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2017年02月21日(火)

教員リレーエッセイ2:造林用の苗作りの二つの大きな流れ

玉木 一郎(林業)

 

私の専門は森林樹木を対象とした集団遺伝学です。この専門や趣味?の園芸の知識を活かし,本学では林木育種や育苗に関する授業を行っています。今回は造林用の苗作りの業界で起きている,二つの大きな流れについてお話しようと思います。その二つとは「コンテナ苗」と「地域性種苗」です。

1)コンテナ苗

本ブログでも何度か紹介していますが,キチンと説明するのは初めてかもしれません。コンテナ苗とは,プラスチック製の沢山の穴があいたコンテナに植え付けられた苗のことです。コンテナ苗は普通のポット苗に比べて何が良いかというと,穴の内側に縦長の突起(リブ)があり,根が巻かずにまっすぐ下に伸びる点で優れています(最近ではリブの代わりにスリットが入ったものもあります)。宙に浮かして育てることで,下に伸びた根は穴の底でとまります(空中根切)。

これに対し,従来から畑で育てられて,根がむき出しの状態で山に持っていく苗のことを裸苗(または畑苗)と呼びます。コンテナ苗は土の付いた状態で山に持っていってそのまま植えるため,根を痛めること無く植えることできます。そのため,植栽適期でない時期でも,それなりの活着率を得ることができます。この特徴を活かし,最近では,伐採・搬出後に,搬出に用いたシステムを用いてコンテナ苗を運搬し,すぐに植栽することで大幅なコスト削減を計る一貫作業システムも検討されるようになってきました。その他のメリットとしては,植え替えの手間が要らないこと,地下部が充実すれば時期を気にせずすぐに山出しができること,連作を気にしなくて良いことなどがあります。

良いことづく目に見えるコンテナ苗ですが,デメリットもあります。最も大きなものはコストです。現状では,裸苗の倍近くになっています。また,コンテナや潅水設備に初期投資もかかります。コンテナ苗はここ10年くらいの技術なので,育苗方法が完全に確立しておらず,模索の段階にあることも事実です。しかし近年では,県内の育苗業者でもコンテナ苗が大量に生産されるようになってきました。先日,学生と見学に行った先では,むしろ裸苗のほうがおまけのようになっていました。

本学では,エンジニア科の実習で育苗の実習があり,そこでは主に畑で裸苗を育てているのですが,一昨年からコンテナ苗の生産も開始しました。この春には,学生たちが育てたスギ・ヒノキのコンテナ苗が演習林に植栽される予定です。昨年からはコナラ属やクリなどの広葉樹のコンテナ苗づくりも始めています。今後の報告をお楽しみに。

2)地域性種苗

地域性種苗とは,その地域に生育している個体から採取した種やそれから作った苗のことを指します。もともとスギ,ヒノキ,アカマツ,クロマツでは,1970年から林業種苗法で種苗配布区域が定められており,地域性種苗が使われています。しかし,それ以外の樹種では,そのような決まりは無いため,例えば九州産の苗木が関東に植えられるとか,北海道産の苗木が東海地方に植えられるとかいったことが許されています。

このように苗木を産地から離れた地域に植栽することは,どのような問題を引き起こすのでしょうか? 1つ目は,植えた苗木自身がその環境に適しておらず枯れてしまう可能性があること。2つ目は,仮になんとか育ってしまった場合に,遺伝子撹乱をひきおこしてしまうこと。遺伝子撹乱とは,外来集団からの遺伝子が在来集団に浸透することで,在来集団がもともと持っていた環境に適応している遺伝子のセットをくずしてしまうことで,集団の衰退をまねく可能性があります。

ではどこまでの移動であったら問題にならなさそうなのでしょうか? そのヒントは,遺伝的地域性にあります。日本の樹木の全てではありませんが,ここ10数年の間に,数十の樹木で遺伝的系統関係が調べられてきました。系統関係が近い場合は,環境不適合や遺伝子撹乱の問題は小さいかもしれません。2015年に文一総合出版から「地図でわかる樹木の種苗移動ガイドライン」という本が出ました。この本では,これまでに明らかになっている50種近い日本の樹木の遺伝的地域性が日本地図上に示されています(私も一部を分担執筆しています)。

最近では,高速道路の緑化の際にも地域性種苗が用いられるようになってきています。地域性種苗の欠点は,同じ樹種でも,地域ごとに苗をつくらないといけないことです。しかし,この問題は,発注の際に樹種を指定するのではなく,地域にあった苗を指定するといった,発注側の意識改革で解決できることかもしれません。

山に木を植えるということは,善意から生じた行いだと思いますが,一つ間違えると,むしろやらない方がマシになってしまいます。善かれと思ってやったことが,過ちになってしまわないために,本学でしっかり学んでもらいたいと思います。来年からはクリエータ科でも林木育種の授業が始まります。こちらもお楽しみに。

 

現在,日本の森林は円熟期を迎えています。伐採の後には植林の需要があり,そこでは今回紹介した苗が必要とされるはずです。本学のクリエータ科で林業や林木育種,育苗について学び,新たな時代の山づくりに携わってみませんか? 今年度,まだ入試を受けるチャンスがあります(3/13まで願書受け付けます)。この記事を見て興味を持ったあなたのご応募をお待ちしています!