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2026年08月24日(月)

【アニュアルレポート2025】堤防草地群落に生育する希少種の保全について

 我が国では、生物多様性の保全に里山の自然が大きく関わっている。里山の自然は弥生時代に大陸から稲作が伝来してから昭和30年代に至るまで、人が生活で必要な資材を周辺の自然から得る際に起こる人為的撹乱を原動力として植生遷移の進行を止め、維持されてきた半自然であり、適正な規模・頻度の撹乱により生物多様性が高い。里山の自然は大きく森林、水田、草地の3つの要素により成り立っている。

このうち草地に関しては、阿蘇をはじめとする大規模な採草地に多くの種類の草本植物が生育することが知られている。盆花として知られ、秋の七草でもあるキキョウ、オミナエシ、カワラナデシコをはじめとして、絶滅危惧IB類に指定されているヤツシロソウなど多くの草本植物が生育する立地である。これらの草地で生物多様性が高いのは、牧野組合による火入れ等の管理によって遷移の進行が防がれ、良好な状態に維持されてきたことや、管理面積が広大であるため、種の絶滅危惧のリスクが小規模な採草地と比較して小さいことが関係しているものと思われる。しかし、現在では組合員の高齢化による人手不足や、畜産業の衰退、配合飼料の普及などにより、草地の管理目的が失われるなどの問題を抱えている。一方で、日本の草地は牧場や家畜飼料、屋根葺き材などのための大規模採草地だけで構成されている訳ではない。たとえば、水田の畦は、個々にみると小規模だが、地域で見ると相当な面積になる。また、河川堤防草地は、国土交通省による管理で大きな一級河川であれば相当な面積が毎年定期的に刈り取られている。これらの半自然が生物多様性の保全に果たす役割は小さくないと考え、16年間にわたって河川堤防の植生を各務原市の木曽川河川堤防にて継続調査してきた。

その結果については、昨年度のAnnual Report 2024 で報告した。その中で、調査地には岐阜県で準絶滅危惧種に指定されているイヌハギ(Lespedeza tomentosa)が生育していることを報告した。草刈りの時期と頻度を変えて行った刈り取り試験によれば、イヌハギの保全のためには、国土交通省によって行われている年2回の管理ではなく、年1回の管理が適当であることが示された。その後調査地は堤防道路への取り付け道路の建設により舗装され消滅することが決まったため、イヌハギをはじめとする絶滅危惧種や、堤防草地以外では比較的目にすることの少ないいくつかの種を堤防の他の場所に移植した。本報告では、移植後にイヌハギ等の移植した植物が定着したかどうか、経過を調査した結果について報告する。

移植の対象としたのは、イヌハギ、タヌキマメ、オトコヨモギ、メガルカヤ、ウシノシッペイの5種である(表1)。タヌキマメ以外は多年生であるので、地下部が移動させた土塊に入っていれば移植先で定着する可能性に期待して、生育場所の土壌ごと移植した(写真1)。タヌキマメについては種子を含む土壌ごと移植を行った。

写真1 移植の様子

 

移植した植物のうち、翌年に生育が確認できたのは、メガルカヤ(写真2)とイヌハギ(写真3)の2種であった。どちらも9月には結実したが、それは移植地のみ開花前である6月時点の除草を行わなかったためであると考える。ウシノシッペイとオトコヨモギは残念ながら発芽が確認できなかった。同じ堤防草地内を継続的に調査することで、残存個体を発見できないか、引き続き調査を続けたい。タヌキマメは植え替え時に種子が散布された後であったため、移動させた土塊に種子が入っていなかった可能性も考えられる。同じ堤防で100mほど離れた場所で開花個体を確認したので、種子を採集、発芽させて苗を作ったうえで、植栽試験地に植え戻すことも可能であるので検討したい。

写真2 メガルカヤ

写真3 イヌハギ

 

 移植時に移動させた土塊には、多くの植物が含まれていた。これらの植物は地下茎や根茎、埋土種子などの植物体から発芽、更新が可能である。オオフタバムグラについては、土塊を重機で移動させた際の撹乱で埋土種子が多数発芽したものと考えられる。オオフタバムグラは植物高が低いため、移植した植物と光を巡っての直接的な競合はないと思われるが、オオキンケイギクの持つアレロパシーや、コセンダングサのような比較的高茎の草本による被陰などには注意が必要である。絶滅危惧種のイヌハギについては、以前の研究でも被度を増やすには年に1回の除草が適していることが分かっており、開花期を外すのであれば、秋の除草のみにした方がよいと考えられる。完全な定着が確認できるまで、引き続き経過を観察する。

 

教員からのメッセージ

身近な自然にも、時には貴重な生物たちが暮らしていることがあります。気づかなければ通り過ぎてしまうような道ばたの草たちも、長い年月継続してきた草刈りのおかげで生き延びてきたのかもしれません。四季を通じて同じ場所を観察することで、生きものの様々な暮らしが見えてくると同時に、そこに生育する理由が見えてくることがあります。移植による保全は一筋縄ではいきませんが、試行錯誤しながら地域の自然を守っていく必要があると考えています。生きものの生態を知ることは、保全の第一歩です。生物多様性の保全に向けて森林文化アカデミーでも実践を積んでいきたいと考えています。

 

森林環境教育専攻 教授 柳沢  直