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2017年11月10日(金)

狩猟は野営動物管理のツールである

 『日独林業シンポジウム2017』の獣害対策担い手育成分科会、本日はドイツにおける狩猟・担い手対策、日本の獣害対策の現状と課題、求められる人材について発表とパネルディスカッションを開催しました。

 

 

ロッテンブルク大学のRainer Wagelaar教授が、「ドイツにおける狩猟」と題して、(1)狩猟システムについて、(2)現在の動向と問題点、(3)ロッテンブルク大学の教育システム、について2時間講演されました。

 

 ドイツでの狩猟は、1848年を境に大きく変わりました。それ以前の狩猟は貴族の特権でしたが、革命によって土地所有者に狩猟の権利が認められるようになった。

 狩猟権」と「狩猟実施権」との違い

  ドイツでは狩猟は財産(土地所有)とリンクしているが、75ha未満の場合には、自動的に共同狩猟区画に振り分けられ、狩猟組合への強制加入が課せられる。土地所有が75ha以上ならば、「雌雄狩猟区画」となる。銃の免許は18歳になれば取得できる。

 

 銃狩猟者の人口は男性93%、女性7%で平均年齢は57歳。男性についてみると38%が65歳以上で、18歳~34歳の若手はわずか9%です。

 女性についてみると、男性とい違って18歳~34歳13%で、35歳~44歳は26%と若い人が多い。これは自分の可愛がっている犬を猟犬として育てたい女性が多いことも影響している。

 

 ドイツでも狩猟に抗議する都市住民は多いが、自分が身に着けているものいや口にするものについて考える都市住民は少ない。次の絵のように、革の靴を履き、毛皮のコートを着用して、革のハンドバックを持った女性がジビエ肉を買いに来たのに、ハンターが持ってきた野ウサギを見て、「なんと残酷なことをするのか?」と問いかける。

 

 

 ドイツでも野生動物による交通事故は年々増加し、2015年には6億5300万ユーロの損害が発生している。

 地球温暖化問題では蹄を持った大型野生動物は生息数を増加させる勝ち組で、それ以外の小型野生鳥獣は減少傾向にある負け組です。

 

 ノロジカはジグザクしながら確実に増加している。アカジカは急激に増加している。イノシシも顕著な増加傾向にある。

 

 

 それに対して、野ウサギやキジは激減している。これは農業の機械化が進んだことによるとか。天敵が増えたとか。昆虫類の減少とかが影響している。

 

 

 フォレスターは野生動物管理も任されており、財産である立木の管理は重要項目であるが、立木の幹の大半に角研ぎ跡が残っているフィールドもあり、フォレスター自身が十分な役割を果たしていない。

 

 

 ロッテンブルク大学は1300haの演習場所があり、農地が500ha、森林が800haあり、毎年学生70人、教員10人が参加し、ノロジカは年間90~145頭、イノシシは20~40頭捕獲している。

 

 データはコンピュータ管理され、インターネットで評価できるようになっている。多く狩猟される場所が赤く表示され、狩猟効率の良い場所と狩猟しにくい場所が一目瞭然なのです。

 

 

 また狩猟に用いるハイシートの位置や予約がスマートフォンで予約管理できるようになっており、日にちや時間を決めて確保できる。

 

 

 午後からは兵庫県立自然・環境科学研究所の横山真弓教授による「獣害対策の現状と課題・求められる人材について」のプレゼンです。

 

 先生は(1)日本の獣害の現状、(2)被害対策の3原則、(3)獣害に求められる人材育成、についてお話しされました。

 イノシシやシカによる農作物被害は年間140億円(以前は200億円あった)で、2016年の環境省報告の捕獲頭数はイノシシ55万頭、シカは58万頭に及んでいます。

 

 なぜここまで生息頭数が増えたのか? (1)個体数の問題、(2)生息地の問題(過疎地の増加)、(3)加害行動の問題、が複雑に絡んでいる。

大正時代から昭和初期は海外に輸出する毛皮を確保するため、乱獲されて野生鳥獣は激減した。

 

 

 被害対策の3原則は、(1)防護柵の管理の徹底、(2)捕獲(山間部でも手を抜かず)、(3)誘引物の除去・追い払い、これに+ バッファーゾーン整備。

 対策は柵を設置することから始まるが、なぜ効果が上がらないのか

 

 

 シカもイノシシも柵の下側からもぐり込むことで効果が無くなる。

イノシシがもぐり込んだ跡を利用してシカも侵入する。

 

 

 シカは農地で被害を発生させているように思われがちであるが、実際には大半は山の植物を食べている。山村の過疎化で人間の住む地域が狭ばる中、野生動物の生息域は拡大している。

 

 

 獣害に求められる人材育成では、様々なレベルの人材が広域でつながることが重要で、そのための人づくりが肝となる。

 

 

 県や市町村職員の研修、地域リーダー育成研修、セミナーなどを年間約200回実施し、すでに65万人以上が研修を受講した。

 最近は集落参加型捕獲によって、地域住民が積極的に野生鳥獣に立ち向かっている。

 

 

 続いて、岐阜大学応用生物科学部の鈴木正嗣教授のコーディネートで、Rainer Wabelaar教授、横山真弓教授、岐阜森林管理署の松嶋克彰総括地域林政調整官、(有)根尾開発の小澤健司社長、郡上里山(株)の興膳健太社長によるパネルディスカッション。

 

 最初にドイツのベリープラスチック社のザトラーさんが、ワーゲラ教授に質問。

 

 

 また、パネリストからの要望で、ドイツのロッテンブルク大学の森の女神が、狩猟免許を取得して狩猟している理由について語りました。

 

 

 岐阜県森林技術開発・普及コンソーシアムを代表して小澤社長が厳しい山の現実と、自社社員の狩猟免許取得、社員による捕獲罠の見回りなどについて、詳細を説明されました。

 

 

 鈴木先生からは、(1)日本ドイツの共通点と相違点について触れられ、ドイツも日本も狩猟者の高齢化は進んでいる共通点がある。

 相違点としては、日本は狩猟管理と土地の管理が分離しているのに対し、ドイツは一緒になっている。

 「森林の保護・再生コストは、シカの個体群を適正に管理し、低密度に維持することで削減される

 またドイツの狩猟免許取得には、系統的なトレーニングを含む充実した内容が提供されていることも解説されました。

 

 最後に、「野生動物管理の観点を持った捕獲」が重要であり、狩猟は野生動物の管理ツールであるとも述べられました。

 

 さて、今回の分科会は岐阜県が林業施策の一環で、林業・林産業界の方々によって結成された岐阜県森林技術開発・普及コンソーシアムの活動ありきのことです。そこに岐阜大学や林野庁など多くの方々の協力のお陰で実現できました。

 ドイツに学ぶことで、コンソーシアム会員や岐阜県下の林業関係者にとって有効な獣害対策に結びつくことを期待しています。

 

 以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。