活動報告
2017年02月22日(水)

教員リレーエッセイ3:次の世代につなぐ木造建築とは

辻 充孝(木造建築)

■建築は机上ではなく現場でつくるもの

私が大学で建築を学び、現場に出たのはもう20年も前のこと。大学では意匠を中心に学び、かっこいいデザインを模索していました。
そして、設計事務所に就職後、直面した困難さは、職人さんとのやり取りです。大学では書いたこともない実施図面を、慣れないながらも先輩の図面を参考に必死に描いていました。しかし、現場監理で問われるのは実際にどうやって納めるのか!!という厳しい言葉。
今にして思えば、細かな納まりや木の組み方を十分検討できないまま、大工さんと打ち合わせをしていたのですから当然です。まったく返す言葉もありません。
何とか、現場の納まりや考えを理解しようと、昼休みに大工さんを捕まえては、怒られながら図面のどこが悪いのか聞き出そうとしました。口の悪い(本当は優しい職人さんが多いですが)大工さんの言葉にめげながら学ぶのはとてもしんどかった経験があります。
アカデミーの卒業生には同じ経験を踏んでほしくないと、1年生のメインのカリキュラムに自力建設という設計から施工まで自ら行う教育プログラムがあります。この経験によって、小さい建築ながらも実施図面をまとめ、一通り施工します。設計や工事、監理の勘所もわかります。
素人なりにも一通りの大工加工もできますので、「こうすればこうできますよね。」と大工さんと同じ言語体系で話すことができる「現場力」を養っています。すでに活躍している卒業生の自信の源になっています。

↑2016年度自力建設建て方の写真

■今の時代、建物性能を明確にすべき!!!

皆さんは「ZEH」、「LCCM」、「長期優良住宅」という言葉を聞かれたことはありますか。これらは、これから求められていく住宅の姿の一部を示しています。
ZEH(ゼッチ)というのは、ゼロ・エネルギー・ハウスのこと。国は2030年には、全ての新築住宅の居住時エネルギーをゼロ(光熱費もゼロ)にしようと目標を掲げています。
LCCMとは、ライフ・サイクル・カーボン・マイナス住宅のことで、ZEHの次の段階の住宅です。居住時のみでなく、建設時や解体時なども含めて炭素排出をトータルでマイナスまでもっていく住宅で、全国ではすでに何棟も実現しています。
ZEHやLCCMは、なかなか高い目標ですが、現在積極的に進めているのが長期優良住宅です。劣化対策。耐震性、省エネ性、維持管理、バリアフリー、可変性など10項目の指標を一定条件以上クリアした住宅で、短命だった日本の住宅を長寿命化していく取り組みです。大手ハウスメーカーや地域で頑張っている工務店はすでに標準仕様になっています。
私が建築の世界に入った20年前はそこまで性能のことを意識していませんでしたが、阪神淡路大震災を受けて構造の説明責任の観点からも性能の明確化が必須の時代にはいり、現在ではヒートショックなどの健康被害の低減(医療費の削減)から温熱性能なども注目を集めています。
これから建築関係で仕事をしていくには、様々な性能を定量的に評価し、きちんと説明する技術は必須です。
アカデミーでも、私の専門の省エネ性能や温熱性能以外にも、耐震性能や防耐火性能など、自ら目標を建てて、定量的に計算するスキルを学びます。少人数教育だからこそ、じっくり学べます。

↑少人数で設計演習を行っている様子

■建築は総合力+α

建築は様々な事柄や性能を整理してデザインしていく作業が続きます。得意分野の温熱性能だけとか、地域材を使っているとか、単純な売りだけでは説明できませんし、信頼も勝ち取ることができません。総合力が必要です。
しかし、総合力だけでもだめで、自分の強みが必要です。強みが無いと、人口減少社会のこの過酷な業界で仕事を勝ち取っていくことができません。
私も構造性能や劣化対策など、基本以上の知識や設計力を持っているつもりですが、その上で、温熱や省エネ性能では、だれにも負けない自信があります。
卒業生にもこの自信を持ってほしくて、毎日の授業で総合力を上げつつ、課題研究で自らの強みを磨いてもらいます。実際、卒業生になると、私もかなわないレベルまで高まっています。

↑本学の構造試験場で合わせ梁の曲げ試験をしている様子(課題研究)

■これからの木造建築に求められること。

これまでは華やかな新築建築が中心でしたが、これからは既存住宅をどう活かすかが重要になってきます。国の施策でも長期優良住宅化リフォームなど、様々な既存住宅の改修を推進しています。
2020年の東京オリンピックに向けて、古民家を改修して、宿泊施設を増やし、インバウンドを見込むなどの取り組み検討が始まっています。本学でも古民家リノベーション事業プランニング講座を開講したり、木造建築病理学という授業で、改修を体系的に整理したりしています。
この古民家や昔からある住まいや庭が日本の特徴ある豊かな街並みを形成しています。そこにしかない素材、土地の特徴を活かした屋根や形態、その土地で産出される素材で作った統一感のある景観など、いかに魅力を残すかが、これからの建築業界に求められることだと考えています。

↑古民家リノベーション講座の現地での打ち合わせの様子

今年度,まだ入試を受けるチャンスがあります(3/13まで願書受け付けます)。この記事を見て興味を持ったあなたのご応募をお待ちしています!


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