美術館の企画展で木育ワークショップを行いました
先の日曜日(12/21)に、岐阜県現代陶芸美術館で現在開催中の企画展「タピオ・ヴィルカラ ー 世界の果て」に合わせて、木育ワークショップを行ってきました。

森林文化アカデミーは、岐阜県現代陶芸美術館や、美術館が入っているセラミックパークMINOと連携して、過去にもたびたびワークショップや講座を行っています。これらは時には学生が企画者となり、プログラムを実践を通じて学びを深める機会になっています。今回は教員の研究の一環として、卒業生の協力も得ながら美術館でのワークショップを行ってきました。
「タピオ・ヴィルカラ」はモダンデザインを代表するフィンランドのデザイナーです。そのデザインの対象はガラスのほかに磁器、銀食器、宝飾品、照明、家具、紙幣、グラフィック、空間まで広く及びます。彼のデザインの特徴の1つとも言えるのが、自然の造形を作品に落とし込むことです。今回の展示会でも氷柱をモチーフにしたグラスやきのこをモチーフにした花器などが展示されていました。

氷柱をモチーフにしたグラス
彼が好んでオブジェを作った手法に「リズミック・プライウッド」という積層合板を使った表現があります。今回のワークショップでは、ヴィルカラのこの手法をなぞって、自分の中の「表現」や「作りたい」という気持ちに向き合う時間を組み立てていきました。プログラムのタイトルは『けずって、みがいて、森から生まれる私のかたち ~ヴィルカラに学ぶ素材との対話~』です。

リズミック・プライウッドの作品を集めた展示室
10時30分
プログラム冒頭、まずは学芸員さんによる企画展のアートツアーを行いました。
今回の企画展では、最初の展示室にヴィルカラのリズミック・プライウッドの作品が並びます。ここで、積層合板の表現やヴィルカラのもの作りへの向かい方を参加者それぞれに感じる時間を持ちました。

展示の入り口、アートツアーより
11時20分
企画展を見て回った後は、いよいよ製作の時間です。
まず材料を配る前に、少しヴィルカラが見ていたであろう森の姿についてお話をさせてもらいました。
フィンランドは日本と同様、世界でも有数の森林率(約73%、日本は67%)を誇る国です。その一方で、森を構成する樹種はマツ、トウヒ、シラカバが大半を占めており、少し足を踏み入れれば100を超える樹種に囲まれる日本の森とは、その様相は異なります。
ここで参加者の方に1つの問いを投げてみました
「ヴィルカラが日本の森を見ていたら、先ほど見たような作品が生まれたでしょうか?」
ここまでお話をしたところで、参加者の皆さんに事前に私が作ってきたリズミック・プライウッド(岐阜県バージョン)から、好きな材料を選んでもらいました。準備した合板は全て岐阜県産の広葉樹、ブナ、ケヤキ、エンジュ、ヤマザクラ、ホオを組み合わせて作ったものです。

岐阜県産のリズミック・プライウッド
ここからは黙々ともの作りに向き合う彫刻の時間です。
まずはアイデアスケッチを紙に描き。
糸鋸で板をその形に切り出したところで、いったんお昼休みに。
13時
ナイフやノコギリを使って、立体的な形を作っていきます。

大まかな形ができてきたら、木彫やすりで形を整え。

14時~15時
紙やすりで表面を磨き上げ、オイルを塗って完成です。

簡単に書いてしまいましたが、これらの作業にお昼休みを挟んで2時間半。実際には、お昼休みも作業を進められている方も多かったので、それ以上の時間を作ることに向き合ってもらいました。
形を作るのが難しいところや、道具の使い方がわからないところは私達もサポートしつつ、それぞれの作品作りと素材に向かい合う時間を過ごして頂きました。

15時が来て、まだ時間が足りず完成まで進められていない方もいらっしゃいましたが、ここで全員の作品を1度、みんなでシェアする時間を持ちました。全員の異なったそのかたち1つ1つに、それぞれがどんな思いをもって、どんなことを考えながら作り上げたかを聞き合うことで、完成形の見た目だけでは無い、もの作りの面白さや表現の奥深さを感じる時間となりました。

15時20分
作品のシェア、気持ちのシェアが終わったところで、1度、ワークショップとしての時間は終了に。でも、残り少しの時間、作品をもう少し作りこんでみたり、まだ作品に塗れていなかったオイルを塗ったり、参加者どうしでおしゃべりしたり。それぞれにもの作りの余韻を楽しむ時間が流れていました。

作品をもう1つ、作ってみる姿も
後日、参加者の方から感想を書いたアンケートを頂くことができました。
そこには、作品作りに没頭する時間の心地よさ。ワークショップの中での会話や交流を楽しんで頂いた様子や、日本の森の木ならではの、種類の多さや色や木目の違い、それを利用できた事がよかったという気付きについての言葉が並んでいました。
木を通じて、良い時間を過ごすこと。
また、身近な森に思いを馳せるような体験を、アカデミーでは木育のかたちの1つとして、研究と実践のテーマにしています。
岐阜県内には、ありがたいことに実験的なプログラムやワークショップにチャレンジさせて頂けるフィールドがいくつもあります。学生や卒業生達が、このようなフィールドを活かして、多様な木育プログラムが展開していく、その道作りの一助として、プログラムに関わっていけたらと思います。
ご参加頂いた皆さま、プログラムの実施に際してご協力頂いた皆さま、ありがとうございました。
岐阜県立森林文化アカデミー
木工専攻准教授 前野 健