくれる人は余裕がある人。ワークショップや製品を作っているが、それだけでは食べていけない。」

「材料も安定的に入手ができていない。場所を広げようと地主に話をしているが、たいてい良いといってくれる人の場所はやぶの状態が多い。そうすると、開拓するところから始めなければならず、かなりの労力が必要となる。」

鵜かごを始めとした竹細工を続けていくことにかなり苦労されていることがお話から伺えました。

続いて、実際に一本の竹を割って、へいでひごにするまでの実演です。

「へぎは一生と言われるが、一生修練が必要な技術ともとれるが、できるようになれば一生ものの技術である。」

実際に受講生の皆さんにもへぎを体験して頂きました。鬼頭氏はなんでもないように手早く行っていらっしゃいましたが、実際にやってみると均等にへぐことは難しく、受講生の皆様は改めて職人の技術のすごさを体感されていました。

 

 

さて、午後は受講生の皆様が持ってきた郷土玩具のスピーチから始まりました。皆様、持ってきてくださった玩具について、1分間でその魅力について伝えて頂きました。様々な郷土玩具を魅力的に発表していただき、大いに盛り上がりました。

それを受けて、再び小野氏の講義です。

「伝統工芸は昔からの技術がつながり、材料、人もつながってできているものである。郷土玩具もそういった伝統工芸に含まれる部分がある。」

「郷土玩具の由来は、藁や竹など身近なもの、その辺のもので遊んでいたということから始まっている。そこから手に入りやすい材料を用いて、風物や信仰を象った素朴なもの、願いや占い、そのような想いが詰まったものだといえる。」

また、郷土玩具から連想される言葉として、お土産という言葉の起源をお話くださいました。お土産は、神社の配り物という由来から発展し、その土地の産物を持ち帰るという風習につながり、現代では、修学旅行のお土産やコレクションにつながります。そういったものの一つとして、削りかけが紹介されました。この削りかけには、願いや想いが込められていることがわかりました。

「この削りかけは慣習化した。現在作っている人たちになぜ作り続けているかと聞くと、先祖が代々作ってきたからと答え、なぜ止めないかと聞くと自分の代で止めると先祖に申し訳ないからと答えたそうである。そこが日本人らしい。そうやって、現在まで受け継がれてきたと思われる。そういった部分が郷土玩具にも共通している事ではないだろうか。」

「削りかけに使われてきた木は、身近にある木である。先駆種でもあり、生命力があることの象徴ともなっていた。また木工や、家づくりには使われなかったので残っていたという理由もある。また特別な用途のためにとっておくという祭りの木という理由もあった。そこに山と人との関わりが伺えて面白い。」

そして、全国各地の郷土玩具について紹介して頂きました。それらはどれも動物を象った玩具であり、人々の想いが込められていることが伺えました。動物を象った玩具は実は日本だけのものではありません。ドイツにもライフェンドレーエンというおもちゃがあります。またドイツの削りかけに近い郷土玩具として、シュパーンバウムというおもちゃを紹介してくださいました。そのように海外にも想いや願いが込められた郷土玩具があることを講義していただいた後、実際にライフェンドレーエンを作る実演をして頂きました。受講生の皆様も実際に製作を体験します。

 

皆様、かわいい玩具を作れることにとても盛り上がりました。尻尾をつけて、色をつけるところまで、わいわいとにぎやかに製作を行いました。

 

さて、ライフェンドレーエンを作り終わった後は、恒例となりました、ふりかえりの「木育カフェ」です。今回の講義を受けて、身近な地域の文化の課題や、今後どのように伝統工芸や郷土玩具を伝えていきたいかを話し合って頂きました。

皆様からは、身近な地域文化の課題として、

「お祭りで太鼓をたたく担い手がいない。」

「獅子舞の羽織る布の替えが無い。作り手も材料もなく、昔の重みが出せない。」

といったことがあがりました。

また今後どのように伝えていきたいかということについては、

「子供と親とで一緒になって、手を動かすということはどういうことかを学んでもらう。小さい頃からやることで、後々に振り返れる。」

「本の読み聞かせをしている子供はとても情緒が育っている。そういうことを親に広めていきたい。」

といった意見を出して頂きました。

最後に松井教授から、

「なぜ、木育指導員養成講座にこの回を入れているのか?身近な材料を使うこと、これも木育につながるという視点をもってほしい。」

という言葉で今回の講座は締めくくられました。

次回は台風で延期になってしまった講義が、9月17日、24日に実施されます。

クリエーター科 2年 若林知伸

 

なぜ、木育指導員養成講座にこの『伝統工芸と郷土玩具』というテーマを入れているのか?全国各地で開催されている木育の研修では、あまり見られない研修テーマであると思います。

アカデミーは、現地現物を重視し、地域の課題に向かって来ました。目の前にある素材を使い暮らしをつくる・・・その、当たり前の暮らしの中で作られたモノで、今残っている、残したい・・・という人の想いが伝統工芸や郷土玩具であります。

岐阜県は薬箪笥に例えられるほど、文化の多様性があります。

ぎふ木育指導員には、その多様な引き出しを開けてほしいのです。それは木材であるとは限りません・・・

そんな祈(き)を込めた回でありました。

講座主任 松井勅尚