ドイツサマーセミナー2025報告①
今回は、昨年9月に実施されたドイツサマーセミナーについて2回に分けて報告します。
サマーセミナーとは、本学が連携協定を結んでいるドイツの南部 バーデンビュルテンベルク州に位置するロッテンブルク林業大学校と、同じように連携協定を結んでいる日本の大学(岩手大学、鹿児島大学など)と共同参加するセミナーで、ツアー形式でドイツの林業・森林空間活用などに関する講義や現場、施設などを1週間程度で巡ってくる夏の特別セミナーです。
今年度は、9/15~21の7日間で実施され、エンジニア科の学生2人が参加しました。今回はそれぞれの学生さんから当日の様子について報告していただきます。
—-以下、エンジニア科1年生東太朗さんの報告です。
9/15 Bad Wildbad(自然公園)
サマースクールの1日目は、ドイツ南西部・バーデン=ヴュルテンベルク州にあるBad Wildbadから始まりました。この施設は、シュバルツバルト(黒い森)の奥深くに位置する自然公園です。ここで特に印象に残ったのが、TreeTopWalk(空中回廊)です。樹冠近くの高さに設けられた木道を歩きながら、普段は地上から見ることのできない視点で森を観察できます。森を「見上げる」のではなく、「森の中に入り込む」ような感覚でした。

空中回廊までにも色々な体験があり、学生も教員も大いに盛り上がりました
シュバルツバルトは、かつて放牧地として利用するために皆伐された歴史を持っています。約200年前から植林が進められましたが、当時は成長の早いドイツトウヒが多く植えられたため、林内が暗くなり、「黒い森」と呼ばれるようになったそうです。現在では、生物多様性を重視し、ブナやナラ、マツなど、さまざまな樹種が植えられています。また、TreeTopWalk(空中回廊)の途中には、学びながら楽しめる工夫がたくさんありました。例えば、モミの樹皮を実際に触れる展示があり、写真や解説とあわせて特徴を学べます。さらに、森に生息する動物とその足跡をクイズ形式で学べるコーナーなどもあり、子どもから大人まで飽きずに楽しめる仕組みが整えられています。

施設内の樹木の紹介コーナー

森に生息する動物とその足跡をクイズ形式で学べるコーナー
回廊の最後には高さ40mのタワーがあり、そこからはシュバルツバルト一帯を一望できます。周囲の町がどの方向にあるのかを示す表示もあり、方位磁針のように景色を楽しめるのが印象的でした。

高さ約40mのタワー、当日は風が強くて中止になっていましたが、天候が良い日は頂上から滑り台で滑って降りることもできます

周囲の町がどの方向にあるのかを示すパネル
また、公園内はマウンテンバイク専用コースも整備されており、「危険だから禁止する」のではなく、「どうすれば安全に楽しめるか」を考えて設計されている点がとても印象的でした。多様な人が、それぞれの関わり方で森を楽しめる場所だと感じました。

公園内はサイクリングを楽しむ人、家族で散歩する人など、さまざまな人が利用していました
9/16 Hochschule Rottenburg(ロッテンブルク林業大学)
2日目は、ロッテンブルク林業大学を訪問しました。ここには約1,150人の学生と32人の教授が在籍しており、学生の約半数が海外留学や海外インターンを経験しています。林業を中心に、さまざまな専門分野を学べる国際色豊かな大学で、規模の大きさに圧倒されました。

ロッテンブルク林業大学校の校舎

ハイン先生によるロッテンブルク林業大学の紹介やドイツの森林・林業に関する講義
演習林では、ロッテンブルク林業大学のハイン先生に案内いただくとともに野外講義を行っていただきました。演習林内にはダグラスファーにデンドロメーター(樹木の直径を計測する装置)や土壌水分センサーを設置し、気候変動による成長への影響を調べる実験が行われている場所がありました。乾燥などの環境変化が樹木の成長にどのように影響するのかを、長期的に計測しています。
ダグラスファーに装着されているデンドロメーター
この地域は、氷河期に堆積した黄土が多い土地で、肥沃な土地のため木が根を深く広げない傾向があり、乾燥の影響を受けやすい特徴があります。これらの見学を通して、立地条件と樹木の生育の関係を、現場で実感できました。

土壌の断面は、毎年実習にてロッテンブルク林業大学の学生が一生懸命掘っているものです
ドイツでは狩猟がフォレスターの重要な仕事の一つとして位置づけられており、ロッテンブルク林業大学でも狩猟教育が行われています。学生は、大学が所有する約900haの敷地内で、ライセンスなしに狩猟を行うことができます。若いハンターを育成し、獣の個体数管理を行う仕組みは、獣害や猟師の高齢化が進む日本にとっても大きなヒントがあると感じました。ドイツの猟期は9月から1月とのことで、学内の解体施設にて、実際にイノシシが吊るされているところを見学することができました。


学内にある解体処理場、この日はイノシシが吊るしてありました
9/17午前 Lotharpfad(風倒被害地)
3日目午前に訪れたのは、州ナショナルパーク内にあるLotharpfadです。ここは、1999年12月のサイクロン・ローターによって被害を受けた地域の一部で、約10haが当時のまま保存されています。

岩手大学の真坂先生による公園内の説明
この災害では、合計で約2,700万㎥もの森林が被害を受け、約2兆円の損失が出たとされています。被害が拡大した大きな要因の一つが、ドイツトウヒの一斉林でした。一斉林は災害リスクが高く、この出来事が多様な樹種による森づくりへと転換するきっかけになったそうです。倒木の周囲では、新たな木々が芽生え、少しずつ森が再生していく様子が見られました。自然の回復力を間近で感じることができ、日本の急傾斜地の多い森林では、より一層広葉樹の重要性が高いのではないかと考えさせられました。

公園内を歩いていると、所々で当時の名残を感じることができます
9/17午後 Echtle(製材所)
三日目午後に訪れたのは、Echtle製材所です。もともとは、農家が冬の間に伐った木を製材するために建てられた製材所で、現在は3代目の社長のもと、最新設備が導入されています。
この製材所では、半径50km圏内から集められた大径木のドイツトウヒやモミの下から5mの部分を中心に、年間約45,000mを製材しています。ドイツでは大径木を扱う製材所は少なく、このような施設は非常に珍しいとのことです。

操縦者が小さく見えるくらい重機も丸太も非常に大きいものばかりでした
製材機はオペレーター室から遠隔操作され、4方向からカメラで材を読み取り、節を自動的に除去します。鋸は両刃式で、作業効率が大幅に向上しており、安定した生産体制が整えられていました。

オペレーター室の様子、両刃の鋸で従来の倍近い製材が可能になりました
敷地内には、製材時に出る廃材を利用したセントラルヒーティング用ボイラーも併設されており、エネルギーを無駄にしない仕組みが構築されています。森林資源を余すことなく使い切る姿勢に、強い印象を受けました。

周辺の集落へもエネルギーを供給しています
—ここまでが、東さんの報告
今回のサマースクールの報告を通して、ドイツの森がとても開かれた存在であることが伝わってきました。森は「特別な場所」ではなく、学びの場であり、仕事の場であり、そして多くの人が思い思いに楽しめる場所として、大切に使われていることが印象に残ります。
空中回廊から見た森の景色、大学で行われている実践的な学び、風倒被害をそのまま残しながら再生を見守る森、そして木を最後まで使い切る製材所。どの場面にも、「森とどう付き合っていくか」を考えてきた人たちの工夫や積み重ねが感じられました。
危険だから遠ざけるのではなく、どうすれば安全に、長く使えるかを考える姿勢は、日本の森林を考えるうえでも、たくさんのヒントを与えてくれます。遠い国の話のようでいて、実は私たちの身近な森ともつながっていることに気づかされます。
今回の体験で見たこと、感じたことが、これから森を見る目を少しだけ変えてくれる。そんなきっかけになれば、この旅はきっと意味のあるものだったのだと思います。
これらの実習の様子は、アカデミーの学びの一端になります。
アカデミーの学びについて知りたい方は、YouTubeにてオンライン講義のアーカイブ配信を行っています。
興味のある方は、こちらをご覧ください。
林業専攻 中森