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2017年04月03日(月)

ドイツ名物?ハイシート 独BW州狩猟・獣害対策視察報告(その2)

ハイシートって何?

ここで言うハイシートとは、ドイツ語でHochsitz、直訳すると高い座席。獣を待ち伏せするための狩猟台のことです。ドイツの狩猟シーンを語る時、必ず登場するといってもよいのが、このハイシートではないでしょうか。

ドイツ国内を移動すると、郊外の畑や森林内、いたるところで見かけることができるはずです。テニスの審判台のよう小さなものから、高さが5mを超す櫓に物置を載せたような大掛かりなものまで、実に様々なタイプがあります。

ボックス付タイプ

演壇タイプ

 

ドイツでは、国土の約9割に猟区が設定されているとのことで、猟区では、そこの狩猟権を得た者が占有して狩猟することができます。そのような状況があるため、猟区の権利者が、自分たちの猟場を管理する中で狩猟をやりやすいようにあらかじめ猟場の整備を行うことが一般的で、ハイシートの設置もその一つというわけです。

日本でも、猟区が設定されることはありますが、多くはありません。ちなみに、岐阜県では、H28年度現在、猟区は1箇所だけ、面積は約7.5㎢と僅かです。

基本的には、鳥獣保護区など法律で制限された区域や立入禁止区域でなければ、誰もが自由に狩猟を行える状況にあります。また、臨機応変に場所を変え狩猟をすることが多く、見知らぬ人の土地に立ち入ることもあるため、むやみに森林に手を加えたり、ハイシートのような施設を設置するようなことは、通常は行われていません。

魚釣りに例えるなら、日本の狩猟が自然河川での釣り、ドイツの狩猟は、施設の整った管理釣り場での釣りといった感じになるでしょうか。

ハイシートでの狩猟

ハイシートを使った狩猟は、獲物が活動し始める前に、こっそりとハイシートに登り、息をひそめて待機し、餌や塩による誘因や勢子に追い出された獲物が現れたところを撃つというものです。

ハイシートは、複数ある中から、風向き、まき餌への寄り付き状況等をみて選択し、また、ハイシートへの移動が、密かに行えるよう、あらかじめ通路の落ち葉かきまでするとのことです。

そこまでするなら、よほど獲物との出会いがあるのかと思いきや、5回の猟で、せいぜい1回チャンスがある程度で、寒中、長時間待ったあげく、身じろぎひとつで感づかれてしまうケースも少なくないとのことでした。

狩猟の盛んなドイツだけに獲物の警戒心も強く、密度も薄いのかもしれませんが、なかなか忍耐力を必要とする猟法のようです。

さて、このハイシート、高い位置に上がるのは、視界確保のためと思われる方も多いと思いますが、実は、それだけではありません。確かに、畑のように開けた場所では、高い位置に上がることで視界も広がるのですが、林内では、必ずしもそうとは限りません。下の写真を見ていただくと、わかると思いますが、林内では視点が高くなると、木々の枝が視界を遮ぎり、むしろ視点が低い方が林内を見通せることもあるのです。

 

ハイシートからの視界 視点の高さは約4.5m 枝が邪魔をして林内の見通しはむしろ悪くなります。

地上からの視界 視点が下枝より低いと林内もある程度見通すことができます。

それでは、なぜ、ハイシートを使うのか?それは、狩猟時の安全確保の目的があるためとのことです。

銃猟で、最も気を付けなければならないのが、誤射と流れ弾です。 射撃位置をハイシートに限定すれば、ハンターがむやみに猟場を歩き回ることがなくなり、誤射をする、あるいは、される危険を減らすことができます。また、ハイシートからの射撃は、必然的に撃ち下しになるため地面がバックストップ(安土)となり、流れ弾が起こりにくくなるというわけです。

ハイシート自体も、互いが射界に入らないように配置位置を考慮し、必要となれば、林内に目印を付けるなどして射界を制限します。

ロッテ大実習林のハイシート配置図。845haの実習林に71基(なんと1km四方当たり8.4基)のハイシートが、まんべんなく、安全に配置されている。

ハイシートの安全面でのメリットを説明するワーゲラー先生

日本でも使える?

このハイシート、ドイツの狩猟環境を背景に発達したものだけに、日本の一般的な狩猟シーンに、そのまま当てはめるのは、難しいかもしれません。しかし、安全面への配慮など、学ぶべき点も多いのは確かです。

例えば、奥地の造林地で、シカ害に悩まされている林業事業体さんが、自力対策やハンターを積極的に招き入れるための狩猟環境整備の一環としてハイシートを設置したり、 狩猟と切り離したところでは、森林環境教育ツールとして使ってみたりと、案外、面白い使い道もあるかもしれません。

とりあえず、アカデミーで1つ、2つ作ってみようと思います。

現地で、ハイシート製作マニュアルを手に入れることができましたので、あとは、手伝ってくれる学生さんが見つかればOKです。

一見すると、有り合わせの材料で、作ってあるようにも見えますが、そこは、さすがにドイツ。 材料の寸法や釘の打ち方、また、木材の腐朽対策まで、事細かに解説したマニュアル本が用意されています。 過去に、いい加減な作り方や管理不足が原因で、倒壊事故が多発し、こうしたマニュアルが作られるようになったとのことです。

以上、報告は伊佐治でした。

つづく