遊び続けるための責任(ローカルビジネス 授業レポート1)
<2025.12.22-23>「ローカルビジネス」をテーマに、郡上市と下呂市で、一泊二日の実地授業を実施しました。
本授業では、自然資源や観光を軸に地域で事業を展開している方々から直接話を伺い、地域経済と人の営み、自然との関係について理解を深めることを目的としています。
2日間の学びを、森林環境教育専攻1年生の髙木杏菜さんがレポートしてくれました。3回に分けてお届けします。
<教員 小林(こばけん)>
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まず訪れたのは、郡上市美並町の「円空の湯」。一度閉鎖された温泉を復活させるべく、地元の経営者6人が集まり、出資をして新会社を設立。クラウドファンディングも募り、2025年12月にリニューアルオープンしました。
昨年の授業では、美濃加茂市のリバーポートパークでお話を伺った水口 晶(みずぐち・あきら)さん。今年は新たに、「円空の湯」を運営する(株)ENKUUU(エンクウ)の代表にも就任されました。
ここからは、高木さんのレポートでお届けします。

長良川鉄道の駅と直結する温泉施設「円空の湯」
<レポート第1回目 (株)ENKUUU 代表 水口 晶さん>
水口さんの事業におけるテーマは『人と自然の再生』だ。
お話を聞いてすぐ、真剣な声色で語られた印象的な言葉がある。
「地域に、廃墟をつくってはいけないと思っています」
この一言で、水口さんがテーマにかける思いの強さと重みが、ずっしりと伝わってきた。美濃加茂市のリバーポートパーク、ラフティング体験、郡上市の円空の湯、さらには薪ボイラーを利用したエネルギー施設──長良川の川上から川下までをひとつの統合型プラットフォームとして捉え、並々ならぬエネルギーをローカルビジネスに注ぐ経営者の哲学を垣間見た気がした。

水口晶さん。(株)ENKUUUのほか、多数の肩書を持つ
けれど、終盤で語られた水口さんの“ほんとうの動機”は、意外なほどシンプルなものだった。
「楽しいがすべてです。ずっと遊んでいたいんですよ」
30年前の郡上の川を訪れたという水口さん。そこで出会った「きらきらしていた川」に、一目で心を奪われたという。
郡上に住み、魚類が豊富な長良川で釣りを楽しむなかで、次第に川が悪くなっていく現実にも気づいた。
「川を治すには、やっぱり山だな、と」
そう考え、川上にあたる山での事業を行う決意をしたという。だから、水口さんの掲げる『人と自然の再生』という言葉には、30年間川に浸り続けてきた人だからこそ抱く自然への愛着と、現実を変えたいという実感が静かに込められていた。

「遊び続けたくてやってるんです」
そう語る水口さんだが、大学卒業後すぐに起業し、移住者としてはじめて郡上市の商工会青年部長にも就任した、生粋の経営者でもある。その水口さんが「この人なら協力してくれるやろな」と信頼する人たちに声をかけ、閉鎖された温泉施設は「円空の湯」として再スタートを切った。
地元有志に出資を募り、運営会社を立ち上げ。地域の有形・無形の文化財を返礼品としたクラウドファンディングでは、目標額の138%を達成し、着実にリニューアルへの土台を築いていった。一方で、温泉施設は市から無償で貸し出される代わりに、ボイラーなど、施設の修繕や修理に係る費用はすべて自分たちで負担しなければならないという、厳しい条件付きだった。
「どう計算しても、ハードルが高いなあという案件でした。正直怖いな、と」
そう語りながらも、水口さんは続けてこう言う。
「自分の中で、“怖い”はGOサインなんですよ」
あまりに自然体なその一言に、聞き手としては(こころの中で)思わず、あんぐりと口をあけてしまった。同時に、ひどく好奇心をくすぐられた。常識を超える言葉は、ときに人のこころを一気に動かす力を持っている。

インタビューする髙木杏菜さん
水口さんは、『人と自然の再生』というテーマのなかで、円空の湯を「人の再生」の事業として位置づけていた。そこで事業の軸に据えたのが「食」である。
関市の韓国料理を提供する人気カフェにフランチャイズとして出店してもらうことで、温泉利用だけでなく“食事目的”の来訪者にも開かれた導線を設計した。地元の人からは、温泉で定番のうどんやカレーが食べたいという声もあったというが、それは同じ地域にある道の駅に委ねる形にし、地域に必要な経済圏をつくることを理想とした。
その結果、収益比率は温泉と食事が半々という、めずらしい業態が成立するに至った。

食事スペースは韓国スタイルの料理を提供
水口さんが今後注力しようとしているのが、「地域の学校への支援」である。長良川でのアクティビティの楽しさや、自身が愛してやまないアウトドア活動を、次の世代の子どもたちに伝えたいという思いから、将来的には小中一貫校で「アウトドアクラブ」を創りたい、と語っていた。
「遊び続けるにはどうしたらいいかを考えている。そのためには仕組みが必要です」
ただし・・・と水口さんの言葉は続く。
「自分の“楽しい”だけだと、お客さんとのズレが生じるから、マーケティングとして、そこは慎重にすり合わせています」
“好きなことを仕事にしたい”と、きっと誰しも一度は思ったことがあるだろう。水口さんの話を聞きながら、それは経営者としての責任とリスクマネジメントとの緊張感があってこそ成立するものなのだ、という実感が残った。自由には責任が伴う ── そのことを体現する姿には、独特の深みがある。

地元のデザイナーが空間やディスプレイをてがける
水口さんの軸にあるのは、一貫して「楽しいかどうか」という遊び心のある判断と、いつまでも遊び続けたいという童心だった。
そんな水口さんが、なぜ温泉名に「円空」を選んだのか──。その話もお聞きしたかったのだが、
「語り始めると2時間かかる」
と笑って仰ったので、今回はいったんここで切り上げることにする。(髙木)